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二週間が経ちました

入学してからそろそろ二週間が経とうとしている。

渡井としては、まずは順調な学園生活が始まったと思っている。

学園に入ってから悪夢の頻度が激増して十分眠れないのには困っているが、

まずは私の計画の第一段階が順調に進んでいることには安堵している。


一週間位して王子とアリアが連れだって歩いている姿を時々みかけるようになった。

まだまだ気遅れ気味のアリアを王子が連れまわしているようだ。

王子としては、親切心のつもりであろうが、そもそも相手が気にならなければそういうことはしない。

つまり、少なくとも王子はアリアのことを意識しつつあるということだ。


「うんうん。よい傾向ですわね」

「何がですか」


つい、口に出ていたようだ。

隣にいるアリアに問われ、それっぽい答えを探す。


「王子と一緒に歩けるなら、大抵の貴族には気遅れする必要がないでしょう?」

「それとこれとは別です。やっぱり貴族の方と話すのは緊張します」

「あら? 私も一応貴族ですけど?」

「バーゼス様は特別です! 緊張なんてするわけありません!」


なぜか全力否定された。私はそんなに貴族っぽくないのだろうか。

これでも一応宰相の娘。結構な貴族なのだけれど。


近況を知るために今日はアリアと接触してみた。

軽く話すだけのつもりだったが気がつけば食堂まで来て話に興じてしまった。

まあ、この後用事があるわけでもないし、アリアと話すのは楽しいからまあいい。

ついでに三日にに一度はこうして一緒にいる気もする。


……うん、今後は少しずつ距離を取らないといけないか。


「そういえば、バーゼス様は生徒会には入らないのですか?」


そんな思考をしているとも知らず、アリアが話を振って来た。


生徒会


それは学生の自主性を養う目的で結成された会だった。

主に、学生主導の行事やもろもろの雑事、教師との折衝などを行っている。

優秀な学生を上に立つための訓練の意味もある。


そのため、生徒会に入る第一条件として優秀な成績が必須となり、


「私、成績は平均点程度ですのよ。生徒会からは門前払いですわ」

「へ? そうなのですか?」


目を丸くしていうアリアに私は苦笑する。

私は、そもそも優秀な成績を取れていなかった。


「風属性すらそこまでできませんからね」


表向きの得意属性は風。

私の本当の得意属性は闇属性であるが、それを隠す必要があった。

兄と同じ風属性を得意と言っている以上、風以上の結果を闇で出すわけにもいかない。

とはいえ、風ではたいした結果は出せず、結果として平均点程度となってしまっていた。

……その闇属性も、生徒会に入るには能力不足ですけどね。


「不思議ですね。バーゼス様、魔力は高そうなのに」

「こればかりは向き、不向きという物ですわ。

 それを言ったらアリアは生徒会に入りたいのですか?」

「私ですか? そんな、恐れ多過ぎて無理だと思います!」


慌てたように話すアリアの様子が可笑しくて、つい笑ってしまう。

それをアリアは軽く睨むように見ながら言葉を続けた。


「生徒会は基本、貴族様が入る場所です。

それに私は平民ですから、生徒会への推薦もありません」


アリアの言葉に軽くうなずく。アリアは入学式後のテストで非常に優秀な成績を収めていた。

能力だけなら生徒会に入れるレベル。ただ、生徒会に入るためにもう一つ必要なことがある。


貴族による生徒会への推薦――ようするにコネの存在をアリアは持っていない、ということだ。


平民を推薦するような貴族はいない

生徒会が基本上に立つ側の養成の側面を持つ以上、貴族が入ることが暗黙の了解となっている。


当然今後上に立つ側のセレスト王子は、生徒会へ入ることが決定している。

今後は、そちらの活動に時間が割かれることになる。

アリアが私に生徒会に入らないのかと聞いたのもきっとその辺が関係している。

表向きは王子の婚約者である以上、一緒にいる時間は長いほうがいいという考えだろう。


しかし、私としてはそれは困る。私は王子と必要以上に仲良くなるわけにはいかない。

むしろ、王子にはもっとアリアと仲良くしてもらう必要があるのだ。

だから、アリアに向けてもったいつけるように話す。


「そうね……なら大丈夫ですわ」

「何が大丈夫なんですか?」


不思議そうな顔をするアリアにニアリと笑い、私は告げた。


「すでに私が推薦しておいたから。後、王子と私の兄もね。じきに生徒会に入れるわよ」

「…………は?」


あ、完全に固まっている。

展開が急すぎて理解が追いつかないようだ。


実際は非常に簡単な話しだった。

王子にアリアの生徒会入りを提案したら二つ返事で了解を得た。

兄もアリアの実力を知っていたようで、私の頼みをきいてくれた。

王族一人に、宰相の長兄と娘、いくら平民だとしても後ろ盾としては十分と言える。


「私、こう見えて宰相の娘。実力はともかく立場だけなら推薦人としての資格は持っているのよ」

「……えーと」


とりあえず、アリアが落ち着くまで待つことにする。


「私が、生徒会に? 本当にいいのですか?」


半信半疑のアリア。まあ平民出身だから仕方ないかと思いつつ、説得の言葉を続ける。


「私、これでも人を見る目だけはあると思っていますわ。

アリアは生徒会でも十分やれる。いえ、生徒会に必要な人材だと信じてます」

人生なにがあるかわからないわ。せっかくできるのだからやらないのはもったいないわよ」


「……え……と……はい」

私の言葉にアリアは戸惑いながらも頷いた。そして

「ありがとうございます。バーゼス様。私、頑張りますね」


そう言って笑う笑顔は、私には眩しすぎるほど魅力的な笑顔だった。


「ええ、ま、何事も経験よ。やれるだけはやりなさい」

「はい! でも忙しくなるとバーゼス様と余り話せなくなるのは嫌です」

「……ま、時々なら遊びに行ってあげるわよ」

「はい! 絶対来てくださいね!」


アリアの勢いに押されるように答えてしまった私は自分の言葉に頭を抱えることになった。

いや、私もアリアとは余り仲良くなるわけにはいかない。

今はともかくいずれ嫌われなければならない。

それに私とばっかりいたら、アリアと王子が一緒にいる時間が少なくなる。それは困る

これはもっとアリアを王子の方に誘導しないと……二人が友人関係どまりになったら非常に困る。


心の中でため息を吐きつつ、これからどう誘導しようか、と思考を巡らせようとした瞬間。

ふと、外で警戒していた使い魔がこちらを窺っている人影を確認する。


このタイミング……仕方がない。アリアの誘導はまた別の機会にしよう。

私は、外の人影への対処方法を考えることにした。


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