ライバル(予定)の少女と会って
私たちは二人で中庭へと歩くことにした。
途中、貴族の令嬢方の視線が気になった。というか、視線が痛い。
恐らく、王子と連れだって歩いていることに嫉妬されているのだろう。
王子の人気の高さが本当によくわかる。
ただ婚約も親同士で決めたことで、私としてはそんな視線を向けられても困る。追放予定だし。
「クレアは昔、病弱だと聞いていたが、今は大丈夫なのか?」
「ええ、いつまでもそうでは困るので、できる範囲で鍛えましたから」
「鍛えた?」
「魔法もそうですが、剣の稽古もしましたわ。最も、上手くはなりませんでしたわ」
剣の稽古と聞いて、若干驚いた表情をしている。
ただの病弱な御嬢様と思っていたのが違っていた、という所だろうか。
私はもともと病弱なわけではなかった。
ただ、幼い私は、老婆の予言を家族に話そうとし、
そのたびに、滅びの風景が浮かび強烈な恐怖で倒れてしまっただけだった。
幼いころの私は予言の内容を理解ができてなく、人に話そうとし、そのたび倒れていた。
そのことが、私が病弱とされてしまった原因であり、両親に特に心配されてしまっていた原因だった。
予言を正しく理解できるようになってからは、
破滅を回避するためにどうすればいいかを常に考えるようになっていた。
剣の稽古も、魔法の訓練もその回避の一環だった。
魔法は闇の魔法をのばすことはできたが、本来伸ばさなければならない風は余り使えなかった。
剣の方はもっとひどく、どうにも上達せずに諦めることになっていた。
「思っていたより、お転婆な御嬢様だったようだね」
「あら、心外ですわ。……セレスト様は意外と毒舌なようですね」
「そんな評価を受けるのは初めてだよ」
さらりとそんなことを言いながら微笑む。
美形ってそれだけで得と思う。さらに嫌味を言う気が失せてしまう。
今は王子と二人きり。ある目的地に行くため自然とそうなってしまった。
私は視点の一部を鳩の使い魔に移す。そこには少女が一人、迷うように中庭のさらに奥にいた。
ちょうどよい。追放計画を進めよう。
「……あら? セレスト様。あそこを見てください」
視線でその場所をみると、王子も気付く。
「ふむ。あれは……迷子になっているのか」
「恐らくは」
「ふむ……声を掛けてみるか。助けが必要そうだ」
「ええ、そればいいでしょう。私はここでお待ちしていますわ」
王子は、その少女に声を掛けるべく近づいていく。
その少女はまさに今、木へと登ろうとしていた。
……何をしようとしているんだろうか。あの少女――アリアさんは。
あ、王子に声を掛けられて酷く慌ててる。
王子もその様子に苦笑しながらも話を続けている。
アリアは顔を真っ赤にしながらも説明しているようだ。
うーん。王子の第一印象は大丈夫だろうか
これからの一抹の不安を覚えながら、私は今回、この学園で行う私の追放計画を思い起こす。
名付けて、
セレスト王子とアリアさんをくっつけて、邪魔になった婚約者を追放させよう! 計画
アリアさんは市井から学園に入っているが、学力、魔力ともにトップクラス。
容姿だって、今でもそこそこ良いのに他の貴族同様に磨いたら私など比較にならないほどの
美貌を持つポテンシャルがある。多少じゃじゃ馬ではあるが、性格のよさもプラス判定。
私が調査した限りでは王子にふさわしい女性は彼女だと思っている。
念のため、事前調査でわからないことは彼女と知り合いになってさらに調査する予定。
ともかくこの二人がくっついた場合、邪魔になるのは名目上婚約者になっている私。
で、王子に私を追放する名目を作ってやれば晴れて追放。
そうすれば、国は滅びない。私は悪夢にうなされない。みんな幸せになる。
ただこの計画、王子とアリアが恋人になるのが前提条件。
上手くいくかは私にもわからない。
正直、王子は完璧超人すぎる噂のみ先行して実際の人となりや嗜好が見えない。
アリアと王子の相性は不明だった。
なら、とにかくまずは出会わせるべき、ということで。
今回、アリアを探して王子を出会わせるため誘導したわけだった。
……こんなに上手くいくとは思わなかったけど。
さて、二人が連れだってこちらに戻ってくるので意識をそちらに戻す。
とりあえず、遠くから見ている限り初対面の印象はお互い悪くなさそうなので安心する。
「おまたせしたね」
「ふふっ。早速女の子をひっかけるなんて、セレスト様も中々ですわね」
「彼女に気付いたのはクレアだろう。それに予想通り学園内を迷子になっていたからな。
今後のためにも学園を案内することにしただけだ」
「ええ、それがよいと思いますわ」
私は澄まし顔で王子から視線を切り、私はアリアに視線を移す。
「初めまして。私はクレア・バーゼスと申します」
今度は今度は優しく、優雅に一礼したつもり。
顔をあげると慌てたようにアリアも頭を下げた。
「アリア・ハスターです。よろしくお願いします。バーゼス様」
彼女はぴょこんと一礼する。その慌てた様子に、若干の疑問。
彼女はこの学園の中でも注目株だ。
それなりにこういう挨拶があったの思うのだけど。
それとも私の雰囲気が威圧的だったのかしら。
そんな疑問は解消されず、王子は言葉を発した。
「さて、私は彼女を案内するつもりだが、クレアはどうする?」
少々考える。この場合二人だけにした方が、親密さは増すとは思う。
しかしアリアは王子と初対面で、話の間が持つかは微妙な所。
ここは一緒に行って、彼女をフォローした方がいいかもしれない。
「そうですわね。それでは王子のフォローに回りましょうか」
「うん。クレアの方がよっぽど毒舌な気がするな。では行こうか二人とも」
「は、はい!」
「はいはい」
アリアはやはり慌て気味に、私は呆れたように言う。
余り仲良くなるわけにはいかないのだけど、
万が一、追放のタイミングで許されたら大変なことになる。
二人から一線を引くように自分に厳命しながら、私は二人についていく。
「この部屋が魔法訓練室だ。名前の通り、実地での魔法訓練用の場所だ。
放課後は空いているので、自習も可能だ」
「はい、結構来ている人がいますね」
「魔法を磨こうと考える生徒は多いからな。将来のために訓練する真面目な生徒はいるものだ」
「なるほど……私も利用しようかな」
「そうするといい」
セレストとアリアは二人横に並び、歩いている。
私は、二人から一歩後ろの位置につき、二人をそれとなく観察していた。
存外、二人の会話は途切れなかった。
案内という目的があるから、話題には事欠かないし
アリアも多少緊張しているようだがしっかり受け答えをしている。
これなら私が付いてくる必要はなさそうね。
そう思いながらも離れるタイミングもつかめず黙ってついていく。
ふと、アリアが振り向きこちらに視線を向けた。
「バーゼス様は、どのようなご趣味をなさっていますか」
「んー。そうですわね」
いつの間にか、個人的な話にまで会話が進んでいたらしい。
それはいいことだし、私にも気を使える彼女は優しい娘だと思う。
一応貴族として学ぶことは一通りこなしてはいる。
貴族間の付き合いなども、普通にこなす。
自分の時間はほぼすべて、追放されるための方法を考えることに当てていた。
結果としては、趣味と呼べるものは正直ない。
「読書、でしょうか」
「読書ですか?」
「ええ、昔は余り外に出れませんでしたから。
本を読んで外に出た気になったものですわ」
それっぽいことを言って反応を見る。
「へー。なるほど。どんな本を読んでいたんだい?」
その会話に入って来たのは王子だった。
「怪盗アリサの事件簿って知っております」
「ああ! 盗賊である主人公アリサが悪い貴族と闘う話ですわね」
なぜか、アリアの方が喰いついてきた。
基本的に市井で出回っている貴族側が悪のお話だから、王子は興味ないだろうし、
女の子であるアリアが冒険活劇に興味を持っているとは思えなかった。
実際王子の方は知らない様子。
「盗賊であるアリサが貴族子爵ストラトスと出会い、愛と身分の間で苦悩する。
素敵な本でしたね」
……あー、そういう見方もあったのね。
私は、どこまでやれば一般的に追放でするのか考える上で参考になるかなー
と思って読んでただけなので、そーゆー視点では読んでなかったわね。
ま、ここは話の腰を折らないようにするのが一番
「ええ、そうですわね」
「まさか貴族の方があの本を知っているとは驚きました」
笑みを浮かべてアリアが話す。
うん、この笑顔を向けられたら大抵の男が落ちるのではないだろうか。
これなら案外、王子がアリアへ好意を持つのも早そうだ。
「少し安心かな」
「何が安心なのかな?」
ポツリをつぶやいてしまった言葉に、王子が反応してしまった。
しまった、と思いつつ一歩早く進み王子に並ぶ。王子にだけ聞こえる声で話す。
「彼女、不安そうにしてましたから。私たちを通せばじきに馴染めるようなるでしょう」
「貴族の中に入るのは、なるほど勇気がいるか。そうだな、私も気を掛けるとしよう」
「そうしてくださると助かります」
もっともらしいことを言いながら、私は心の中で安堵する。
王子が再びアリアと接触する動機もできた。
形式的ではあるが婚約者である私からも了承を出している以上、
アリアが王子に会いにくいということにはなりにくいはず。
そう思いながら、学園の案内は続き、私にとっても存外楽しい時間だったようで……
夕方のチャイムが鳴るまであっという間だった。
私たちは別れ、それぞれの部屋に入る。
ベッドに入りながら、今日の日を思う。
中々順調な滑り出しだったはず。
王子とアリアが無事両想いになればいい。
そう思いながら眠りにつく。
私の追放計画、無事成功することを祈りながら。
――また、今日も悪夢にうなされることになる。