4話。
モコと呼ばれたメス猫はとっても単純だ。
今日もまた僕に勝てないと分かっていても使える魔法をフル活用して挑んでくる。
「まだ契約できないの?ノロマだね。」
丸太が飛んでくる。
しかしそれは結界に擦りもせず的外れな方向に飛んでいく。まだ魔法を使いこなせていない。感情に左右されやすいタイプだ。
「ねぇ、まだなのー?ただ魔力をくるく…」
会話の途中で太枝が飛んでくる。
結界に微かに当たる。しかしまだコントロールができていない。魔法はイメージだ。沢山の想像が魔法に影響する。
もうひと枝飛んでくる。
結界に当たり跳ね返る。先程の太い枝よりはるかに細くて短い枝。軽いものなら当たるんだと少しだけ感心する。
毎日、毎日、小馬鹿にしたように声をかけると物が飛んでくる。
ある時は木の根が土から半月の形で出現し、足を引っ掛ける。
ある時はツルを網目にして、足元に仕掛けその上に枯れ草を撒いて罠を敷く。どれも簡単に見破れるが、敢えて掛かったフリをしてさっさと脱出する。
それを木の影からこっそりと様子を見ていたモコは悔しそうに地団駄を踏む。
(そんな音を立てたらそこにいるのバレバレだよ。)
魔法の実力も、感情の起伏もまだまだだなぁっと頭を振る。
魔法より指先の方が器用だったようで、あの短い指先を器用に使い木蓮と白蓮の髪を編んでいく。
「双子のおさげできあがりー!!」
「まぁ、可愛いっ。モコさん、ありがとうございます。」
髪の毛を両サイドに分けて三つ編みをしただけ。
白蓮は木蓮の三つ編みにされた髪を掴み満面の笑みを浮かべる。それに気をよくした猫はドヤ顔でふんぞり返る。なんかそれが気に入らない。
「ってか、おさげって何?」
「え、おさげはおさげだよ。」
「は?だからおさげって何さ。」
「え、おさげって知らないの?」
「知らないし。」
「えぇー!まさか死語!?おさげって死語なの?」
「煩いなぁ。そんな叫ぶことじゃないでしょ。」
「いや、だっておさげだよ?おさげ!」
「だから知らないって。」
ガクッと肩を落とすモコを見て優越感を得る。
しかし、双子の僕を見る目は白けていて、最愛の木蓮に向けられた冷めた眼差しには心が痛んだ。
「おさげは知らないけど、上手に編めたんじゃないの?」
いや、別に双子の冷ややかな視線が気になったわけじゃない。いつの間にか二つ編みも三つ編みもできるようになっていたし、実際に木蓮が可愛いから。
でも普段木蓮以外を褒めないから上から目線なのは気にしないで欲しい。
「は?は?はぁ?」
「は、何?」
「いや、アクアが褒めるなんて初めてだから…。えっ?大丈夫?腐った魚でも食べた?」
「君さ、本当に失礼だよね。人が褒めたんだから素直に受け取りなよ。」
「え、やっぱり褒めたの?え、褒められたの?」
目の前で腕を組み頭を傾げて悩み出した猫。
(性格までノロマだったとは…。この猫は僕を苛立たせる天才だな。)
「………や、やったぁぁぁぁっ!!」
「よかったですね、モコさん。」
「白蓮ありがとー!」
「モコ、よく頑張ったね。アクアが褒めるなんて余程上手にできたってことだよ。滅多に褒めないから貴重だよー。ほんっとに人を褒めないからさぁ、自分より上手で悔しいからって少し上から目線だけど褒められたんだよー!凄いっ。」
木蓮の言葉が痛い。
けど、そこまで喜んでくれるならたまに褒めるのも悪い気はしない。
「今日はアクアに褒められた記念に晩ご飯は豪華にしなきゃっ。」
「え、待って!今日は僕の島で二人で…。」
「そんなのいつでもできるでしょ。アクアが褒めるなんて滅多にないんだから。」
「……うっ。」
「よし、白蓮手つだ…う前にモコに新しい魔法を教えてあげて。その代わり、ロアンが料理手伝ってくれる?」
「ああ、承知した。」
白蓮に手伝ってと言いかけた木蓮に、僕とモコは必死に頭を左右に振った。白蓮が手伝えば全ての料理が見た目も味も不味いことになる。それを阻止しなければ。
しかし、ロアンが手伝うのは許さない。
「木蓮、僕も手伝…」
「アクアは白蓮とモコの修行を見守っていてね。」
言葉を遮られ、にっこりと笑う表情から無言の圧力を感じる。
「はい。」と頷くしかできない僕を一瞥し、ロアンと愛の巣へと向かう木蓮の後ろ姿を見て今回はやり過ぎたと後悔した。
(くうぅぅ、今度からはもっと人を褒めて木蓮に褒められるようにしなきゃっ。)
モコのことをノロマと言うけれど、アクアの性格も人一倍ひん曲がっている。




