もこはマッサージされる。
緑が生茂る森の中。
異常に大きいバナナの葉を敷いた上に猫一匹と人間一人。
一匹と一人は向かい合ってはいるが、猫の方は目の前の相手を見ようとせず目が泳いでいる。それとは逆に人間の方は猫の行動を凝視している。
もじもじと体を揺らす猫は意を決して目の前の人間を見る。
「ーーうにゃん…みゃ…」
バッと顔を逸らした。
今までは普通に話せたのに何故だろう?
人間が猫に変わっただけ。それだけなのに。
いや、違う。この場所がいけないんだ。
周りには木、木、木。
甘い雰囲気を作るためのピンクの照明やペアシートといった材料は全くないが、ただ自分達以外に誰もいないのだ。
「あとはお二人で…。」なんて今どきあるの!?
お見合いみたいじゃんか。
それに私たち言葉通じないし…。ロアンが言っていることは翻訳魔法があるから通じる。けれど猫でもない、精霊でもないロアンが猫語を理解できるはずがない。
困った。
この状況は非常に困った。
挙動不審になってしまうもう一つの原因は、''お互い手を繋ぎ契約に必要なお揃いの物を作ること''だ。
まだ同性なら何も考えずに手を繋ぐなんて余裕だが、異性となると話が別。
二人の空間、二人で手を繋いで魔力を込める。
これが今、私に与えられている試練。
絶対に無理だー。
コツは邪心を捨てて無のまま相手の魔力を感じ、それを自分の魔力と絡ませるようにする。と言われても…。イケメンと手を繋いだら邪心しか生まれない。え?変態?いやいや、変態なんていわないで。そりゃ誰でもイケメンと手を繋いだらときめいてしまうでしょ?
それに私の魔力を抑えられるのは知り合いの中で木蓮とロアンしかいないと言うし。木蓮と契約したらアクアに殺されちゃうし、ロアンは承諾してくれたのが驚き。ってなるとトキメキは必然となるわけで。そんな事ばかり考えてしまう頭の中は冷静にみせかけて混乱中だ。
……ここである疑問が。
ロアンって何者??
すっごく今更な感じがするけれど、私の魔力も膨大だって話だしそれを抑えられるうえに、私が閉じ込められていた大きな空間を一刀両断にしてしまうから剣術も得意だとみた。
私の世界では戦争や救助活動には軍人が出動するが、この世界でも軍人というのだろうか。
白蓮の契約者はこの国で一番権力のある人。
日本では天皇陛下や総理大臣、この国では外国と考えれば国王だろうか。ならば軍人と同じだと近衛兵か…騎士?
まぁ、そこらへんだろうなぁ。と一人納得して頷く。その幹部かなぁ。
他のことで気を逸らし現実逃避中の私は、肉球が何か温かいものに包まれ現実に引き戻される。
「ゔにゃぁっ!」
温もりを感じ右手をみるとそこには筋張った手が。温もりの原因がロアンに手を握られていることだと気付き、体が飛び跳ねる。
ブワッと毛が逆立ち尻尾が倍以上に太くなる。
「肉球は弾力があるんだな。こうすれば爪が出てくるのか…便利だな。」
お兄さんや、人の手…いや、人の肉球をモミモミしないでください。手を抜きたい、触れている手を引いてしまいたい。どうすればいいのかパニックに陥る。
しかし、何度も何度も爪の出し入れや強弱を付けた揉み方に、頭の中はボーッとする。そこ何気にマッサージされたように気持ちよくなるんだからね。
「うにゅぅぅ…」
モミモミぷみぷみと両手で肉球をマッサージされ、気持ちよくてゴロゴロと喉がなる。手だけを預け、でろーん。とバナナの葉に横になる。
あー、気持ちいい。
この二人だけの空間で、気を張っていたんだなぁ。
手のひらはツボが沢山あり、猫も人間も一緒のようだ。瞼が重くなり「あ、眠っちゃう。」と意識が遠のく瞬間、お尻に感じる違和感。
「尻尾にも骨があるんだな。何故太くなったんだ。骨に秘密があるのか?」
……そうなんだよね、すごいよね。
ほっそい骨が入ってるんだよ。骨に秘密はないよ毛だよ。
「お腹の毛は癖毛なのか?生えてる方向が違うな…。」
……それは癖毛じゃないもん、胸の毛からおへそまでの毛は左右から中心に向かって生えているんだもん。理由はしらな…ん?
お腹から胸にかけてお尻と同じ違和感が。
その刺激が強くなり、目がはっきりと覚めた。
バッと体を起こし体を抱きしめる。
「うにゅ、みゔゃぁぁぁぁ」
触られた、触られた。
さーわーらーれーたー!!
私の、私の贅肉がっ。ロアンの変態っ!!
短い足で猫だけど脱兎の如くロアンの前から逃げ出した。
それをロアンが首を傾げて見ていたことを私は知らない。
モコモコおててシリーズで短編を投稿しました。
もう一人の転移人(彦次郎)のお話です。
アクアも出ます。宜しければご覧ください。




