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モコモコおててで異世界を歩く。  作者: 壱菜
モコモコおてては旅に出る。
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もこは笑い合う。


 ウルール島にお邪魔して6日目の朝。

 電子レンジならぬオーブンレンジをすごい勢いで生産中の私にアクアは呟いた。


「いつ帰るの?」

ーーあと何日かしたら。

「……なら、ケーキ焼いて。」

ーーじゃぁバナナケーキでもいい?

「うん、じゃぁ、木蓮にバナナ貰ってくる。」


 オーブンレンジが出来上がり、手作りケーキを食べたアクアはとても気に入り、そのおかげでいがみ合っていた二人が今ではすっかり仲良しだ。ケーキで釣れてしまうアクアに案外ちょろいもんだなと思ったことは内緒。

 

 アクアが戻るまで時間がある。

 それまでにこの目の前にある魔法石に魔力を込めてしまおうと短い腕を伸ばす。


「ーーもこ。」


 時間が静止した。

 もこと呼ぶのは木蓮しかいない。しかし、聞き覚えのある声に後ろを勢いよく振り返った。


みゃぁにゃんっ(ろあん)!!」


 移動魔法で空間が歪み、その前に立っていたのは漆黒を纏うロアンだ。

 椅子から飛び降り、勢いよくロアンに飛びつく。

 しかし、ジャンプ力がなく太ももにベッタリとくっ付いた猫を見て、ロアンは小さく笑った。そして優しく引き離し自分の肩にのせ首筋を撫でた。


「遅くなってすまない。」


 久々のロアンの温もりと香りに、嬉しさの余り首筋に擦り寄る。仕事だと家を出てから約10日、他のことで気を紛らわせていたけれど、やっぱり寂しかったんだなと首筋から離れないようにしがみつく。


「家に帰るともこの姿がなく動揺した。どうすれば良いのかと考えが纏まらず困惑している時にちょうど水の精霊が家の前を横切ったんだ。もこはここにいると聞いて安心した。」


"もこ"


 これまでの人生で名前を呼ばれてこんなにも気持ちが昂ったのは初めてだ。

 小さなふわふわの体をそっと砂浜に下ろす。

 まだ離れたくなくて離れていくロアンの手を握ると、爪先から頭の天辺まで強風が吹き荒れる。


「うにゃぁぁっ!?」

「ーーっ!」


 急な魔力の暴走になす術がなく、ロアンの手にすがる。そんなもこをロアンは抱きしめた。

 もこの暴走した魔力が竜巻となり、二人を隠す。それを抑えようとロアンが火魔法を発動させ、竜巻に絡みつかせる。


 抱きしめられたもこの背をロアンが優しく撫でるが混乱したもこにはロアンの意図が分からず、ロアンは「自分で制御しなくちゃ」と焦るもこに落ち着くようにと体を持ち上げ額同士をくっ付けた。

 混乱して瞳孔が開き焦点が合わない瞳に、漆黒の瞳は力強く見つめる。額を合わせることで落ち着きつつあるもこは、目の前の瞳を凝視した。

 吸い止まれそうな綺麗な瞳は、宝石のように輝いて見えた。


「もこ、落ち着くんだ。」


 優しく嗜める声。

 ストンっと心の中に落ちた。それは焦りや寂しさ、一瞬で湧き上がった感情を抑える。 


 二人を包む竜巻に火は綺麗に絡み合い、二人を痛めつけることなく温かな風となり包み込む。

 額をつけたまま見つめ合う二人。その二人の胸から光が発生し、二人の間に留まる。

 綺麗な円型になった光は淡く輝き、風と火が絡み合った竜巻をそっと吸い込んでいく。


 最後の風がキュポンッと音を立てて光の中に吸い込まれていくのに時間はかからなかった。

 風が落ち着いてもまだ二人の間にある光は輝き続け、額を離したもこが恐る恐る肉球で触れてみる。


 パンッと甲高い音が響き、光は霧散した。


「……これは何だ?」

「んー?数珠かなぁ?」


 宙に浮かんだ丸い石が連なった輪。

 石は白と赤がグラデーションされ、一つ一つのキラキラと輝いて見える。


「じゅ、ず、とはなんだ?」

「私の住んでたところでは、手首に…うぇぇぇぇー!!!」


 浮かんだ数珠を肉球で掴み確認していると、あることに気づき数珠からロアンへ勢いよく視線を向けた。

 驚愕し荒げた声に目の前の人物が驚いたのか、それとも私と同じ理由で驚いたのかは分からない。分かることは今まで以上にロアンの表情筋が緩んでイケメンが間抜け面になっていること。


「水の精霊が言っていたように賑やかだな。」


 間抜け面は一瞬だけで「漸く声が聞けたな。」と言葉を続けた。


(ダメなんだってー。イケメンの笑顔はダメなの!)


 手に持った数珠を握りしめ、地団駄を踏む。

 人間の時ほど強い地団駄は踏めないが、周りから見ると短い足でバタバタと暴れているようにしか見えない。そんなもこを見てロアンは密かに笑う。


「それ、俺にもくれないか?」


 いつまでも見ていたい衝動に駆られていたが、もこの手にある数珠とやらが気になるロアンは声をかける。

 思い出したと表情を変えたもこは、二つあるうちの一つをロアンに渡した。


「私の国では数珠と呼んでいるの。手首につけるんだよ。」


 成人男性が余裕で付けられる大きさの数珠を左手首に付ける。すると、数珠は見る見るうちに小さくなり手首ぴったりにサイズを変えた。


「言葉も通じるようになったってことは契約が成功したのかな?」


 左手首に付いた綺麗な数珠を眺めながら問う。


「そうみたいだな。一時はどうなるかと焦ったが無事でよかった。」

「う…、ごめんなさい。」


 伏せた頭を優しく撫でられる。

 その手には同じ数珠が付けられていて、自然と笑みが漏れる。


「よろしく頼むな、契約者どの。」

「こちらこそ迷惑をおかけます、契約者さま。」


 二人で笑い合う。

 契約は嫌だと、人間に関わり合うのはもう嫌だと感じていた。けれど二人で作り出したものを身につけて笑い合う。それがどれだけ幸せなことか。お金を出して買えてしまう世界では経験できなかったこと。この世界に来ていなかったら経験できなかったこと。


 契約者がロアンでよかった。

 二人の手首には二人の魔力が詰まった石がキラキラと輝き続ける。


これにて第二部のモコモコおてては旅に出る。が終わりになります。ご愛読ありがとうございます★

第三部も宜しくお願いします。

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