5 優斗、叱られる
転生から2週間たった。
俺は順調に行動プランを消化し、ほぼ完了した。
体力も完全に回復した。
今はナジ村西方の岩石地帯でセーフハウスを作成している。木の枝とつる草、干し草でベッドを作れば、今日にも完成する。
岩場地帯には1週間まえに到着し、まず、セーフハウスを作成可能な場所の調査。
そして一番、都合が良いこの場所を選定した。
セーフハウスは洞穴で、岩場の崖、高さ3mに入り口がある。
崖の前の木を上り、枝伝いに移動すると入り口にたどり着く。
崖の前の木、枝葉が入り口を隠しているため、入り口は発見しづらい。
入り口は直径1.5m、中に入ると教室ほどの広さの空間がある。
入り口と反対側、上方には狭いが明り取りとなる隙間があり、中は明るい。
昨日、夕食の準備をしていた時、突然、洞穴の中央に光が差し、光の中からイステナ様が現れた。
俺は礼を尽くそうと、イステナ様の前で膝まづく。
イステナ様の顔をみて、緊張が走る。
イステナ様は怒っておられる。
表情に怒気はない。
だが、玲が俺を殴る時の表情と同じだ、俺には判る。
玲に鍛えられたおかげで瞬時に対処できた。
純真なまなざしで、イステナ様を見つめ、全てをゆだねる気持ちで頬を差し出した。
イステナ「優斗、何か言うことはありませんか」
2週間も連絡とらなかったのはまずったか。
転生のお礼もしていないし、最低でもこちらから連絡しないとまずいよねー。
気になっていたんだけど、イステナ様への連絡方法知らなかったしなー。
よし、ここはトボケよう。
噛まないよう、ゆっくり話す。
俺「転生、無事できました。
ありがとうございました。
現在はユート君の復讐を行う為、準備しております。
準備が整いましたら、ご連絡しようと思っておりました」
イステナ様は驚くほど強い口調で「なりません! 」と一言。
「私は転生の後、あなたを見守っていました。
何たるていたらく、あまりに恥ずかしく、
途中で見ることを止めました。
あなたに私の使徒を名のる資格はありません」
俺にも言いたいことはある。
しかしだ、転生後の行動はかっこ悪かったのも事実、
2週間連絡を取らなかったのも事実、
ここは大人の対応でいこう。
俺「俺も恥ずかしかったです。
イステナ様の使徒として恥ずかしくないよう鍛えます。
だからユート君の復讐、俺にやらせてください。
それに、イステナ様に、どうしたら連絡できるか判らなくて、
転生のお礼、言わなきゃと思ってたんだけど、ごめんなさい」
イステナ様の表情が緩んだと思う。
山は越えたか。
イステナ「あなたのように、出来の悪い使徒を導くのも私の仕事。
優斗、これを与えます」
俺の前に1冊の書物が現れる。
書名は「復讐神使徒全書」とある。
イステナ「使徒としての訓練方法が書かれた書物です。
それを読んで、訓練しなさい。
技術、体力はすぐには身につかないでしょう。
しばらくの猶予を与えましょう。
必ずや、使徒にふさわしい力を身につけなさい。
力を付けたその時、ユートの復讐を命じます。期待していますよ、優斗。
ただし、罰として私が許すまで、『イステナの使徒証明』を使うのを禁じます」
イステナ様の表情、口調が優しい。
それにです、イステナ様、それ罰じゃなくて、ご褒美です。
俺「ありがとうございます。
頑張ります。
それで、その~、イステナ様に報告するにはどうしたら良いんでしょう」
イステナ「祈りを込めて私の名を唱えなさい。
気が向いたら現れます」
気が向いたらですか。
イステナ様は正直者だった。
* *
俺は毎日やることを決めた。
午前中は使徒の肉体的訓練、午後は食料調達、雑務、
夕食後は使徒に必要な理論、心得等の研究、
就寝前はイステナ様へのお祈り。
訓練の進捗状況により、臨機応変に組み換え、
イステナ様に報告がてら、問題点やアドバイスをお願いしよう。
本だけでなく、先生とかも手配してくれるかもしれない。
今まで後回しにしてきたが、そろそろ、ユートの記憶とも真剣に向き合う必要がある。
しばらく、夕食後の時間はユートの記憶と向き合う時間に当てよう。
ユート、お前が満足する復讐をするからな。
もう少し時間をくれ、俺がんばるからな。