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モコモコおててで異世界を歩く。  作者: 壱菜
モコモコおてては旅に出る。
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間話:アクアの恋そして我慢。


 なんでこんなにもトロいのだろうか。


 木の影から盗み見る先には、もじもじと体を揺する猫の姿。

『もこ』と呼ばれた女…いや、雌猫は名前の通り毛がモコモコしている。

 僕のことを"女"と勘違いしたその猫の第一印象は、はっきりいって最悪だ。


 最愛の妻との大切な時間を邪魔する猫。

 いっそのこと、どこか遠くに飛ばしてしまおうかと思ったが、この世界に来たばかりの猫にそれをしたら体が真っ二つになって木蓮に怒られそうだから我慢する。


 しかしなんだろうか。人間とはこんなものなのか?焦ったい、本当に焦ったい。

 契約なんて『手を繋いで魔力を絡ませて、はいっ出来上がり。』じゃなかったっけ?


 うーん。と首を傾げる。

 何故手を繋ぐこともできないんだ?理解ができない。恋人なわけじゃないし。

 そんな二人を背にし、最愛の妻のところへ向かう。


「アクア、どこにいってたの?」

「……んー、二人の様子見てきたー。」


 湖の横に立つ樹齢何千年の大木の枝に、木蓮が作った愛の巣がある。

 扉を開け、目に入ったのは台所に立ち料理をする愛しい妻の姿。

 振り返ると緑の髪が宙を舞い、とても綺麗だ。


 妻とは幼なじみ。

 木蓮の両親とは友人の関係だ。


 友人の二人に連れられてウルール島へ来た木蓮はまだ小さく好奇心旺盛な女の子だった。

 興味津々と顔を輝かせて海を眺めるだけの女の子。その興味が次の行動に移るまで数時間しか持たなかった。

 ただ海を眺めているだけでおとなしく偉い子だなと感心して友人とお茶を飲んでいる後ろで、バシャンっと水飛沫の音が聞こえた時の僕の顔は蒼白だっと思う。

 慌てて海を振り返る僕に対して、友人はのんびりこう言った。

「あー、大丈夫、大丈夫。いつものことだから。」と。

 のんびりとお茶を飲み、海を見て笑う風の精霊の母親。

「二時間もったのが奇跡的だな。」

 がははっ。と笑う地の精霊の父親。

 二人はとても余裕そうでそれが逆に怖かったのを今でもよく覚えている。


 再び水飛沫が上がり、友人二人の余裕を理解するのは一瞬だった。


「パパーママー!見てぇー!変な生き物ー!」


 大きな水飛沫を上げて現れたのは従者の大亀。

 泣きながら現れた大亀の太い首にはツタで作られた手綱。それをしっかりと握り首の後ろに足を広げて跨る少女。

 この異様な光景に「亀って泣くんだ…。」と的外れなことを思っていた。

 

 そんな出会いから2000年以上が経ち、毎日遊びに来る木蓮を女性として見るようになったのはほんと些細なことだ。


 木蓮には双子の妹がいてその妹は木蓮とは違い引っ込み思案な子だった。

 家族四人で来た時も目を合わせてペコリと頭を下げるだけで会話はなし。両親の隣に座り海で遊ぶ木蓮を羨ましそうに眺めるだけ。

 おてんば過ぎて手のつけられない木蓮より、大人しく話を聞いてくれる白蓮の方が男受けはいいのだと思う。けれど、僕には物足りなさしか印象に残らなかった。


 双子だけで遊びに来る日が増え、気付けば双子は綺麗な女人となっていた。

 友人はさっさと二人で隠居し、僕の暇つぶし相手は必然と双子の仕事となったようだ。

 従者達は亀やら魚やら蟹やらで移動や配達、伝達としてはとても役に立つが料理洗濯掃除は全くできない。……僕もできないから文句は言えない。

 そんな僕を見兼ね、ある日心優しい白蓮が手料理を振る舞ってくれたのだ。しかし、それは見た目からして"不味い"物だった。

 漸く心を開き会話することができるようになった白蓮との友情に亀裂が入るであろうこの場面。僕がとった行動は『完食』と言う試練だ。


 はっきりいって死ぬかと思った。

 結界を張っていても悪意のないものには全く効かない。

 胃をきりきりと痛めつける白蓮の料理に、本気で嘔吐するかと思っていた時に、スッと差し出された湯飲み。

 

「お疲れ様。このお茶は白蓮の手料理を食べた後に飲むと胃がスッキリするよ。内緒ねっ。」


 悪戯っ子のように笑う木蓮。

 そのお茶は本当によく胃に効き、お礼を言った時の木蓮の笑顔に心が鷲掴みにされた。これが吊り橋効果というやつなのだろうか。

 今までに命の危険を感じたことがなかった。この白蓮の料理を食べるまでは。単純かと思うけれど、命を救ってもらったようなもの。

 それからは遊びに来る木蓮をまだかまだかと待つようになり、手料理や掃除、洗濯を一緒にするようになる。

 木蓮の後をくっついて歩くようになった僕を木蓮は弟のように思っていたと告げられた時はとてもショックだった。


 何かカッコいいところを見せつけなきゃと考える一方、自分の容姿に悩むようになった。

 小さい背にクリクリした瞳、白い艶のある肌に女みたいな髪型。

 木蓮より背が小さいことが一番気になった。


「僕って女の子に見える?」


 好きな人には男として見てもらいたい。

 何日も何週間も何ヶ月も悩んで悩んで、筋力トレーニングもしたしカルシウムも沢山とった。日向ぼっこをして肌を日に焼いた。しかし、全く体型が変わることはなかった。

 そして悩みに悩んだ末、本人に聞くことにしたのだ。


「え、アクアが?女の子?」


 あははははっとお腹を抱えて笑う木蓮に、愕然とする。聞かなければよかったと頭を抱える僕に「アクアはどう見てもカッコいい大人だよ。」と言ったのだ。 

 女々しい僕に逞しい木蓮。

 サバサバとした性格の木蓮にどっぷりとハマってしまうのも早く、振られるのを恐れた分長い間僕の片思いが続いた。

 しかし、両思いになる瞬間は呆気ないものだった。


「木蓮、僕…。君のことが好きなんだ。」

 何年も蓄積された恋心。勇気を振り絞って伝えた僕に、木蓮はこう答えた。


「えっ?知ってるけど。」

僕の勇気は逞しくサバサバした性格の木蓮にばっさりと斬られた。

 まさかの答えに焦ったのは僕だけで、木蓮は満面の笑みで「ありがとう。私も好きだよ。」と言って移動魔法でガサール島へ帰ってしまった。


 完全に言い逃げした木蓮。

 追いかけるという選択肢に気付けない程舞い上がり、従者一人一人に言いふらし、それだけじゃ足りなかった僕は友人二人のもとへ魔法で飛び、あって一言「娘さんと結婚します!」と叫んだ。


 舞い上がり過ぎて叫んだ後の記憶が全くないけれど、気付いた時には自分の島の砂浜に倒れていた。それを従者は哀れみを隠さず遠くから見ていたのだ。


隠居先で。


「娘さんと結婚します!」と突然現れた友人が再会早々に変なことを口走った。

即、最大魔法をお見舞いし、気絶したアクアを移動魔法でウルール島へ放り投げてくる。その全てを見ていた妻はあらあらと笑う。


「誰があんな奴に大事な娘をやるか!」


恋人の父親がそう叫んだことを気絶して島へ強制送還されたアクアは知らない。

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