もこ日記。-3-
22日目。
二人での生活はなかなか難しい。
一巻きから少しずつ巻けるようになった。
23日目。
ロアンは私が寝てからじゃないと寝ない。
修行はなかなか進まない。髪の毛はだいぶまともになった、気がする。
24日目。
歯ブラシが洗面台に二個並んでいる。すごく照れる。
魔力を三分の一まで巻けるようになった。
25日目。
髪の毛が完璧に編めるようになった。アクアからも合格をもらった。
私が寝ないとベッドに入らないロアンを強制的にベッドへ寝かす。ついでに肩をトントンして眠りを誘う。
26日目。
髪の毛が編めるようになるとするすると魔力を絡ませることができた。
夜はロアンの仕事があるからと家を開ける。なんだか寂しいような…?
27日目。
朝起きてもロアンがいなかった。
ロアンがいないから修行はお休み。
28日目。
ロアン帰っとこない。
暇だから彦次郎さんとこいこ。
一匹と一人の共同生活は、素人にはなかなか高レベルだった。すっごく気を使う。
ご飯食べるにも森の中での空気とは違い、狭い空間に二人きりは更に緊張するし、トイレの音が聞こえていないかとハラハラするし、寝てる時にイビキとか寝言とか言ってないか気になるし。
世の中の共同生活をしている皆様、どうやって生活してるのか教えてください。
そんな私を察してか、共同生活2日目はロアンが同じ時間にベッドへ入ることはなく居間で剣の手入れを始める。緊張で体が興奮し、目が冴えてしまい寝付きが悪い。ロアンの後ろ姿を眺めているうちにいつの間にか寝付いていたようだ。
朝起きてすぐの「おはよう」の挨拶は、猫語でも何を言っているのかが通じているようで、私より先に起きたロアンは、フライパン片手に「おはよう」と返してくれる。
ベーコンの焼けた食欲をそそる匂いにお腹の虫が活発に活動を始める。完全に女子としてどうなのかなと思うけれど、猫の手は全く借りる必要のないロアンがご飯を作ってくれ、至れり尽くせり状態だ。イケメンはなんでもできるんだなと感心しちゃう。
今まで家族と住んでいて、この世界でこの家にいる時は一人だったからなんだか不思議な感じがしたけれど、一人だと広かったこの家に人がいることに凄く安心できた。
ロアンと自分の歯ブラシが洗面台に並んだ時は鼻血が出るかと思った。並んだ歯ブラシを直視しないように気を付けて鼻血が出ないよう阻止する。一緒に住んでいる雌猫が変態だとバレないようにしないと。
ロアンと共同生活を始めて二人の纏う空気が変わったように思う。勿論ピンク色ではない。
そのおかげか、修行が進んでいるように感じる。
修行より先にできるようになったのは、髪の毛の二重編みだ。あれだけ手こずっていた細い髪もなんのそのとくるくるくるくる巻ける。髪質を考えて持ち方を変えたり強弱をつけることで今まで苦手としてた髪の毛の漏れを持ち直すことや、左右の手に持ち替えることも難無くできるようになった。
「やっとできたのー?ふーん。まぁ、合格かなぁ。」
木蓮の髪を覗き込み、頷くアクア。
表情には出さずに、右腕だけで小さくガッツポーズ。アクアに合格と言われ舞い上がっていた私は、就寝時に居間で時間を潰すロアンの膝を肉球で叩きベッドへ誘う。……言い方が悪かった。ベッドには誘うが、私のベッドではなくロアン専用のベッドにだ。
戸惑いを見せるロアンを強制的にベッドへ寝かせ、広いベッドの上に乗りロアンの肩をポンポンと叩く。
ロアンは私が寝たのを確認してから寝ているようで、今日は先に寝てもらおうと気を使っての行動だったが…。変態雌猫は朝起きて発狂した。
天井の窓から差し込む光に目を覚まし、寝ぼけ眼で視界一杯にうつったのはすべすべの肌。
ん…?と何がなんだか理解ができず、ペチペチと叩くと、漆黒の瞳と目が合い「ゔにゃぁぁ!!」と飛び上がった。
寝れるようにと優しく叩いたまま寝てしまったのは私の方だったらしく、ロアン曰く「起きてしまいそうでそのままにしてしまった。」と申し訳なさそうにテーブル下に逃げ込んだ私に声をかける。
自分が悪いからいけないんだけど、寝るのを誘っても肩を叩くのはよそうと決めた。
その日の修行は調子が良かった。
髪を二重編みするように、逃げてしまう魔力をしっかりと糸状に維持し編んでいく。
最後まで編むのに数時間かかり、出来上がった嬉しさのあまりピョンピョンと飛び跳ねたら数時間の努力が一瞬で解けてしまった。
愕然とする私にロアンは手をそっと引き、魔力を送る。温かな魔力が身体中に行き渡り、ロアンの優しさを感じた。次こそは維持できるように集中する。
この日は二つの魔力を絡ませ、長時間維持することに成功した。明日は漸く契約できると意気込んでいた私に、ロアンは晩ご飯を一人分テーブルに置いて剣を腰のベルトに刺し、
「これから急な仕事で王城に戻らなければならなくなった。申し訳ないが晩ご飯はこれを。地と風の精霊には留守にすることを伝えてある。何かあれば二人のところへ行って欲しい。では、行ってくる。」
そう言うと、忙しなく家を出て行った。
言葉が伝わらないのが歯痒い。
「いってらっしゃい」も「待ってる」も「気を付けてね」も伝わらないんだもん。
突然のことに愕然とする私をロアンはどう感じ取ったのだろう。
目の前に置かれた果物が沢山のったサラダを一口食べる。
「うにゅにゃみゃうぅぅ」
一人のご飯はおいしくない。
閉まった人間用のドアを見つめる。
そのドアが2日経っても開くことはなかった……。




