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聖女とよばないで(仮題)  作者: ありんこ
第一章 セトという少女
18/25

ブレイティアの都、一

 


 見るもの全てが新鮮で広大で、彼女は笑顔とため息を合わせてこぼした。

 己のちっぽけさがよく分かる、と。

 そして考える。ちっぽけな自分の『特別』とはなんなのか。


 ◇ ◇ ◇


 セトとアレスは森の縁を縫うように歩いていた。

 てっきりセトはアステロに教えられていた行商の際に使うルートで旅立つと思っていたのだが、そうではないらしい。平地の村や(きざはし)の丘をその目で見たかったセトは内心でほんの少し落胆した。

 階の丘は段々畑のようになっている丘陵地帯だ。一つの丘毎にその面積は広大で、まるで巨人が築いた階段のようであるという。

 しかしアレスが言うにはまず最初の目的地はイーシャン領最大都市であるブレイティアの都だ。タンニ村からブレイティアの都までを地図上で一本の線で結べば、確かに平地の村や階の丘を経由するのであれば遠回りになる。それはアステロにタンニ周辺の地理を大雑把に説明されたセトも承知しているので、文句を言う事はしなかった。

(行商の時は荷物の安全性の確保のために村をいくつか経由するって言ってたし)

 売り物のように守らなければならない荷物がない以上、最短距離を行くのは理に適っている。

 そういう訳で、森の縁を縫うように歩いているのだ。視界の端には常に薄青くけぶる巨剣山脈(きょけんのさんみゃく)--通称(つるぎ)の壁が臨める。

(剣の壁は村からでも見えるけど、これはこれで壮観だ)

 早朝という事も相まって普段は雲に隠れている頂群が見える。相当な距離があるというのにそれでも見上げる程高い切っ先のような山頂は名前の通り剣のようだ。

「アレス。どうして真っ直ぐ王都に向かわないの?」

 ブレイティアの都へは最短距離を歩いているが、王都が最終目的地となれば寄り道になるのではないかと、セトは疑問を口にした。

「王都への道すがらはいくつかの領を越える。関門が敷かれている訳じゃないが、身分証はあった方がいいだろ?」

「身分証?」

 はて、とセトは首を傾げた。魔導王国ウィンデルセンは階級制度が色濃い国ではあるが、身分証というのは普及していない。それが必要なのは貴族階級から騎士階級の人間くらいのもので、平民には必要ないのだ。貧富の差がそのまま衣服に表れるため、見たら分かるという具合なのである。

「身分証っていうのは大袈裟かもしれないがな。王都まで何もせずにただ歩くというのも味気ないだろ?俺もそれ程手持ちがある訳でもなし、セトが嫌でなければギルドに登録してもらおうと思ってな」

「ギルド!」

 確かに、ギルドに所属する人間には身分証が発行される。アレスが村に来た時に見せてもらったものだ。

「もちろん、セトは保護対象だから無理強いはしない。ただ好奇心が強そうだったからな、道中依頼をこなして稼ぎながらの方が面白いかと思ったんだが」

 アレスなりの気遣いなのだろうとセトは感じた。旅の目的を思えば気が重たいのは変わりないが、それでも道中でただの旅人として扱ってくれるという訳だ。それは対等に見てもらえるという事で、保護対象と護衛よりよっぽど良好な関係に思えた。

「わたし、実はギルドに興味があったんです」

 思わず、まだ抜け切らない敬語で興奮を表に出すセトにアレスはにかりと笑った。

「村の中しか知らないから、外の世界を冒険するって、すっごく楽しそう!」

 王都に着くまでは、暫定的な聖女ではなく冒険者として旅が出来る。現実逃避が全くない訳ではないが、かなり前向きな現実逃避だろうとセトは一人でうんうんと納得した。

 そこではた、と我に返る。

「でも、なんでブレイティアの都?」

「ギルド登録はギルド本部か支部でしか、出来ない。本部は王都にあって、支部はそれぞれの領の都にある。ここから一番近いギルド支部があるのがブレイティアの都だ」

 人差し指をぴっと立てて、アレスがにやりと笑う。なるほど、とセトもにやりと笑った。

「ギルドの依頼はどんなものがあるの?」

 高揚する心のままに、セトはアレスに質問を投げかけた。道連れとして、とても気持ちのいい相手である。


 第一の目的地は領都ブレイティア。

 旅の幸先は、とてもいいものにセトには感じられた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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