2話。
「ねぇ、木蓮。契約ってそんなに難しいかな?」
「知らないよー。だって、私が契約したくてもアクアが許さないじゃん。」
「うん、ダメ。」
「そうでしょ?契約をした事ないのに難しいも簡単も分かるわけないよ。契約したことがあるアクアなら分かるんじゃないの?」
「うーん。簡単なはずなんだけどなぁ…。」
日中に様子を見に行った先で、契約するために向かい合っていてもなかなか手を繋げない二人。
一週間経った今では手を繋ぐことができるようになったようだが、モコの魔力によってロアンが押されているのを見てしまい、読みが間違えたか?と思ったが、ロアンはただ優しいんだと気付く。
暴走する魔力を力尽くで抑えてしまえばいいのに。
それを知っていてもモコが傷付かない方法で契約するのに必要な魔力の制御の仕方や操り方を粘り強く修行している。
毎日、毎日、感じる焦ったさ。
モコ本人に「好きでもないのに恥ずかしがる必要はない。」といっても馬鹿にしたような目で見られ、ロアンには「強引な方がいい。」と言っても効果は全くなかった。
それからロアンを見かける度に「なんなら僕がモコを気絶させようか?」と何度もいいかける。
気絶していれば契約なんてすぐにできる。勿論、お互い信頼し、心を通わせていないと契約は結べないが、魔力が暴走しやすい相手との契約は気絶した方がやりやすいのだ。実践積みだから確かだ。
しかしそれではロアンは納得をしないだろう。
周りのことを考えて欲しい。
焦らされ、焦らされ。気になって毎日様子を見に行くがその度に沸き起こる苛立ちを我慢する身にもなって欲しい。
「なら見に行かなきゃいいじゃん。」
木蓮が彦次郎お手製の煎餅を食べながら呟いた。
(……その通りなんだけどさ。気になるんだよぉ)
木蓮の膝に顔を埋める。
甘えてきたアクアに木蓮は煎餅を持っていない手で頭を撫でる。
「うーん、契約のことは二人に任せればいいんじゃない?アクアが何を言っても二人には二人のペースがあるんだし。あとは…気分転換かな。二人でどこか旅行とかしてみるといいんじゃない?」
「旅行…そ、それだぁ!」
ガバッと頭を上げる。
今の時間なら二人は解散しているはず。
木蓮にお礼を言ってロアンが泊まっている客室へ急いだ。
「彦次郎のとこ遊びに行けば?」
次に進めないと悩んでいるなら気分転換しに行けばいい。同じ転移者と会話を楽しめば気分も変わるはず。
僕の奥さんは本当に気が効く。
そうして次の日に二人は僕が不在のウルール島へ遊びに出掛けた。勿論、モコには僕からの助言があったとは内緒にしてもらって。
「ふぅ、今日一日はストレスなく過ごせる。」
いつもの定位置、湖の畔で木蓮の膝に頭を乗せ横になり日向ぼっこ。
アクアの呟きに頭上からクスクスと笑う声。
「アクアは昔から不器用よね。」
「えっ、不器用?」
「うん、だって二人を心配しているんでしょ?」
「……心配はしてない。」
「ならどうして二人が気になるの?」
「それはわからない…。気になるからつい口出ししたくなる。」
「それが不器用なんだよ。」
頭をゆっくり撫ぜられる。
木々の隙間から照らす太陽が体を温め、目蓋が落ちる。
「私が初めてウルール島へ行ったとき、大亀さんと遊んだことがあったよね。その日以来、海の従者や生物に私が溺れないよう一緒に遊ぶように頼んだでしょ?」
こくん、と頷く。あれは本当に恐怖だったから。
「白蓮を連れて遊びにいくようになって、自分から生き物と遊ぶことができない白蓮の周りに亀とか蟹がさりげなく通るように指示したでしょ?」
また頷く。
木蓮が海の中へ遊びに行って羨ましそうに寂しそうに眺めている姿を見てしまったら何故か指示していた。
「私はこの島で、アクアはウルール島の主として別々に過ごすことを条件に結婚を許してもらったでしょ?」
また頷く。
それは君の父親が出した条件。
「父はただ貴方に私を取られるのが嫌だっただけで冗談だったはずよ。貴方は優しいから白蓮がこの島に一人で残るのを良しとしなかったのでしょ?」
違うよ。
ただ、僕の島を守るかわりの精霊がいなかっただけ。そりゃ、僕の島で二人で暮らしたいと思ったこともあるよ。けど、通い夫も嫌じゃない。
「周りには自分勝手な人だと思われがちだけど、貴方はとても気遣い屋で心優しい人よ。きっといつかあの二人も気付くはず。けど、お節介はほどほどにね。」
木蓮の言葉は僕の安定剤だ。
僕のことを本人以上によく理解してくれている。
あの二人のことが気になって仕方ない。けれど、今日は忘れて妻に甘えよう。そして明日からほどほどのお節介をしよう。
安心した途端、ストレスで疲れが溜まった体は眠りについた。




