雑魚モンテイマーが通る
唐突に降ってきたネタをいつも通り書き記してみました。
長い設定の説明は省き、一気に本番まで持ってきたのでさっくり読めると思います。
この世界には多種多様な職業が存在しており、生活の基盤を支えるような職にはその道のプロを育てるための学校が存在している。
その中の一つがグローブル魔獣師学校。
『魔獣』と呼ばれる存在を使役する『魔獣師』を育成するための学校だ。
僕ことエイミもその学校に在籍している。
今日は学校生活の中で最も注目を集めるイベントだ。
その名も『魔獣師トーナメント』。
ぶっちゃけなんのひねりもないそのまんまの内容。希望者がトーナメント式で戦い、最後まで勝ち残ったものが優勝というシンプルなルールだ。
今からその一回戦が行われようとしていた。
驚くことに、僕は一回戦第一試合。まさにこのイベントの開幕を飾ることになっていた。
僕は試合前の控え室で、愛すべき仲間たちに声をかけていた。
「さぁ、いよいよ僕らの晴れ舞台だ。準備はいいかい?」
──プルプル!
──ゴブゴブ!
──プゥプゥ!
可愛らしくも心強い声が返ってきた。彼らからの伝わってくる気合は十二分。心身ともに準備万端といったところだろう。
「じゃぁ、行こうか!」
試合会場に向かうと、すでに僕の対戦相手が待っていた。
同じクラスに在籍するブレイブだ。単純な学力の成績も、そしてテイマーとしての成績も学年で第一位。
使役する魔獣は『フェンリル』に『エンジェル』『ドラゴン』と、テイマーが最も憧れる魔獣の揃い踏みだ。まだ学生の身でありながら使役できること自体が奇跡。ブレイブはこの学校が始まって以来の天才と称されている。
さて、このトーナメントの試合形式は『三対三』。どちらかが二勝を得た時点で勝敗が決する。つまり、この試合に出場した僕も当然、三匹の魔獣を使役するわけなのだが。
僕とその仲間たちが会場に現れた途端、観客席のいたるところから失笑が聞こえてきた。
非常に憤慨すべきことだが、一方でわからなくもないと諦める。
なぜなら僕の使役する魔獣は。
ウサ美こと、ラビット。
ゴブ丸こと、ゴブリン。
プニ助こと、スライム。
──テイマー界の中ではいわゆる『外れ』と称される雑魚魔獣たちだからだ。
僕の対戦者であるブレイブも、勝利を確信したかのような笑みを浮かべている。彼にとって、僕の相手は『消化試合』。勝って当然なのだろう。
誰の目から見ても、ブレイブの勝利は確定的だった。
でもその予想は、最悪の形で裏切られることになる。
まずは先鋒。『ウサ美』対『フェンリル』。
フェンリルは、狼系の魔獣の中では最高ランクの魔獣であり、極寒の冷気を操ることで有名だ。
対してラビットは、その辺りの草原に生息する兎そのままの魔獣だ。はっきり言って、通常の兎との違いは、頭の上に小さなツノが生えているか否かだ。
正面から向き合うと、捕食者と被捕食者の図柄にしか見えない。
大方の予想からして、フェンリルがウサ美を叩き潰して終わりだと思われていたに違いない。
けれども──先手を打ったのは僕のウサ美だ。
「ぷぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!!」
試合開始の合図直後、僕のウサ美が突貫しそのツノをフェンリルの眉間にぶち当てたのだ。ウサ美とフェンリルの体格差は赤ん坊と大人ぐらいにあるが、派手な衝撃音と共にフェンリルの体が吹き飛んだ。
見慣れた僕からしても、瞬間移動じみた突進速度だ。フェンリルもそのテイマーであるブレイブも何が起こったのかわからなかっただろう。見れば、ウサ美が突進のために踏ん張った試合会場の地面が大きく抉れている。踏み込みの勢いに耐えきれず粉砕されたのだ。
だが、そこで最強魔獣の意地か何かか。フェンリルは吹き飛ばされつつも、空中でどうにか体勢を立て直して両足から着地する。
再び突進してくるウサ美を迎え撃とうと、極寒の冷気を口から吐き出した。灼熱の炎すら凍てつかせる冷気を食らえば、ラビットのもふもふの毛皮なんてひとたまりもない。
「ぷっ!」
ところが、フェンリルが口を開いた瞬間にウサ美はすでに横へと飛びのき冷気の射線上から逃れていた。まるで、そこに冷気が襲ってくるとあらかじめ知っていたかのような動きだ。
あまりに素早い動きにフェンリルが驚く中、ウサ美は素早く切り返すと再度突進し、今度はフェンリルの土手っ腹に体当たりをかます。
「ぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅ!!」
またもや吹き飛ばされるフェンリルに、ブレイブはいよいよ落ち着きを失い始めた。怒声じみた指示を投げかけるも、フェンリルの攻撃はウサ美を捉えきれず、逆にウサ美はフェンリルの攻撃をことごとく躱してて体当たりを当てていく。
さて、まずはラビットの生態について説明しておこう。
端的に言えば、野生の兎と本当に変わらない。基本的には被捕食者の立場であり、おおよその魔獣からは食料のように捉えられている弱々しい存在だ。
けれども、そんな存在がどうして絶滅せずに生き残っているかといえば、その持ち前の危機察知能力と発達した足腰にある。
ラビットの大きな耳は目に見えないはるか遠くの足音すら正確に聞き分ける。そして外敵が迫るや否や、己の数倍以上の体格の敵から逃げ果せる脚力がある。
ウサ美は、その危機察知能力と強力な足腰を、すべて攻撃の手段として活用しているのだ。
すなわち、危機察知能力で相手の攻撃を察知して素早く回避し、その隙をつき強靭な脚力で懐に入り込み体当たり仕掛けているのだ。
そしてウサ美の額から生えているツノは、通常のラビットなら骨よりちょっと固い程度の強度だが、特別なエサと鍛錬によって鋼鉄をはるかに凌駕する頑強さを秘めている。それが、瞬間移動じみた速度で突っ込んでくればたまったものではないだろう。
通常のラビットなら、自分の何倍以上の大きさを持つ魔獣に対して挑むようなことはない。
けれども、ウサ美は僕の使役する三匹の中で、最も勇敢な魔獣だ。だからこそ、ウサ美は僕の無茶な調教に食らいつき、そのすべてを己の糧とした。
ウサ美の体当たりの最高威力は、家一軒分ほどの体積を誇る岩を粉砕するほど。その威力を発揮するには長い助走距離が必要になるが、試合会場程度の助走であればその数分の一であるフェンリルを吹き飛ばせる程度の威力にはなる。
やがて、幾度となく鋼鉄の角の体当たりを食らったフェンリルがフラつく。
「ぷぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
そこへ、ウサ美は懐に入り軽く飛ぶとくるりと体を回転。遠心力を乗せた惚れ惚れするような回し蹴りを叩き込んだ。
巨大な岩石を粉砕する推進力を生み出す足から繰り出された蹴りだ。威力は推して測るべし。今までで一番大きく吹き飛んだフェンリルは地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
まだ息はあるがもう立てないだろう。この時点で、ウサ美の勝利が決まった。
「よくやったウサ美!」
勝利宣言がなされると、ウサ美は「ぷぅぷぅ!」と鳴きながら僕の胸に飛び込んできた。角は鋼でも体毛はもっふもふだ。僕はウサ美を労わるようにワッシャワッシャとその体を撫で回した。愛い奴め。
ちなみに、フェンリルを蹴り飛ばして沈黙させるウサ美は女の子である。
大きな番狂わせに会場全体がどよめいた。おそらくブレイブ当人が一番困惑しているに違いない。
単なる消化試合と思ったら、まさか今大会最大級の壁が立ちはだかったようなものだ。
でも、番狂わせはまだ終わらない。
「いけるね、ゴブ丸」
「ゴブ!(訳:任せとけ大将!)」
次鋒は『ゴブ丸』対『エンジェル』。
エンジェルは人型の魔獣。唯一人と決定的に違うのは、背中から生えた純白の翼。それこそが『天使』の名を冠された最大の理由だ。
そして身にまとうのは全身鎧。手にするのは美しい剣。これは人間が作り出したものでなく、魔獣が自ら生み出した『生体武装』とも呼べる肉体の一部。人型の魔獣は時折こうした『生体武装』を有しており、それらは総じて高い能力を秘めている。
エンジェルはそう言った人型魔獣の中でも最高峰の能力を持っていた。
対してゴブ丸も大枠としては『人型』の部類に入るものの、その強さは最低ランク。身長は成人男性の腰までしかなく、手足も相応に短い。棍棒や盾といった簡素な武具を扱う程度の知力はあるが、この強さよりも集団戦法を得意とする魔獣だ。
だが──そのゴブリンがエンジェルと今、互角に打ち合っている。
「ゴブゴブゴブゴブ!(訳:オラオラどうした緩いぞオラァァァ!!)」
エンジェルが繰り出す剣戟は、見るものを魅了するような流麗さを秘めていた。おそらく人間であってもそう叶うものはいないだろう。生体武装であり、己の一部たる武器を使っているからこそ可能な動きだ。
対してゴブ丸はエンジェルのような生体武装は持ち合わせていない。野生のゴブリンが持っている棍棒や盾は、彼らが自らのつてで生み出した物だ。
けれども、今のゴブ丸は背中に大量の武器を背負い、全身鎧を見にまとい、両手にはエンジェルの剣と打ち合っても決して揺るがない棍棒を携えている。
そのすべてがゴブ丸自らの手で作り上げ、契約した武具だ。
試合開始とともに、ゴブ丸が行ったのは、それら武具の『召喚』。そう、うちのゴブ丸は魔法が使えるのだ。
ゴブリン種の中には魔法を扱う類の個体もいる。だが、遠く離れた場所から物体を呼び寄せる『召喚』を習得したゴブリンはいないだろう。
召喚した際に一気に武装化したゴブ丸は、背中から愛用の棍棒を引き抜くと、エンジェルの攻撃をすべて打ち払った。そこからはずっと、互いの武器が衝突しあう音が響き合う。
ゴブリンは単純な武器を作り、扱う程度の知能しかない。
だから僕は、その知能を徹底的に鍛え上げたのだ。
僕が入手できる可能な限りの武器を与え、また手に入らない武器に関してはその製作方法を教え込んだ。
ゴブ丸は、僕が使役する三匹の中で最も好奇心に満ちた魔獣だ。僕の無茶な教育をゴブ丸は嬉々として学び、今では自己流に改造した武器をも開発するほど。召喚魔法を学んだのも、ゴブ丸がそれを望んだからだ。
今のゴブ丸の技量は、エンジェルの剣戟をすべて捌ききっているところを見てもらえれば察してもらえるはずだ。
このままでは膠着状態と判断したのか、エンジェルはゴブ丸の二刀棍棒を強く弾き飛ばすと、一旦距離をとった。
「ゴブっ!(甘いわぼけぇ!)」
そこへすかさず、ゴブ丸は背中から連射式ボウガンを取り出した。もういい加減僕の理解も追いつかない構造をした代物で、引き金を引くと装填された矢が続けざまに連射されるトンデモ兵器だ。
さらに凶悪なのが、その先端に爆薬が仕掛けられていることだろう。単純な矢程度なら生体武装の鎧で防げると踏んでいたエンジェルだったが、無防備に構えていたところに鏃が触れた瞬間に爆発が生じた。
「ごぶっひゃぁ!(ひゃっはぁ! 汚ねぇ花火だぜぇ!)」
鎧が衝撃で幾つも剝がれ落ち、苦悶の声を漏らすエンジェル。だが、その目からはまだ光は失われていない。
……というかゴブ丸くん。相変わらず君は口が悪いね。いや、彼の言葉をちゃんと理解できるのって、テイマーである僕だけなんだけどさ。
エンジェルはこのままでは負けると判断したのか、覚悟を決めたかのようにゴブ丸くんへと向かっていった。翼を羽ばたき推進力を得たその速度は、先のウサ美ほどではないにしろかなりのもの。
完全武装しているとはいえ、ゴブ丸の背丈はやはり小柄だ。エンジェルとの対比は三倍近くある。その質量を持ってぶつかれば、あるいはゴブ丸も体勢を崩すかもしれない。
けれども、
「ゴブ!(訳:ゴブ!)」
ゴブ丸は背中からひときわ大きな物体を引き抜いた。
手甲の様な形状で彼の腕をひときわ大きくさせるほど。拳の先には、尖った角状の物が取り付けられている。他にも何やらパイプやらなんやらがゴテゴテとついている。
『それ』がなんなのか、テイマーである僕は知っているが、構造に関しては完全に僕の知識の埒外にある。
エンジェルは、ゴブ丸が装着した謎の手甲がなんなのか理解できなかっただろう。ただ直感的に『やばい代物』とは感じたのか、慌てて制動しようと翼を動かす。
けれども、それよりも早くゴブ丸が跳躍し、エンジェルに向けて手甲を突き出した。
「ゴブゥゥゥゥゥゥッッ!(訳:ブチ抜けぇぇぇぇ!!)」
手甲がエンジェルにぶつかった瞬間、とてつもない勢いで先端に取り付けられていた角が突き出される。その衝撃たるや否や、エンジェルの生体鎧が角が命中した場所を起点からすべて粉砕され、会場の端っこまで吹き飛ばされるほどだ。
壁面に叩きつけられたエンジェルはそのまま動かなくなり、地面に着地したゴブ丸は白煙を吹き出す手甲に息をふっと吹きかけた。妙にカッコイイ。
「ゴブ……(訳:杭打ち機はロマンだぜ……)」
ちなみに、手甲の先端に取り付けられた角は、ウサ美の生え変わった角である。
「お疲れゴブ丸」
「ゴブゴブ!(訳:やったぜ大将!!)」
僕とゴブ丸は試合会場の端っこでハイタッチをする。
これで二勝。僕の二回戦進出が決まった。
まさか優勝候補であるブレイブが一回戦で、しかも雑魚モンスターしか使役していない僕に負けるなんて誰も思っていなかっただろう。会場内は騒然どころか、痛いほどの沈黙に包まれていた。
その沈黙を破ったのは、他ならぬブレイブだ。
どうやら、今の試合結果がお気に召さないらしい。
彼の残った一体──ドラゴンで僕の使役魔獣三体を打倒してみせると豪語したのだ。
大会のルールとしてはそんな言葉に従う理由もないのだが。
僕はあえて彼の誘いに乗った。
だって、まだプニ助の出番がなかったからだ。
ウサ美とゴブ丸の活躍を見て、プニ助も消化不良だったのだろう。いつもよりもプルプルと震えていた。
僕がスライムを出すと見て、ブレイブは笑みを浮かべた。
スライムは全魔獣の中で最も弱い存在だ。
ドラゴンは全魔獣の中で最も強い存在。
おそらくブレイブの頭の中はこうだ。
どれほどに鍛えたところでスライムがドラゴンに勝利することはない。ラビットやゴブリンが規格外の力を得たとしても、まさかスライムまではないだろう。
だが、先に断っておこう。
プニ助は、僕の使役する三匹の中で──最強だ。
ドラゴンの特徴は、他の魔獣を遥かに凌駕する膂力と、体を覆っている強靭な鱗。そして口から吐き出される鉄をも容易く溶かす灼熱の炎だ。一昔まえであれば、ドラゴンを打ち取ればそれすなわち『英雄』と崇められるほど。
ブレイブの使役するドラゴンはまだ幼体。けれども、その能力はすでに同学年のテイマーたちの魔獣と比較して一線を隔している。
そんなドラゴンが──たった一体のスライムに圧倒されていた。
ドラゴンが吐き出すブレスに対して、それを上回る勢いの炎をスライムが吐き出す。
ドラゴンが岩石を容易く切り裂く爪を振るも、スライムに命中した途端に音を立てて砕ける。
ドラゴンの強靭な鱗が、スライムが『拳』に変形して繰り出した一撃がによって無残にも砕かれる。
ブレイブのドラゴンが為すことすべてを、僕のプニ助が上回っていく。
──スライムの最大の特徴は環境への適応能力。
スライムはその環境に存在する捕食物を取り込むことによって、その環境へと適した存在へと変化していく。言い換えれば、捕食するものによって特性を変化させるのだ。
草原に住むスライムは薬草を主食とし、体内に薬効を貯める。
火山に住むスライムはそこに住む小さな虫や草を取り込むことで熱や炎に強くなる。
鉱山に住むスライムは、豊富な鉱物資源を徐々に取り込み、他のスライムに比べて高い強度を含む体へと変化していく。
だから僕は、プニ助にありとあらゆる物を食べさせた。
最初は様々な種類の草を食べさせ、それが終われば次は鉱物。いろいろな鉱物を細かく砕いて根気よくプニ助に食べさせた。プニ助の持つ消化能力は最初こそ弱かったが、多くのものを食べるに連れて徐々に強力になっていき、今では鍛え抜かれた鋼鉄もわずかな時間で体内に取り込むことができる。
やがて、プニ助は取り込んだ物体の特性を自在に操ることができるようになった。
ある時は万能薬に近しい薬効を持ったスライムに。
ある時はあらゆるものを防ぐ無敵の強度を誇るスライムに。
ある時は灼熱だろうが極寒だろうが生き抜く全天候型スライムに。
そしてとうとう、プニ助は取り込んだ物体を取り込んだ状態のまま体外へと吐き出すとんでもない能力まで獲得してしまった。
プニ助が吐き出した豪炎は、いつか別のドラゴンと戦ったときに取り込んだ炎だ。どんな理屈かは知らないが、プニ助はその炎を体内で常に絶やさないように燃料を与えているようだ。つまり、プニ助の吐き出す豪炎は尽きることがないらしい。
他にも、プニ助の体内にはゴブ丸用の武装も大量に保管されており、戦闘の際には必要に応じて取り出しゴブ丸に装備させる。
体質変化までは想定していたが、まさかびっくり箱仕様にまでなるとは僕も予想がつかなかった。
プニ助は僕が初めて使役した魔獣。そして、三匹の中では最も『強さ』に貪欲なのだ。その飽くなき強さえの探求が、僕の想像をはるかに上回る存在へと進化につながった。
そんなプルプルボディのスライムのまえに、ドラゴンはもうフラフラだ。
自慢の爪も鱗も灼熱の炎も、そして最強種としてのプライドさえも、プルプルなスライムに粉砕されようとしていた。
けれども、辛うじて僅かに残った気概がドラゴンを支えていた。
おそらくブレスでも体当たりでも、あともう少しだけ一押しすればドラゴンは倒れるだろう。
だが、プニ丸はあえて別の方法をとった。
プニ丸がこれまでで一際プルプルと震えると、そのプルプルボディが一気に広がった。やがてプルプルボディが確固たる輪郭を形作り、色を得て一つの姿に変化した。
──ブレイブのドラゴンを上回る巨体を誇るドラゴン。
漆黒の鱗に紅の瞳。体の至るところから鋭い棘が伸び、禍々しい両翼を誇る、凶悪な様相を持ち合わせたドラゴンだ。
実際にプニ助はドラゴンを取り込んだことはない。あれはいわゆる『擬態』の一種だ。けれども、プニ助がこれまで取り込んできた特性をフル活用し、本物のドラゴンとなんら遜色のない力を秘めた擬態ドラゴン。
己のよりも明確に『格上』の力を感じ取ったのか、ブレイブのドラゴンは仰向けになり腹を見せるようなポーズをとった。
野生の動物が『降伏』の意思を伝えるときにする格好だ。ドラゴンの自尊心が完全に粉砕され、プニ助に対して『負け』を認めたのだ。
「よっしゃぁぁぁぁ!!」
「ぷぷぷぷぷぅぅぅ!!」
「ゴブゥゥゥ!(訳:やったぜプニ助のアニキ!)」
そんな使役魔獣の姿に、ブレイブもガックリと膝を落としてうなだれる。対して僕らはプニ助の勇姿に歓声をあげていた。
最終的な結果として、僕は三戦全勝。誰も文句なしの二回戦進出を決めたのである。
──余談ではあるが、トーナメントの優勝はもちろん僕である。
そしてこれが、僕が『雑魚モンテイマー』として歴史に名を残す最初の表舞台となった。