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モコモコおててで異世界を歩く。  作者: 壱菜
モコモコおててでお手伝い。
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もこは契約する。


 廊下につながる扉の先が騒がしくなり、ノックも無しに勢いよく扉が開く。撫でつけた髪を乱し肩で大きく息をする契約者と目が合うと、緊迫した表情を緩め乱れた呼吸を整えて後ろ手で扉を閉めた。

 

「ほあんふぉ、けーふぃたふぇうー?」


 口にケーキを沢山詰め込み頬張る猫の姿に、何事もなかったと安堵のため息をついたロアンは、先程とは打って変わり優雅な足取りでモコの隣に腰を下ろした。


「甘いものはいい。紅茶だけいただこう。」


 そう言い、自らお茶を用意しようと茶器に手を伸ばしたが、目の前の白蓮に笑顔と手で止められた。

 それを横目で見ながら口に含むのは本日三個目となるケーキ。ショートケーキ、チーズケーキの次はガサール島直輸入のフルーツが沢山のったフルーツパイだ。

 意気揚々とケーキを口に運ぶモコは、隣から伸びてきた手に口元を拭われた。

 突然のことに驚き固まる体はしっかりと離れていく指先を凝視していた。スローモーションで離れて行く人差し指には、立派なパイかすが乗っている。それを胸元から取り出したハンカチで拭う姿に黒と茶色の毛に覆われた顔を赤く染めた。


(自然とやってのけてしまう紳士さに心臓がもたない…)


 二人で共に過ごした日は短いけれど、その時のロアンと何一つ違いはない。紳士的な行動は常にあったし、着ている服装も変わらない。変わってしまったのは環境と私の意識の問題だ。

 この革張りの三人掛けソファに足を組み優雅に座るロアンはどこからどうみても貴公子であり、人の上に立つ人間であることがわかる。

 しかし、一緒に暮らしていた時はただ普通の青年だった。


 城に登城して知ったロアンの出生。

 ふっと気を緩めた時に気付かされる。

 ロアンが王子様であるということ。


 乙女なら一度は夢を見る。

 今この状況は夢そのものだと頭では分かっていても「きゃー!王子様ぁ!!」なんて漫画みたいな展開にはならない。

 ただ普通に過ごした日が懐かしく感じてしまう。


「あ、ありがとっ。汚いから、今度からはちゃんと紙で拭くから。だから、ねっ…?」


ーー王子様がそんなことしなくていいんだよ。


 言葉を飲み込む。

 言ってはいけないような気がした…。

 

 顔を俯かせた私をジッと見下ろすロアンは、手に持ったままのハンカチをそっと私の膝に置いた。


「邪魔して悪いが、そろそろ話をしてもいいだろうか?」


 いつの間にか白蓮の隣に座り、足を組んでお茶を飲む国王に目を見開いた。


(ーーー全く気配がなかった…)


 うんうん。と口に頬張ったままのケーキを飲み込みながら勢いよく頷く。

 口に物を入れながら頷く行為はとても失礼だが、隣から聞こえた盛大な舌打ちよりマシだと思いたい。


「実は、モコに頼みたいことがある。」

「却下する。」

「ロアンには聞いていない。俺はモコと話をしているんだ。」

「駄目だ。モコは俺と契約をしているんだ、俺にも聞く義務があるはずだ。」


 自分を取り合っての喧嘩にピンクな雰囲気は全くなく、兄弟二人の周りには火花が散っている。

 リアルな国王と王子が自分を取り合ってるなんて夢のまた夢。

 この数分で夢を二個見れてしまった。


(恐るべし…異世界。)


 ロアンの国王に対しての態度に「この兄弟は喧嘩するほど仲がいいんだなぁ。」と呑気に4つ目のレアチーズケーキを口に含んだ。


「実は、偵察を頼みたい。」


 目が合うようにと腰を折り低いガラステーブルに両肘を立て、組んだ両手の上に顎を乗せた国王は最後の一口を頬張ったタイミングで声をかける。


 その距離1メートル。


 口に詰め込んだレアチーズケーキを吹き出しそうになり、慌てて両肉球で口を押さえ、これもまた無意識に頷いてしまう。

 「しまった!」と気付いたのは目の前の神々しいイケメンがにんまりと悪戯が成功したと笑う瞬間と同時に、隣から見慣れたイケメンが溜め息を盛大に吐いた時だ。


(やってしまった…。)


 気付いた時には時既に遅し。

 たった今食べたレアチーズケーキも、その前に食べた三つのケーキも美味しかった筈なのに今では胃の中で大暴れし、キリキリと胃を傷めつける。


「了承も得たことだ、説明を頼むよクシル。」

「はいよー。」


 ズカズカと足音を立てて国王の斜め後ろに立った彼は、手に持った紙を読み上げた。


「モコさんに偵察を頼みたいのは、城下町の様子、噂話、動物たちの行動と様子です。」

「却下す「ロアンは黙っていなさい。」


 「却下」と言葉を発したロアンを国王は声を低くし、制する。

 再び舌打ちをして勢い任せに背もたれに背を預けたロアン。ここまで怒りを露わにすることが珍しく肩がびくっと跳ねた。


「最近、更に魔物が活発化してきています。意志を持ったように人間を襲い、誘拐までするようになりました。意図的に操られているのか、自然と成長しての出来事なのか不明です。我々が情報を集めたとしても知らぬ人間に親しく噂話をする人間なんていません。隠密や、情報屋が集めた情報にも限度があるのです。」


 クシルは先程とは180度真逆な態度で読み上げる。

 その内容すら頭に入らない程クシルの態度に衝撃を受けている。

 これでピシッとスーツを着ていたら優秀な秘書なのだろうが…やっぱ首から上は派手すぎる。

 真面目だろうがやっぱり見た目はチャラ男だ。と小さく笑った。


 そんな妄想をしているうちに説明は終わり、結局なにをすればいいのか分からないうちにプニプニの肉球で拇印を押して契約をしていた。

 

 差し出された紙に可愛らしい肉球はとても不釣り合いだなぁっと他人事のように見ていた私は次の日の朝、話をしっかりと聞いていなかったことを後悔することになる。


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