3 転生
イステナ「優斗に与える肉体についてお話します」
話の腰を折ることになるが、
どうしてもお願いしたいことがある。
話に割り込んだ。
「イステナ様、お願いがあります。
失う前の肉体と同じ容姿が良いです」
イステナはすこし後悔した。
使徒にする前に、優斗に与える肉体について、
正確に伝えるべきだったと。
「私には新たに肉体を作ることはできません。
あなたに与える肉体はアレフギアに生まれた少年の肉体です。
普通に健康な肉体です。
足が3本とかないから安心しなさい。
ただ、肉体の容姿は変えることはできません。
ここまではよろしいですか」
魂だけでは、玲に会えない。
外見が変わるのか、玲には「転生した」と言えばいいか。
少年の外見は玲ごのみかな。
違ったら怒るよな。
どのみち殴られるか。
もし玲が勇者になってたら、俺、殴られるだけで死ぬかもな。
俺「その子に転生したとして、心は俺、その子、融合?」
イステナ「心は優斗です。
ただ、少年の記憶は引き継ぎます。
長い少年の伝記を読み終わった後、そんな状態です」
俺「俺がその子の体を奪うのでしょうか」
イステナ「その少年はすでに死んでいます。
死の直前、私と少年は復讐に関する契約を結びました。
私が復讐を行う。
対価として、少年は肉体を提供する。
そういう契約です」
俺「でも、その、俺、アンデット嫌です。
腐った死体とかやです」
イステナ「私も嫌ですよ。
腐った死体の使徒なんて。
少年の肉体は死の直後に保護しました。
魂さえ定着させれば、いつでも蘇生できます。
普通に成長し、成人できます。
人として人生を全うできます」
俺「分かりました」
イステナ様は少年について説明してくれた。
少年の名はユート、年齢は10歳、
アンダシア王国のエスペリアン公爵領ナジ村に住む。
父は代官一家の姦計にはまり、殺害された。
代官一家は残された母とユートにも窃盗の濡れぎぬがかける。
一矢報いるため、ユートは代官家の裏帳簿を盗むが、逃亡に失敗し、殺される。
時はここで止まっている。
俺「では、ユート君が殺された直後、俺の魂がユート君の肉体に転生、俺がユート君の後を引き継ぐと。
ユート君を殺したやつもその場にいるんですよね」
イステナ「はい。出だしから全力で行きなさい」
俺「転生すると全回復しますか」
イステナ「転生すると全回復?そんなスキルはありません」
俺「戦闘系のスキル、追加でもらえませんか」
イステナ「使徒へのスキル付与は7個と決まっています。追加できません」
俺「ユート君の状態を確認できませんか?」
イステナ「分かりました」
イステナ様がユート君の状態を頭の中に流してくれた。
場所は森、幅3mほどの道、舗装されていない。
俺と、俺の周りには4人、4人が敵。
ユートの後方15mに男女各1名、こいつらは厚手の本を拾おうとしている。
剣は抜いていない。鞘の中。
ユートの後方2mに男1名、抜刀、ユートを追いかけている。
ユートの左斜め前方1mに男1名、抜刀。
ユートは前方に倒れかけている。
武器はなし。
左胸に剣を突き刺した跡、そこから流血。
俺「ユート君の状況は把握できました。
ユート君、大ピンチなんですね。
プランを考えます。
転生は後で良いですか」
イステナ「決心がついたら、声をかけなさい」
どうだろう。
これは無理ゲーだろう。
勝利条件は「武装した敵4人から武器無しで生き延びろ」。
死に戻りなし。
HPもたぶん1、一発、食らったら死ぬ。
もしかしたら、移動するだけでも死ぬ。
活用できる特典も非戦闘スキルのみ。
俺の命がかかている。
最善を尽くそう。
まづ、「戦う」か「逃げる」の選択では「逃げる」一択、俺には戦闘能力がない。
逃げる方法だが走って逃げる、いわゆるダッシュ。
逃げる方向は前、右側は藪が深く逃げられない。
逃亡しやすいよう、転生と同時に察知で敵を俯瞰する。
隠密を発動し俺への認識を阻害し、見失わせる。
同時に、誘導で後ろの敵は「後ろの仲間から声をかけられた」と勘違いさせる。
左側の敵は「魔物に背後から襲われた」と勘違いさせる。これで逃亡する時間を稼ぐ。
ダッシュ中にHPがなくるのを防ぐため、常に自身を鑑定する。
HPが0になりそうなら、左右どちらかの藪にダイブ、隠密で見つからないよう隠れる。
ダッシュが続けられるようであれば、ダッシュを続け、敵から遠くに逃げる。
このプランでは、よほどの幸運が重ならないと勝利条件は満たせそうにない。
しかし、このプランしか思い浮かばない。
俺はプランをイメージトレーニングした。怖い、不安が心を包む。
イステナはただ黙って優斗を見ていた。
イステナは思う。
もし、このまま優斗を転生させたら、まづ生き延びることはできないだろう。
それが分かっていて転生させるのは優斗の行動を楽しむためだ。
イステナにとって優斗は可愛い子犬であった。
いざとなったら、介入すれば良い。1億分の1秒もあれば、介入し、優斗を回収できる。
奇跡的な幸運で得た、異世界から来た私の使徒、死なせることなど絶対にない。
俺はイメージトレーニングを10回ほど繰り返した。
数度の逡巡の後、覚悟を決めた。
イステナ様の前に進み、膝まづく。
「イステナ様、準備ができました。転生をお願いします」
イステナ「わが使徒、優斗、武運を祈ります。転生! 」