もこは弟を知る。
「姉さん、最近帰り遅いけどなにしてんの?」
リビングのソファでのんびりテレビを見ている私の肩に、響の顎が乗る。
びくっと肩が上がり、振動が伝わったであろう響は特に気にもせずに顎を肩に乗せたままだ。
弟が後ろにいるなんて全く気がつかなかった。
そっと、手に持ったケータイを太ももの上に伏せて置く。
「会社行くのも浮き足立ってるし。」
「……そうかな?」
「気付いてないの?血色もいいし、髪もツヤツヤしてるし、シャンプー変えたよね」
「……」
「リビングいる時も、俺と話してる時もケータイが気になってチラチラ見てるし。」
「……」
「好きなアイドルでもできたの?」
横から伸ばされる手。
スローモーションで見えた響の手は、中学の時とは違い、筋肉が付き筋張っている。
部活で焼けて健康的な腕が綺麗で、男の子から大人の男性へと変わってしまったことに寂しさを感じた。
しかし、寂しさを感じたのは一瞬だ。
その綺麗な腕の先--手に握られていたのはケータイ。
気付いた時には時すでに遅し。
スローモーションで伸ばされた腕は、2倍速で元の場所に戻り、指はケータイを巧みに操作する。
響の顔はいつのまにか離れていて、座っている私からケータイを奪い返されないように立ち上がったようだ。
呆けている私をよそに響はカチカチとケータイを操作していると思いきや、ピタリと指を止めた。
どうしたんだろう…?と思った瞬間。
「……っ!!」
ガシャーン!!とリビングに響くガラスが割れた音。
ゆっくり音がした方へ体を向ければ、ガラステーブルに突き刺さったケータイが視界に入った。
ケータイの周りのガラスには亀裂が入り、ケータイを取った瞬間に亀裂から崩れて原形をとどめることはないだろう。
投げた本人から感じる怒り。
背中で感じる響の怒りに鳥肌が立ち、顔面蒼白になる。
何かしただろうか…?
今までに響がこれほどまで怒りを表したことがない。
一回りも離れているからか喧嘩なんて全くしない仲のいい姉弟だ。
じーっと突き刺さったケータイを見つめ、考えることは響のことよりも、ケータイの中に入っている大切な情報だ。
そっとケータイに触れる。
ケータイを抜こうとして、周りのガラスにピシッと新しい亀裂が入った。
無意識に出たため息、そのため息は後ろに立っていた響にも聞こえていたはずだ。
怒り露わに足音を立て、リビングのドア横の壁を殴りそのまま外へ出て行ってしまった。
この日を境に姉離れしてしまった響は心優しい子から、姉をからかう意地悪な弟に。
それは悪質で、今まで仲よかったこともあり、精神的に辛かった。
そして、スキンシップが激しくなった--…




