11ホームシック
翌朝、朝食を済ませ、ローラに『イステナの使徒証明』を見せた。
最初は目をパチクリさせていたが、何度も見せてと言われた。
見せるたびにキャッキャと喜び、結局、10回も見せることになった。
ローラは見せてとは言うものの、『イステナの使徒証明』が何なのかとは聞いてこない。
不思議だ。
だがこれでローラは十分呪われたはずだ。
一つ心配の芽を摘み取った。
今日の午前中は訓練を休み、ローラの世話を焼くことに決めていた。
ローラに水浴びを進めた。
季節は秋であり、少し寒くなってきているためか、ローラはうじうじとし、言うことを聞かない。
あの手この手でおだて、言うことを聞いてもらった。
色々汚れが全て落ち、輝く髪、透きとおる肌の美少女が出現した。
きれいになったローラを見つめていると、ユートの母の記憶と暖かい感情が穏やかに流れ込んでくる。
ユートもローラのことが気に入ったようだ。
お昼まで時間があるので、セーフハウス近辺を案内する。
トイレ、洗濯場、水汲み場、遠見やぐら代わりの岩場を教える。
後、緊急時の脱出ルートと、脱出後、潜伏する一時潜伏場所も教える。
昼食後はローラを連れ、セーフハウス周辺を巡回する。ローラが1人で行動できる範囲を決める。
その目印の岩や木を覚えさせる。
地図を頭に入れるのは安全上、重要なので、当分、ローラ連れで巡回しようと考えている。
食料採取の知識、方法はおいおい教えて行く。
夕食後はローラと俺の家事分担について決めた。
ローラには食後の後始末、鶏の世話、洗濯、掃除をお願いした。
俺は水汲み、食料確保、料理を担当する。
お互い家事を終わらせた後の残り時間は自由とする。
そんなこんなで、1日が終わった。
イステナ様へお祈りし、ベッドに入る。
次の日からは通常モードとなる。
朝の食事後、俺は使徒の訓練。
ローラは家事。
午後はローラを連れて周辺巡回、その後、俺は食料確保のち料理、ローラは家事。
夕食後、俺は研究、お祈り、ローラは家事を行う。
ローラが分担する家事の量は多くない。
自由時間が取れるので、何か楽しみを見つけてもらいたい。
奴隷の首輪の研究が進んだ。
奴隷の首輪には複数の魔法陣が刻まれている。
魔法陣には2系統の機能がある。
1つは呪いの機能、もう1つは隷属の機能。
呪いの機能は奴隷の首輪をはめた瞬間に発動する呪いの機能、この呪いは首輪を外しても残る。
呪いは3種類あり、初めに痺れが発動、体がマヒする。
次に睡眠が発動、眠ってしまう。
最後に死が発動し、死ぬ。
ただ、首輪をはめている間は呪い解除が発動しているので痺れ、睡眠、死の呪いを解除している。
首輪を外すと、外しても残る呪いにより死ぬ。
隷属の機能は命令を直接心に届ける。
たとえ言語が分からなくても主人が何を命令したかがわかる仕掛けだ。
また、特定の命令で痛みを与える。
別の命令で快楽を与える。
命令を聞かなければ罰を、命令を聞けば褒美を、そんな仕掛けで命令通り行動させるのだろう。
奴隷の首輪を外すとなると呪いの機能を無効化する必要がある。
無効化は痺れ、睡眠、死の魔法陣を壊せばよいのだが、
発動中の魔法陣を壊すと呪いが暴走し、殺してしまう。
このため、はめている首輪の魔法陣は壊せない。
俺は行商人から得た奴隷の首輪を使うことを思いついた。
隷属関連の魔法陣と呪いの魔法陣を壊し、呪い解除のみ機能する首輪を作った。
保護して3日後、ローラに首輪を外すと話す。
ローラは率直にしたがってくれた。
まず、呪い解除の首輪をはめる。
次に奴隷の首輪を外す。
奴隷の首輪の呪いが切れるまで10分くらい待つ。
呪い解除の首輪を外す。
奴隷の首輪を外すことに成功した。
失敗するとローラを殺しかねないので、最後、呪い解除の首輪を外す時は緊張した。
この成功をきっかけに「魔法を極めたい」そんな気持ちが膨らんでいった。
ローラは可愛らしく、性格も素直で明るい。
話をするのも楽しい。
時間が余っているようなので文字を教えている。
文字を地面に書き、読み方を教える。
1週間で8割くらい覚えたので、来週には全て覚えるだろう。
ただ、心配事もある。
夜眠れないという。俺は横になると1分もせず寝てしまうため、対処方法が分からない。
昨夜、ローラは寝れないと言い、泣きながら俺を起こした。
俺は目が冴えて眠れなくなったので、ローラに「寝るまで見ていてあげる」といい寝かしつけると、1分後には寝息を立てていた。
ローラを保護して2週間たった。
ローラは元気ない。
ほとんど喋らなくなった。
声をかけると泣く。
3日前から龍肝人参を飲ませているが、治らない。
そんなローラを見るとユートの記憶と感情が俺になだれこむ。
ユートの母の記憶、病気の記憶、重い悲しみが俺を襲う。だが、これがヒントになった。
ローラは精神的に弱っている。
俺「ローラ、父さん、母さんに会いたい?」
ローラは大泣きした。
そして「お母さんに会いたい。お父さんにも」と返事をした。
俺「じゃあ、ローラをクジュ村に連れていく。
明日は準備して、明後日の朝に出発しよう。
それまでに元気になってね」
ローラ「うん」
俺「今日の夕食はヤム芋がゆにする。
卵と鶏も入れる。おいしいから食べてね」
ローラをクジュ村に連れていく日になった。
口数は少ないが、歩けるくらいには元気になった。
朝、出発し、夕方にはクジュ村の入り口に着いた。
俺は奴隷の首輪の件が気になっていた。
クジュ村でローラは幸せになれるのか。
俺「もう道はわかるよね。
1人で帰れる?ここでお別れしよう」
ローラ「家までついてきて」
俺「ローラが落ち着いたころ、尋ねるよ」
ローラ「きっとよ」
ローラは家に帰っていった。
俺は嘘を吐いた。
『イステナの使徒証明』の呪いで、ローラは俺の事を忘れるだろう。
ローラのホームシックを利用してしまった。
俺はローラが片付いたことに安堵する自分が嫌になった。
ローラごめん。
許してくれ。
贖罪にはならないが、イステナ様には正直に話そう。