もこは話をする。
「そうですか…あの雑貨屋の少女が犯人なのですね。」
頷いて肯定する。
「私の魔法はこの世界でも上級に値します。しかし、先程もお話したように精霊という括りに縛られてしまい上級であっても攻撃に対しては無力なので上級に満たないものだと思ってください。もこさんが閉じ込められた魔法壁と結界の二つを融合した魔法は素晴らしいほどの完成度でした。人を監禁するために使用するようなら素晴らしいという言葉は不適切なものとなりますが…。」
お茶を一口飲み、考え込む白蓮の隣に座るロアンを盗み見る。
説明が始まり数時間が経つが、口を開いたのはり白蓮と私の二人だけ。ロアンはただ一点を見つめている。その視線の先にはあのお茶が置かれている。
飲み終えたはずの木製の湯飲みに並々注がれた不味いお茶。そのお茶を見つめるロアンに心の中でエールを送る。エールが届いてしまったのか、ロアンが顔を上げバチっと視線が合う。にへらっと気が抜けた間抜けな笑顔を向けてしまったのは不可抗力だ。だって、どんな顔をしたらいいのかわからないんだもの。
ふよふよと浮かぶゴミ箱。
そのゴミ箱は中から見ればゆっくりな速さで進んでいるように見えるが、実際は今まで以上の速さで空を飛んでいる。周りからは見えないようにはなっているが、もし見える状態になっていたとしても地上にいる人間には速すぎて肉眼で見ることはできないだろう速さだ。
今まではゆっくりと空中散歩を楽しんでいたが、あの少女に監禁されていた時に出会った負の自分の言葉を白蓮に話すと顔色を変え、手をひと振りしてゴミ箱のスピードを上げた。
「もこさんは人間の姿ですとタファーナ語を話されるのですね。」
「ーーえっ?」
ロアンに向けた不気味な笑みに対して恥ずかしさのあまり伏せていた顔を勢いよく上げ、ちゃぶ台を挟み目の前に座る白蓮を見る。
「私、タファーナ語話せているの?」
「えぇ、流暢になんの違和感も訛りもなく話されています。」
「私はてっきりこの翻訳魔法のおかげかと…」
手首についたリボンを白蓮の前に出すと鈴がチリンっと鳴る。
「いいえ、何度も確認しましたが、私の魔法が使われている形跡はありません。」
「そ、そうなんだぁ…何故だろう。」
繁々とリボンを眺める。
そのリボンはただキラキラと輝いているだけで、魔法が不得意な自分が白蓮のいう形跡を見ることなんてできるはずもない。
「このペースですと3日後にはウルール島に到着します。今回の件でなんらかの情報が入っているかもしれません。契約者と水の精霊に情報共有できるよう伝書蝶を飛ばします。私たちは島に到着するまで町には降りず、もこさんの魔術の修行をしたいと思います。」
「修行…。」
思い浮かぶのはテレパシーを習得するまでの並々ならぬ辛い時間。不安が顔に出ていたのか、口を閉ざしていたロアンが目の前にある湯飲みを手に取り口を開く。
「問題はない。あなたの魔力は風の精霊と同等な強さを感じる。修行を積めば上級魔術師を上回る魔術師となれるだろう。ただ強い魔力は暴走してしまう恐れがある。魔力をコントロールする術を学ばなければならない。」
ロアンは最後に「あなたならできる。」と励ましの言葉を呟き手に持ったお茶を一気に飲み干した。その飲みっぷりは勇ましいが、頬が微かに痙攣していたのを私は見逃さなかった。




