素質と練度
「北欧の神々よ、凍てつく吹雪で彼の者を
追い払え」
杖から多数の雪玉が発生して高速でアントン
・カントールの元へ飛んでいく。アントン
は盾でそれを必死に防ぐ。
シャマーラ・トルベツコイは火球を発生
させて相手の魔法士の手前の兵士に叩きこむ。
そしてすぐに次の詠唱に入る。
アントンは雪玉を食らって床を転がりながら
非常につらそうだが、実はこれは演技だ。
あまり効いてない攻撃を効いているように
見せるのも重要なテクニックのひとつだ。
実際、氷結系の魔法というのは、火炎系や
雷撃系と比較すると弱い。弱いというのは、
同じサイズの魔法デバイスを使っても、
効果が低いということだ。
本格的に相手にダメージを与えたいなら、
相当大きな魔法デバイスを使用する必要が
ある。けっきょくのところ、氷結に拘る
なら、液体窒素の入ったタンクでもひっくり
返したほうが早いかもしれない。
相手側は、魔法士を含めて11人、
パッと見で、戦士タイプが8名、銃士が
一人、弓兵が一人なのだが、バタついて
いるのか飛び道具が開始して数秒で
まだ飛んでこない。
戦士のほうもあまりまとまりのない動きで
何がしたいのかよくわからない。
その前の襲撃でも気になったのだが、上階
から襲って来たメンバーは、極端な老兵か、
極端に若いかのどちらかだった。
人数や隊の構成自体はそれほど悪くない
のだが、どう見ても練度が低い。こちらの
前衛3人で、相手前衛8人のプレッシャー
を余裕で捌けている。
左から回り込もうとするセイジェン・ガンホン
を意識し過ぎて、相手側の銃士は狙撃どころ
ではなさそうだ。
おれのほうにも氷結魔法が飛んできて、同時
に相手の戦士たちが踏み込んできたが、
雪玉を気にせず3人ほどを棍棒で吹き飛ばす。
前衛と魔法だけで押し込んで勝ちだな、と
思っているうちに、クノイチのうちの一人、
イズミかナズミかどちらかが相手の魔法士の
背後を取ったようだ。
それで勝負が決まった。全員降伏する。
魔法士の老人の事情聴取を行う。別に
警察ではないが、話を聞いてみたいのだ。
七階の中央の部屋で現地組の6名、本部隊は
一階に戻った。だが、話の内容は無線で
伝わっている。
かつて、こういった塔はたくさん見られた。
イゾルデ王国が出来る前の話である。今でも、
この雪原の塔のように、現役で使用されている
塔が、ヤースケライネン教国内にある。
主に生体実験を行い、その結果を戦争や
破壊活動に使用していた。ヤースケライネン
教国の領土がまだ狭いうちは、この雪原の
塔も活発に利用されていた。
ヤースケライネン教国がある程度領土を広げ
切ってしまうと、教国にとってこの塔の
価値が下がってしまったようだ。
つい最近、教国からの補助が完全に打ち
切られてしまった。それまでは研究成果の売上
などで魔法デバイスなどもたくさん所持して
いたのだが、
今やほとんどを盗賊に売り払い、ロクな
魔法が残っていない。改造生物の餌を買う
余裕もなくなり、一頭は処理してしまった。
刑に服したあとに、イゾルデ王国のために
魔法士として働く気はないか聞いてみる。
まだそういうことを考える余裕はない
みたいだ。
この時代、魔法士は貴重であった。
魔法自体は、魔法デバイスを使用すれば、
誰にでも使える。いや、出せると言った
ほうがいいか。
起動方法さえ分かっていれば、出せる。
しかしそれを、任意の対象に当てるのが
難しいのだ。そして、操作方法もデバイス
ごとに異なる。
自動で追尾するタイプの魔法も無くはない、
ただ、そういった魔法は大掛かりになる。
ふつうの魔法は、杖や指輪、ブレスレット、
ネックレスなど、小さいものを使う。
そして、操作はかなりアナログ的である。
魔法士になれる人は、対象の動きを先読み
したうえで、飛翔物の軌道や速度を瞬時に
調整する。
それを、戦闘中にやるわけだ。良い魔法士、
シャマーラもそうだが、戦闘中に、敵の
攻撃を回避しながら、デバイスを操作する。
それができる魔法士がすでに少ない。
ふつうは、前衛などに守ってもらながら、
デバイスの操作に集中しないとダメなのだ。
センスのあるものは、ふたつのデバイスを
同時に使用したり、詠唱のみでプレッシャー
だけ与えたり、実際のとは異なる詠唱を
行ったりする。
高度な魔法士同士の戦いになると、お互いの
魔法をキャンセルさせるための技術を
多様するため、素人には何が起こっているのか
わからなくなる。
その後、二日ほど逗留して、護送車が来る
のを待つ。けっきょく一階のベッドのある
部屋は監禁室となってしまい使えなかったが、
七階の部屋のベッドを使うことができた。
老人の魔法士が七階の広い部屋を一人で
使っていたのだが、広い寝室が3部屋ある。
3人が選ばれて、七階で寝る。おれと
セイジェンとガンソクだ。
残りは一階で宿営する。スヴェンとアントン
は宿営地で簡易ベッドを使えるようだ。
しかし、と思う。この老人の部屋の趣味。
至るところに様々な人形が置いてある。ぱっと
見て、凄く精巧で趣味の良いものもあるの
だが、どうにも理解できないものもある。
気になるのは、何か特別な、魔法生物的な
ものではないかどうかだ。こんなものに
囲まれて眠ってしまって大丈夫だろうか。
そんなことを考えていると、けっきょくあまり
眠れなかった。しかも第3戦闘配備で軽装
なのだ。これなら、鎧を着て武器を抱いて
宿営地で寝たほうがよく眠れる。
翌朝、セイジェンとガンソクも眠そうにして
いた。彼らは二人とも、夜中に人形が確かに
動いたというのだ。しかし、朝確認して
みると、そういう動くタイプのものでは
なかったらしい。




