鬼の居ぬ間に
建物内は、管制室のような部屋を居住用に
拡張して改造したような造りをしていた。
上に登る階段が入ってすぐ見えるところに
あるが、まずこのフロアを探査する。
探査しつつあまり時間の余裕もないので、
上階へ上がる準備をする。
予想していた戦力以上のものはなさそうなの
で、一気に上階へ上がっていく。玄想旅団
の12人、百足旅団、狂獣旅団の順だ。
階段を上がりきり、少し広めのフロアに着く。
階段があるのはここまで。二体目のアンド
ロイド、青い体をしたラクシャサが、仏像の
ごとく座禅を組み、四本の腕を合掌させて
いる。
ラクシャサは、二足歩行のアンドロイドと
してはそれほど大きくない、ジャイアント族
のアントン・カントールとほぼ同じぐらいだ。
しかし、性能は段違いだ。
ラクシャサはゆっくり立ち上がる。玄想
旅団の現地組6名が、正対するがまだ接近
しない。百足旅団と、狂獣旅団が上がって
来て、そのまま左周りに奥にある扉を
目ざす。
走りながら、ラクシャサの迎撃を警戒する。
玄想旅団の本部隊が、それを見てそろそろと
右回りに扉を目ざす。こちらが本命だ。
イズミ・ヒノ、ナズミ・ヒノの二人を先頭に、
ジネブラ・マキン、ヨミー・セカンド、
パリザダ・ルルーシュ、少し遅れてガンソク
・ソンウ、最後にオリガ・ダンが付く。
ラクシャサは、こちらから向かって左へ
回った百足と狂獣の両旅団の方へ向かうと
読んでいたが、途中でやめ、アントンの左
に立つおれの方へ、スーっと向かって来た。
4種の異なる斬撃系の武器を持つラクシャサ、
二本の右手で振りかぶる。いったん盾で
受けてみようと思ったベルンハード・ハネル。
ガっと音がして、その瞬間腰の重心を落とす
が、当たりが軽い、とそう思った瞬間、
素晴らしい速さで、ラクシャサがベルン
ハードとアントンの間を抜けた。
ラクシャサは、一瞬でシャマーラとの
距離を縮め、振りかぶったほうの逆の手で
切り上げる。シャマーラも素晴らしい
反応で、逆側へ避けるが、残った左腕の
肘から先が飛ぶ。
そこに百足旅団の前衛サムライが走り
込み、ラクシャサの背後から袈裟切りを
放つが、三つの顔を持つラクシャサは
背後も見えている。
ラクシャサは、回避行動を取りながら、
次々と百足旅団のサムライの斬撃をかわし、
隙をみてカウンターも返す。
シャマーラは、回避行動で転がりながら、
機能服の袖の止血帯を閉めて出血を止める。
転がった腕の先を、セイジェンが横っ飛び
で拾い、シャマーラの元へ寄る。
すぐに腕を付け、少し顔色が青いが、声
ひとつあげずに治癒ナノマシンを使い、
腕を接合していく。その上から、機能
バンテージで巻いていく。
オリガ、アントン、スヴェン、セイジェン、
ベルンハードが周囲を守る。イスハークも
寄ってきて、大丈夫か、と声をかける。
問題ない、と小さく答えるシャマーラの声
を聞いた瞬間、ベルンハードの中で何かが
キレた。百足のサムライ達の間を抜けて
再びこちらに向かいそうなラクシャサに、
「うぉおお!」
と雄叫びをあげ、躍りかかる勢い、で
あったが、スヴェンが足を引っ掛けつつ、
槌の柄の部分で押して躓かせる。
一瞬で頭が冷えるベルンハード。ラクシャサ
は、不用意に突っ込んでくる相手のカウンター
も狙っている。
狂獣旅団は、扉の方へ向かった玄想旅団
の面々を守る位置で絶対に通さない構えだ。
ラクシャサが、緩急の付いた動きで、ゆっくり
した動作から素早い身のこなしに変化する、
一瞬の気も緩められない相手だということが、
玄想旅団の治癒士を狙った動きからも分かった。
ジネブラとヨミー・セカンドで扉を開錠する。
クノイチの二人が飛び込む、残りも続く。
ダフネ・ウッテンが、魔法や剣技などを使え
ないことは情報として得ている。
いた。複数台のモニターの前で、端末に齧り
付いている。クノイチの二人が、刃物を当て
て、動くな、と凄む。しかし、ダフネと
呼ばれるその中年の女性は、まだ端末の
操作を継続していた。
近づいてきたヨミー・セカンドが、
「引きはがして!」
と叫ぶ。
すぐに反応するイズミとナズミ。ダフネを
転がし、手足を拘束する。
変わって端末を操作するヨミー。
「危なかったー、遠隔武器を使用して見える人間
全部殲滅するモードに変えようとしてたよ。
緊急停止パスワード聞き出せる?」
ダフネという女性は拘束されたことで錯乱して
しまい、どうもパスワードどころではないよう
だ。ヒノの二人がその刃物で丁寧にお願い
しても協力してくれそうにない。
特殊な薬物を使用するか聞いてくる二人に、
ヨミーが首を横に振り、
「ハッキングするから30秒くれる? 伝令!」
ヨミーがガンソクに叫ぶ。ガンソクは、よし!
と返して時計を見ながら走り出し、外へ伝え
にいく。
ガンソクが、「あと25秒!」と叫ぶ。
狂獣旅団の団長が、即座に同じ内容を叫ぶ。
百足旅団は、ほぼ全員軽傷を負っているが、
致命傷はない。ただ、ラクシャサにまだ
一太刀も与えられていない。
いや、むしろ剣技だけでラクシャサと渡り
合っているだけでも、相当な集中力だ。
滑るような動きでサムライたちを躱し、
再び玄想旅団を狙う、ラクシャサ。
「よし、いこう!」
守っているだけではいつかやられると判断
したオリガの口から、攻撃の指示が出る。
シャマーラの前にオリガだけ残し、3人で
立ち向かう。相手の出方次第で3人のうち
の誰からでもイニシエートできる俺たちの
必殺技を見せてやる。
また、おれのほうに来た。来い、今度は
決めてやる。体の力を抜く。半眼になる。
さっきと似たようなモーションから、
棍棒を盾の影に隠す、
上段からの大げさな大振りをすぐに引き寄せ、
ラクシャサの斬撃をウィービングで避けつつ、
下から鋭く小さい振りを、動きを読んで置き
に行く。
グワシャと鈍い音がして、一瞬ラクシャサ
が引く。たぶん右上の腕の肘に入った。
しかし、またすぐ向かってくる。
フェイント? 一瞬動きが止まったように
見えたラクシャサの頭部をすかさず打ちに
いく。
「うぉおおおり!」
が、それをアントンの長い腕が制した。
ラクシャサは、停まっていた。
思わず膝を着くベルンハード・ハネル。
混乱した頭の中を必死に整理する。
シャマーラが回避できていなければ……。
そこに歩み寄り、
「ベルン。大丈夫よ、最悪の事態は避けた、
起きていないことは気にしない」
ほら立って、と背に手を当てるシャマーラ。
すまん、と小さく返すベルンハード。




