10イステナの嫉妬
ローラをセーフハウスに連れ帰るのに、2時間ほどかかった。
ローラは満足に食事を与えられていない為か、途中で動けなくなり、時間がかかった。
セーフハウスに着くころには日が暮れていた。
ローラにセーフハウスの使い方や決まりを教え、焼いたヤム芋、鶏とキノコのシチューを作り、一緒に食べた。
多めに作ったが、ローラが沢山食べてくれた。
食事の後、ローラをトイレに連れて行った。
トイレは外にあり、夜は危ないので、付き添いが必要だった。
ローラを俺のベッドに寝かせ、話をしていると、すぐに寝てしまった。
俺はローラの隣に、干し草とシーツでベッドを作り、こしかけた。
勢いでローラを連れてきてしまった。
後悔はしていないが、先々、ローラをどう扱うかまったく考えが浮かばない。
イステナ様にお祈りするのが怖い。
俺はローラの奴隷の首輪を鑑定した。
奴隷の首輪という情報以外に首輪に沿って魔法陣が見える。
その魔法陣一つ一つも鑑定ができる。
魔法陣の機能に関する情報が見える。
俺は興味が湧き、行商人が持っていた奴隷の首輪を探し、鑑定してみる。
すると同じように、魔法陣が見える。
首輪の大きさ、太さ、作りや材質は異なるが、両者同じ魔法陣が見える。
イステナ様へのお祈りの恐怖を紛らわすため、優斗は研究に没頭した。
普段の何倍も集中したため、奴隷の首輪の機能がおおよそ理解できてしまった。
俺「俺はこういう形で追い詰められないと力が発揮でいないタイプだったんだ。
昔から『やればできる子』と呼ばれてたけどほんとだったんだ」
なんか納得した。
時間だ。
俺はセーフハウスを出て、外でお祈りをすることにした。
ローラの寝ている場所でお祈りをする気になれなかった。
イステナ様にお祈りをすると、俺はイステナ様の空間にいた。
イステナ「その年で女を連れ込むなんて。
なんてふしだらな。
母さん、そんな風に優斗を育てたつもりはありません」
イステナ様はいきなり小芝居をうってくれた。
少し心が軽くなった。
俺「ごめんなさい。
成り行きで、連れてきちゃいました。
あそこに置いておけなくって。
よく考えたら、とんでもないことしたかも。
今、怖くなってます」
イステナ「女を連れ込んどいて、何が怖いの、私?」
俺「俺がイステナ様の使徒だとローラにばれます。
それに、ローラが俺のこと、イステナ様の使徒だと誰かに話しちゃうかもしれません。
そうなっても、殺すの可哀そうだし」
イステナ「そんなこと心配してるの。
話してなかったかしら、そういう相手には『イステナの使徒証明』を見せるの。
そうすると見せた相手に呪いがかかります。
呪いのかかった者はイステナの使徒に関することを話せなくなるし、イステナの使徒から離れた瞬間、イステナの使徒に関連することを全て忘れます」
俺「エー、『イステナの使徒証明』は復讐劇の始まりを高らかに宣言するものと思ってました」
イステナ「復讐の前に見せておけば、殺さなかった人から使徒の存在が漏れないから都合が良いのです」
俺「『イステナの使徒証明』封印されて、使えません」
イステナ「封印をときます。もう使えます」
俺「ありがとうございます」
イステナ様が話しづらそうに「優斗、やるの」
俺「何をですか?」
イステナ「子作り」
俺の肉体年齢はユートの10歳。
12歳の優斗の肉体であれば可能であるが、
いかんせん、ユートの肉体では無理がある。
現在は水鉄砲の機能しかない。
バズーカに育つには、優斗の記憶ではあと1年半くらいは必要と思われる。
俺「まだ、体が準備できてないです」
イステナ「そうですか。
勝手に始めてはいけません。
私の許可を取りなさい」
イステナ様の言葉は俺にショックを与えた。
あー、あれまでも許可制か。
というか、イステナ様、焼きもちを焼いておられる?
だとしたらうれしい。
俺「はい。恥ずかしいけどそうします」
イステナ「これからは私の空間で話しましょう。
ここにいる間はアレフギアでは時間が経過しません。
それに、優斗とのお話を他人に邪魔されることもありません」
イステナは言葉足らずである。
イステナは優斗に贈り物を用意している。
贈り物は「子だね」。
優斗の肉体の殆どは異空間に失われたが、ごく一部の肉片がアレフギアに召喚された。
イステナはそれを確保している。
また、ユートの肉片も確保している。
両肉片はアレフギア局の保守ゴーレム達に渡した。
イステナは保守ゴーレム達に両者の優れた形質を持つ「子だね」を作るよう命じた。
ただ、この命令は保守ゴーレム達の信奉する倫理規定に違反する。
この倫理規定は50万年前にアレフギアを捨てた古代文明人が作ったもの。
イステナはこの世界を捨てた者が作った倫理になぜ保守ゴーレム達が順ずるのか理解できなかった。
保守ゴーレム達は倫理規定の穴をつき、裏ワザで作成するので半年待って欲しいと申し出た。
イステナは了承した。
優斗が今すぐ、子作りを始めると都合が悪い理由である。
ローラを連れてきたことについては、イステナ様の了承は得た。
だが、ローラをどう扱って行くかの指示はなかった。
そこは優斗が決めなければならない。
優斗は悩みながら眠りについた。