もこは単細胞で変態。
体が動くようになったのは、白蓮から話が出た通り昼過ぎだった。
今夜ウルール島に到着するとのことで、魔法の修行にも熱が入る。
「もこさんの魔力は風との相性が合わないのかもしれませんね…。」
顎に手を当て考え込む白蓮。
白蓮の足元にはちゃぶ台やらベッドやら頑丈な物が変な方向に折れ曲がっている。端に座るロアンの周りにも折れた木の破片が散乱しているが、本人に当たった形跡はない。ロアンの左耳についた小さな赤い石に結界魔法がかかっており、主人を守っているようだ。ロアンの耳には微かに違う色の赤い石が左右に1つずつ付いていて一つ一つに固定魔法がかけられているとのこと。イケメンはピアスが似合うからいいな…と、肉厚な左耳たぶをプニプニと潰した。
白蓮は手を払い、折れ曲がったちゃぶ台やらベッドを一瞬にして消し去る。パチンっと指を弾くと新しいちゃぶ台とベッドが出現する。何度も何度も見た光景。それ程今の修行がうまくいっていないことを物語っていて愕然とする。
「もこさんは風を使いご自身の体を清潔に保てるので、風の魔力があるにはあるのですが…もう一度基本からやってみましょう。では、ちゃぶ台を浮かしてみてください。」
手のひらで人の右尻を優しく撫でるようなイメージで弧を描く。
「はい、大丈夫そうですね。ではそのちゃぶ台はそのまま浮かせたままに。次は左にあるベッドを浮かせます。」
次は左手で左尻を撫でるように弧を描く。
フヨフヨと浮かぶベッドにホッと息を吐く。ここまでは完璧。
「スムーズにできるようになりましたね。では、その二つを左右反対にします。」
うん、と頷き気合いを入れ直す。
せーのっと、右尻と左尻を勢いよく叩くイメージでパンっと手のひらを合わせた。
ガッシャーンっ!!っと大きな音を立ててちゃぶ台とベッドは勢いよく接触し、ひとつの塊となった。木の破片が白蓮とロアンの方へ大量に降り注ぐが見えない壁によって弾かれる。本当にすみません…。目の前に浮かぶ木の物体を見て心の中で土下座した。
ふよふよ浮かぶのは、ちゃぶ台とベッドが合わさった木製の桃。
「ーーもこさん。魔法は想像力が大切だとお話をしましたよね?」
白蓮が怒って…
「あははははははは!もう我慢できませんっ」
「ーーへっ!?」
「だって、だって、お尻ですよっ。もこさんの想像力が素晴らしくて我慢がっ!」
お腹を抱えて笑う白蓮をただ唖然と見つめる。気が抜けて魔力を込めるのを忘れた桃は大きな音を立てて床に落ちた。
華奢な白蓮のどこにそんな大声で笑える力があるのかと考えてしまう程、長い間笑いは治らなかった。コホンッと咳払いをして漸く笑いが治まった後はいつもの穏やかな笑みを浮かべた白蓮がいた。普段と違うところは頬がほんのりピンク色に染まっていることくらい。
「さて、もこさんの課題が決まりました。」
大笑いした直後のこの冷静さに次は私がツボに入りそうになり左手の甲を抓り耐えた。
「お話した通り、魔法は想像をいかに広げるかによって決まります。何回か練習してもあの形になってしまうのは、もこさんが常におし…こほんっ、お尻を想像しているからです。」
「あはははー。」
「まだ魔法初心者のもこさんは、暴走する魔力を抑えるために優しく触れるところを想像するようになったのですね?」
うんうんっと頷く。
「最後にはお尻を思いっきり左右から叩くけどね。」なんて口が裂けても言えない。
浮かす練習が始まった時、手を払うだけだと思っていたら考えが甘く、ちゃぶ台第一号は遥か彼方まで飛んでいってしまったのだ。何度何度やっても魔力のコントロールが出来ず空の彼方へ消えるちゃぶ台を見送ったことか…想像力を働かせてみてと言われ、ボールやらリンゴやらを想像してみたけれどうまくいかなかった。
まさかこんな事になるなんて思いもしなかったからデリケートに扱わなきゃいけないお尻でやってみたら簡単に浮いた。そしたら単純な脳はお尻しか想像できなくなり今に至るわけ。
「左右に交差する練習は一旦忘れて頂き、お尻を想像せずに浮かすイメージを体に覚えさせるのが先ですね。」
「練習あるのみです。」と水玉のクッションに腰を下ろしお茶を飲み始めた白蓮を横目に一人での練習が始まった。
でもやっぱり浮かぶのはプリプリしたお尻。邪心を振り払い練習に没頭する。
悲しいかな。私の頭は単細胞で変態だなんて。
「ーーあっ…。」
また一つちゃぶ台が空の彼方へ。
少しの気の緩みが魔力の暴走へ繋がるなんて…。やっぱりイケメン攻略並に魔力攻略も難しいや。と盛大にため息を吐き肩を落とした。




