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6 復讐のわけ

復讐神使徒全書について、一通り読んだ。

昔、イステナ様の使徒が晩年に書いた本で、

何をどうしたら良いかわからない後進のために書いてくれた本であった。

内容は基礎訓練、強化訓練、使徒座学、使徒の心得の4教科。

基礎訓練、強化訓練では訓練内容と訓練達成の基準が示されている。

午前中は訓練に充てている。

体を動かすので、疲れるが、訓練に達成の目標値が示されていて、

達成度合いが実感でき、とても楽しい。

目標値を達成できた時など、イステナ様に褒められるので、さらに楽しい。


午後はセーフハウス近辺の見回り兼、食料探し。

スキルの索敵と隠密を常時発動して、スキルを強化している。

セーフハウスの周りには強い魔物は住んでいないが、

たまにオーガなどが侵入するので、油断できない。

食料はヤム芋と鶏、魚、キノコ。

鶏は最初は狩るのに苦戦した。

今は体力と敏捷性が向上したため、発見できれば、確実に狩れる。


最初は食うや食わずだったが、最近の食事はかなり充実している。

ただ、塩が入手出来ていない。

塩がないため、味が薄く、物足りない。

何とかして塩を確保したい。

ただ、ナジ村には近づけない。

俺の生存が敵にばれた場合、戦いとなるだろう。

そういう危険はおかせない。


    *    *


ようやく、ユートの記憶と向き合う余裕ができた。

復讐に至る経緯を探った。

ユートの知性が幼く、俺が推察、補強した部分もあるが、概ね正しいと思う。


遡ること1年前、ユートの母エレナが夫役(労働で納める税)として代官家の下働きとなったことから始まる。

婦人は手紙の代筆と読み上げを母に命じていた。

あるとき、一部の村人の間で噂が立った。

噂は「代官家が人頭税を胡麻化している。村民の人数を過少申告している」であり、

噂の犯人としてユート一家は代官家から敵認定された。

代官家の人間から、母に対して、いじめが始まった。

たまらず、父グレンが代官家に赴いた。

どのような事を話したか不明だが、グレンはそのまま帰らなっかった。

行方不明になってしまった。

代官家にも聞いたのだが、「来ていない」の一点張りであった。

半月後、父の死体が見つかった。

畑の土手に埋められていた。

体には剣で切られた跡があった。

財布が剥ぎ取られていたため、代官家は盗賊の仕業とした。

盗賊が死体を埋めるはずがない。

代官家の人頭税胡麻化しの噂はずっと以前から広まっていた。

たまたま、代官家が噂に気づくのと、母エレナが夫役になるのが同時期であった。

代官家は噂の犯人を探した。

調べても犯人は分からなかった。

代官家は噂を打ち消す必要に迫られた。

誰でも良いので犯人が必要であった。

代償は死という恐怖で、噂を抑え込むため。

ユートは母に村から逃げようといった。

だが、ユート一家には逃げられる場所がなかった。

父を失った一家では決断できなかった。

ユートが決断できれば良いのだが、ユートはこの時点で9歳、肉体も精神も幼すぎた。

母は度重なるいじめで、精神を衰弱させ、遂には病気となった。

母の役夫の期間はまだ残っていた。

ユートが母の代わりに役夫を務めた。


代官家には双子の兄弟がいる。

長男のピーター15歳、長女のマリア15歳。

代官である父の補佐を務める。

二人ともそろってクズである。

優斗が見ても、どう教育したらこんなクズが育つのか理解できない。

ピーターは立場の弱い女や意思の弱そうな女を見つけては性欲のハケグチとしている。

ただ相手の年齢にこだわらない点はクズとして筋を通している。

マリアは我儘、どんな手を使っても我儘を通す。

逆らったりすると、代官家の私兵を使って折檻する。

多くの下働きが傷つけられた。

このためか、代官家には少女は寄り付かない。


ある時、兄弟から3本の鍵の複製を命じられた。

鍵本体ではなく、2枚の粘土板で鍵を型取りしたもの、粘土板は乾いて硬くなっていた。

この粘土板の鍵の窪みに合う鍵を樫の木から削り出して作れ、との要求であった。

ユートは手先が器用で、難なく鍵を作った。

後で分かるのだが、1本は代官執務室、もう1本は執務室の保管庫の鍵、最後は宝箱の鍵であった。


鍵の事など忘れたころ、夜、代官家の私兵がユートの家に来た。

私兵は窃盗の罪で、ユートと母を捕縛しに来たのだ。

代官家のユートの荷物の中に、執務室、保管庫、宝箱の鍵が見つかり、それが証拠だという。

明日到着する商人キャラバンの奴隷商に母子ともに売るという。

私兵は「親子水入らずで、最後の夜を過ごせ」と言って引き上げていった。


母は泣いていた。

ユートは考える。

母は病気だ。

逃げられない。

奴隷商にも売れないだろう。

もう末路は決まっている。

僕が母さんを送ろう。


奴らには仕返する。

まづ、悪だくみの証拠がないか探そう。

なければ、娘のマリアの命を頂こう。

少しは痛みを感じるだろう。


「母さん、黙って奴隷落ちなんてしない。

僕、戦うよ。負けるかもしれないけど、戦う。

父さんの分も仕返しする。

母さんの分も仕返しする。

だから、安心して」


母を寝かせ、ユートは行動に移る。

家財道具をまとめ、村はずれの林の藪の中に隠す。

一度に運びきれないので2報復した。

時刻は既に深夜、やや明け方に近い時刻。

ユートは母に最後の別れを告げるため、枕元にいった。母は寝ていた。

母を起こさぬよう小声で語りかける。

「母さん、奴らに仕返しするために今から行きます。

もうここには帰って来ません。

これが最後です。

母さん、今までありがとう。

母さん、愛してる。

今、楽にしてあげる」


この後、ユートはどうしたのか。

ユート記憶から爆発的な悲しみ、怒り、苦しみが流れ出す。

その感情の記憶にさらされ、優斗はいたたまれず、

訳のわからない叫び声をあげる。

何度も何度も。


家を後にし、ユートは代官家に向かう。

使用人勝手口から侵入する。

常夜灯の火種をランプに移し、執務室に向かう。

ユートは鍵を作るとき、同じものを2本作っていた。

その鍵を使って執務室と保管庫に入る。

保管庫には宝箱が3個あり、箱を開けた。(宝箱は同じ鍵で開いた)

1つ目、2つ目の宝箱には金貨や宝石があったが、3つ目の宝箱には帳簿とおもわれるノートが2冊。

表紙には「n人頭税台帳」「n地租台帳」とある。

執務室の机の引き出しを調べると「人頭税台帳」「地租台帳」があった。

4冊を布に包む。

悪事の証拠かどうか分からないが、とりあえず、これに賭けよう。

もしこれが役に立たなかったら、次はマリアを狙おう。


執務室を出て使用人勝手口に向かう。

ランプを消し、勝手口から出たところで、使用人小屋から「ドロボー、誰か来て」と女性の声が響く。

ユートは裏門から逃走し、村はずれの茂みに隠れた。

まだ夜明け前だ。

暗くノートを読むことができない。

1時間ほどして明るくなり、「人頭税台帳」「n人頭税台帳」を比べると数字が異なる。

悪事の証拠である可能性が高い。

代官家を裁けるであろうエスペリアン公爵に届けよう。ユートは公爵の住む領都に向かう決意をする。


早朝、ユートは人気のない街道を領都方面に歩く。

ユートは油断していた。

追手は後ろからくると思い込み、後ろを警戒していた。

だが、追手は先回りして、街道に網を張っていた。

ユートは追手の奇襲を受け、死亡する。


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