もこは語る。
朝になっても動けない私は増魔材を何度も渡されたが、トラウマ化した胃は全く受け付けず見るだけで吐き気を催した。諦めた白蓮は、ベッドに座る私の横に椅子を並べ女子二人でのお茶会を開く。
精霊は魔力を消費することはなく、大地から呼吸をするのと同じように自然と補えるらしい。それは魔術師からしてみれば最強であって、畏怖する相手なのだと白蓮は淡々と話をした。魔力を使いきれず、無駄に消費して暴走する私から見た双子の存在は憧れしかなく、それを伝えると強張っていた白蓮の表情は笑みへと変わった。
ただ妬んでいるんだと思った。
生まれながらの強力な魔力と自然に愛される精霊の存在に。容姿と実力に嫉妬してそれが畏怖や憎悪へと変わる。人間にありがちなことだ。
その後は白蓮の年齢の話へと変わり、想像していた年齢よりも二桁多いことに驚きを隠せないでいる。
「3155歳ですよ。」
と平然といって退けた白蓮に、唾を飲み損ねた私は気管が悲鳴を上げ咽せた。涙も鼻水も一緒に出てしまい顔中ぐちゃぐちゃだ。
「これから会いに行く水の精霊は、4892歳だったはずです。私たちは最高で12000歳まで生きます。ほぼ不死身とは言え寿命には勝てないのです。因みに両親は5000を超えた日に私たち双子に森を託し、二人仲良く隠居してしまいました。今はどこにいるのか私も木蓮も知りません。」
「寂しくないの…?」
「えぇ、私には姉がいますし契約者もいます。最近ではもこさんとおっしゃる可愛らしいお友達にも出会えました。」
「かわ、かわっ!?」
「えぇ、凄く可愛らしいです。猫の姿も可愛らしかったのですが、人間の姿はふわふわしていて更に可愛らしいです。ロアンもそう思いますよね?」
ゴミ箱の端で剣を磨くロアンはチラリと視線をよこし小さく頷いた。
ぼわっと頬に熱が篭ったのがわかった。
不自由な両手で頬を隠し俯く。不意打ちは良くない。イケメンは更に良くない。昨日あれだけ注意しようと決めたのに…くぅぅぅー!!免疫ができる気がしない。周りからバレないように小さく肩を落とした。
「失礼でなければもこさんのご両親はどのような方なのか伺っても宜しいですか?」
「両親?そうだなぁ…私の両親は、血が繋がっていない…」
私の言葉に白蓮は唾をゴクリと飲み込む。
「って何度も考えたことあるんだ…。だってね、私ってこんなにチビで頭ボサボサで、地味で。両親の遺伝子が全くないんだもん。でもね、小さな反抗期が一度だけあってね。両親の前で私の両親じゃないくせにっ!って怒鳴ったことがあったの。」
剣を磨いているロアンの視線を感じる。こんな話をしていたら彼だって気になるのだろう。
「そしたら両親がね、私以上に泣き出したんだ。あの瞬間は本当に驚いたよ。父なんてヨダレと鼻水まで流してたからね。あの時は悪いことをしたなぁ…。」
思い出すように流れ行く雲を眺める。
「そ、それでどうなりました?」
先が気になるのか白蓮が催促をする。
「へへっ、二人に骨が折れてしまいそうなくらい強く抱きしめられたよ…。弟がね、すっごくイケメンなの。」
「…い、けめん?」
「イケメンってね、美男子ってことだよ。両親に似て身長も高くてね。妬んでたんだよねぇ。母は私を抱きしめた後、クローゼットの中をひっくり返しながら母子手帳…えっと、私が母から生まれたって証拠をね見せてもらったの。母は泣きながら怒ってたよ。お腹を痛めて産んだ私の娘を馬鹿にするな!って。本人に馬鹿にするなって…笑っちゃいけないんだろうけど我慢できなくて笑っちゃったよ。でもね、その言葉で救われたんだー。弟への妬みも憎悪へ変わることはなかったかな。まぁ、美男子な弟への嫉妬はいつまでも感じてたけどね。」
離れ離れになった両親と弟を思い出し、一筋の涙がこぼれる。突然来た異世界に今までは好奇心が優っていたけれど、両親の話をして今更ながら気付く。寂しいと。
隣から鼻をすする音に気付きその音を確認すると、きれいなレースのハンカチで目元を拭く白蓮が。
「とても良いご両親なのですね…。」
綺麗な薄水色の瞳からは更に涙が溢れている。
呆気にとられ涙も引っ込んでしまったが、白蓮の温かな優しさを目の当たりにして寂しさも薄れる。
「白蓮、ありがと…。」
白蓮は顔を覆い泣き出してしまった。
その先にはロアンが困惑した表情で私達二人を見つめていた。




