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聖女とよばないで(仮題)  作者: ありんこ
第一章 セトという少女
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客人、一

 

 彼女は逃げたいと言った。

 けれど、逃げ道などどこにもないのだと、諦めたように笑った。



 ◇ ◇ ◇



 村長宅に辿り着くと、玄関の前にアステロがいた。

「来たか」

 短く言って、アステロはセトを招くように玄関の布を押し上げる。それを見やって、セトはごくりと生唾を飲み込んだ。妹分の緊張を見て取って、アステロは安心させるように口の端に笑みを引っかけた。

「悪いようにはならないだろ。ほら、お待ちかねだ」

 背中を押されて、セトは客人の待つ家の中へと一歩を踏み出した。


 使者ならばやって来るのは騎士だろうか。調査団ならいかにもな感じの学者か。そう考えていたセトは、客人を前にして目を丸める事になった。

 客人はたったの一人だった。上背は高く、短く刈り上げられた白髪にも見える銀色の髪。鋭い双眸は赤く、歴戦の猛者のごとく鋭く尖っている。日に焼けた肌はアステロよりも浅黒く、素肌をさらしている腕には古傷の跡がいくらかあった。筋骨隆々とまではいかなくても、鍛えられた体躯をしている。騎士のようなかっちりした服ではなく、どちらかと言えば傭兵のような風体の男だった。

 全くもって想定外の来客にセトは緊張も忘れて目を丸めてその男を見上げた。

(背、たっか……首痛い)

 同年代の中でも特に小柄なセトは首を目一杯反らせなければ男と目が合わない。アステロとは頭一つ分、そしてセトとは頭二つ半程身長に差があった。

(ていうか、何者?)

 使者にしても調査団にしてもたった一人で来るとは考えられない。そもそもどう見てもそういった身分がある人間の服装ではない。生成りの上着は半袖で、胸当てはしているが騎士の鎧には程遠い。調査団がどのような服装をしているかなどセトには皆目見当がつかないが、学者肌の人間が傭兵のような風体をしているとも考え難い。

 セトには目の前の男の正体がさっぱり分からなかった。

「俺はアレスという者だ。ギルド……というのは分かるか?」

 セトが余程その表情に疑問符を乗せていたからなのか、男--アレスは苦笑混じりに名乗った。笑うと目尻に小さなしわが出来て、ガタイのいい強面も印象ががらりと変わる。人懐っこい笑みだった。

「ギルド……っていうと、いわゆる冒険者ですよね?」

 そこでいや、とセトは自分の言葉に首を振った。

「というより、ギルドは仕事の斡旋所でしたっけ?」

「そうだな。おおむね合ってる。ギルドと言っても色々あるが、俺は冒険者ギルドに席を置いている。これが会員証」

 そう言ってアレスは襟を立てたシャツの胸元に手を突っ込むと石がはめ込まれた銀色の小さなプレートを引っ張り出した。ネックレスのように首に下げているらしい。プレートはセトの親指の第一関節程の大きさで、身に付けるのに邪魔にはならない絶妙なサイズだ。セトとしては、会員証なんて大事なものなのに随分小さいと思った。何ならすぐに失くしてしまいそうだとも。

「それで、あの……そのギルドの人がどうしてこの村に?」

 てっきり使者か調査団が来たから呼ばれたのだと思ったのだが、ギルド所属の人間に呼ばれる理由はセトには思いつかなかった。

 ギルドというからには仕事を斡旋されて来たのだろう。村から依頼を出したという話は聞かないので、何かしらの取り引きだろうか、とセトは首を傾げる。タンニ村は外に対して開かれた村なので、こうして時々平地の人間が訪ねて来る事があった。大体が布なり糸なり、そういうものを求めてやって来る人間だ。

 しかし、それならばセトが呼ばれる理由はないはずである。村の大人達の中には指名されてものを作る人もいるが、セトはまだこれといって特出したものを作れる腕前ではない。刺繍にしろ織物にしろまだまだ修行中の身だ。

「この村に来たのはもちろん依頼があったからだ」

 アレスが言う。村長夫妻には話が通っているのか、セトが入室してからずっと神妙な面持ちで押し黙っている。

「依頼、ですか?」

 それと自分と、なんの関係があるのだろうか、とセトは思う。

「ああ。ギルドメンバー全てに課せられた依頼だ。拘束力はあるが、対象があやふやすぎて未だに誰も達成してない曰く付きのな」

 曰く付き、と言われてセトは薄ら寒いものを感じて顔をしかめた。

「依頼があったのは今から十四年前。召喚されたはずの聖女がいっかな見つからず、前国王は直下の部下だけでは心許ないとギルドに依頼を出した」

 アレスの言葉に、セトはぎゅっと眉間にしわを寄せた。

「依頼の内容は、聖女の足取りの調査。そして保護と王都へと護送だ」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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