17冒険者の日常
優斗が町に出たのは、魔法学習の為であった。
セーフハウスでは周辺の警備と食料集め、雑事で1日のうち5時間を費やす。
この時間を魔法研究に当てたかった。
優斗は金貨1万枚以上持っている。
別段、働かなくても良いのだが、無職では不自然で、都合が悪かった。
イステナ様の使徒として、他人に怪しまれることは避けたかったのだ。
それに、冒険者は優斗のロマンでもある。
異世界にきた以上、経験したかった。
魔法学習と冒険者業務、その点を踏まえ、1週間をどのように過ごすかを決めた。
月曜日 冒険者業務
火曜日 魔法学習
水曜日 魔法学習
木曜日 魔法学習
金曜日 魔法学習
土曜日 魔法学習
日曜日 冒険者業務
ギルドの依頼を見たが、薬草の採取の依頼はなかった。
魔物討伐の依頼はあるのだが、牧場の家畜のエサを食いに来る害獣の討伐、畑を荒らす害獣の討伐、家畜を襲う狼の討伐、これらは討伐とあるが、実質は警備業務であった。
それも夜間の仕事だ。
魔法学習を考えると夜の仕事は見送った。
農家の収穫の業務はたくさんあるが、収穫は夜明け前から始まる。
このため、泊まり込みが前提であった。
宿屋や下宿がいらないので、若い冒険者には都合が良いのだが、優斗には合わなかった。
優斗の見つけたのは東の関所の下働きだった。
8時から16時まで、日中の業務、1日で銀貨6枚。
募集が日曜と月曜の2日。
両方とも請け負った。
優斗の週間の日割りはこうして決まった。
優斗に割り当てられた仕事は食堂係りであった。
朝一、洗い場に積まれた食器を洗う。
終わると昼食の調理、調理と言っても、業者から届けられた食材を洗い、適当な大きさに切り、シチュー鍋に入れる。
調理場には大きなシチュー鍋がある。
塩と水を補充し火にかける。
それだけだった。
12時にはシチューを皿によそい、パンと共に配膳する。
衛士が食べ終わるのを待ち、食器を洗う。
次に食堂と調理場を掃除する。
竈の灰を片づけ、薪を割り用意する。
夕食、明日の朝食を同時に用意するため、多めの食材、水、塩をシチュー鍋に投入、火にかける。
これで1日の仕事が終わる。
驚いたことに衛士は365日、3食、この継ぎ足しで作られるシチューを食べる。
よく飽きないものだと思う。
俺も朝、昼、このシチューを頂くのだが、とにかく、旨い。
なぜ、塩だけでこの味が出せるのか不思議だ。
シチュー鍋を魔道具かと疑ったほどだ。
食堂は衛士の休憩場所だ。
衛士達の会話が耳に入る。
気になった会話には参加する。
ここでは、なかなか聞けない世情や俺に足りない知識が手に入る。
まづ、地理について。アンダシア王国内の王都や領都、町や村の位置関係、街道の名前やルート、重要な炭鉱、鉱山、港の情報、隣国の名前や規模を知った。
人の情報も手に入る。
王族、貴族、有名な騎士、有力商人、美女らの名前や噂、人間関係(誰と誰は混ぜると危険とか、騎士と貴族婦人の関係など)。
話を聞く限りでは、この国ににはゲスや変態、変質者、色ボケ、お金に汚い者、残虐非道な者しかいない。
国際情勢も手に入る。
隣国、ロンカルド王国とは国境でもめている。
国境をまたぐ形でカンボス炭鉱がある。
炭鉱は広大なのだが、アンダシア王国で唯一の炭鉱のため、少しでも広くしようと勝手に国境を引き直した。
ロンカルド王国が怒らない訳がない。
いま絶賛紛争中である。
ウエスリーム王国とも揉めている。
ウエスリームの三角湖からアンダシア側に川が流れている。
この川は細く、水量に乏しい。
もし、この川を拡張すれば、アンダシアの荒れ地が広大な穀倉地帯となる。
アンダシア王国は勝手に三角湖の領有を主張、軍を派遣した。
アンダシア王国の行動を衛士達は当然のように受け止めている。
アレフギアの民は弱肉強食を是とする。
平和主義は通用しない。
最初は違和感があった。
今では地球時代の平和な考え方に強い違和感を覚えるようになっていた。
衛士達は隊長を含め12人いる。
関所の門には2名、事務所に3名が詰める。
後の7名は訓練か休憩を取っている。
訓練は関所の外に訓練所がある。
隊長に許可をもらい俺は朝6時から仕事が始まる8時まで、訓練所を使わせてもらっている。
この時間に衛士は誰も訓練しないので、独り占めできる。
仕事のある日曜、月曜以外の日も使徒として体がなまると不味いので、訓練をしている。
ある時、勇者について聞いてみた。
衛士は「童話か、龍と勇者の戦いはおとぎ話だ」と言われた。
玲やクラスメイトに会いたい。玲のいる王都を目指そう。