もこは辛いのです。
あの事件から丸2日が経ったこの日、私は限界を感じていた。思い出すのは木蓮が辛い旅になると言っていた言葉。もう既に沢山の辛い体験をしたけれど更に辛いと痛感したこの日。目の前にはドロドロした紫色の液体。液体より固体寄りの飲み物は白蓮が用意した魔力増魔材だ。
一日中魔力を使って、使って、使い切り。コントロールがまだできない私は魔力を全て出し切りぶっ倒れたのだ。倒れる瞬間、邪魔にならないようにと端で見物客と化したロアンが瞬時に受け止めたことに称賛したいが、肩に担ぎ上げられたことに称賛なんてどっか吹っ飛んでいき不満しかない。「だーかーらー、お姫様抱っこを希望しますっ!」と言ったらこの綺麗に整った冷たく見える無表情の彼はどんな反応をするのだろうか。
意識朦朧とする中、ニヤリと不気味に笑う私に対し僅かに頬を引きつらせたロアンはゆっくりと私専用のベッドに横たわらせた。
「白蓮、これ飲まなきゃダメ?」
ベッドに水玉のクッションを高く積み、それに背を預けて座る私の手の中には紫色の物体。何故かぽこっぽこっと気泡が弾けている。よくアニメでみる魔女が作ったドロドロした得体の知れない薬と一緒だ。アニメでは骸骨やら蛇やら毒キノコが煮込まれていた。まさか似たような材料では?と物体を持つ手が小刻みに震える。
「飲まなければ明日の昼までベッドの中ですよ?」
「それでもい…「おトイレはどうされるのですか?私が付き添いますか?それともロアン?」」
白蓮の言葉に言葉を詰まらせる。
ただでさえ昨日は修行で疲れ、体は水分を欲し、果物では満たされない喉の渇きに白蓮お手製のお茶を何度も流し込んだのだ。我慢して我慢して。我慢した先には紫色の物体。あぁ、木蓮のいる森が恋しくなる。湧水美味しかったなぁ。
キラキラと光を反射する湧水を思い出しながら手に持ったグラスに口をつけ一気に傾けた。まあ、皆さんのご想像通りの結果となりましたが私は努力したのでその努力は認めてもらいたい。
ニコニコと可愛らしい笑顔をこっちにむけてロアンに晩ご飯をあーん。と介助されているところを眺める白蓮。トイレの度に地上へ降りて白蓮に支えながら用足しにいくのも羞恥心で死んでしまいそうになる。
まぁ、紫色の物体をキラキラと吐き出してしまった私がいけないからしょうがないんだけどさ。けどやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいのさ。
だって、イケメンにあーん。って…。元の世界にいたら絶対に経験出来なかっただろう"あーん"にきゃーっと黄色い声を上げてジタバタしたい。体が動かないからできないんだけど。
「ロアンさんは増魔材を飲んだことがありますか?」
「いや、魔力の暴走も魔力切れもしことがなく飲んだことがない。それはあくまで緊急時に飲むものだ。それを飲みたがる輩は見たことがない。よく頑張ったな。」
ロアンは小さく笑いベッド横に腰を下ろし目を閉じた。私はこの笑顔に胸が鷲掴みされたように痛み呼吸が止まる。まだ動きの鈍い手で胸を押さえ気を失うように眠りについた。
この世界には私の知らないことが沢山ある。今日学んだことは増魔材を飲まなくていいように早く魔力をコントロールできるようになることと、"イケメンの笑顔は体に悪い"だ。魔法は案の定暴走しているし、イケメンの笑顔に対して免疫がない私は本気で心臓が止まりかねない。気を付けようと思う。




