もこは話を聞く。
ゴミ箱に乗り、先ずはじめに白蓮によってボディチェックを受けた。脱がされて体の隅々を確認する…なんて事はせず、風が体をひと撫でして終わるという簡単なもので、魔法があれば介護も腰痛める事なくできるんじゃないかと思う。そもそもこの世界に介護という職種はあるのだろうか。
「では、もこさんが消えた後の話を始めてもよろしいでしょうか。」
風によって怪我の有無を満足いくまで調べ上げた白蓮は、あのちゃぶ台と恐ろしく不味いお茶をロアンと私に勧めた。
ロアンは知らず知らずに口に運んだが、頬を僅かに引攣らせるだけで一気に飲み終えた。洗脳された大人の男性というのが第一印象だ。表情がほぼ変わらないのだ。
「話の前にリボンの件ですが、今はもう他人の魔力は残っていないようです。これは…もこさんの魔力でしょうか?とても強力ですがとても繊細な…少しだけ蓄積されているようなのでそのまま使用していただけるとよいかと。」
ほぅっと溜息をつき、あの変態魔術師の痕跡がないことに安堵する。そして、白蓮に初めて買ってもらったリボンが手元に残ることに喜ぶ。
「話を続けますね。港に向かっている最中、もこさんは私の前を歩いていましたが、突然闇の中に飲み込まれたのです。消えてからもこさんが見つかるまで2日かかりました。」
「えっ、2日!?」
「えぇ、消えてすぐに契約者と連絡を取り王都より救援が来るまでに丸一日。彼がその一人です。」
ロアンがゆっくりと会釈する。軍人だったのか。通りであんなに逞しい体つきなわけだ。抱きしめられた時のことを思い出し、顔が真っ赤に染まる。慌てて頭を左右に振り、邪な妄想をかき消す。しかし、ジッとこちらを見る漆黒の瞳に、沸いた頭はさらに沸騰しクラっとした。免疫力の少ない女に、ルックスの良すぎる殿方はダメなんです。
「もこさん大丈夫ですか?」
「あ、はいっ、大丈夫どぅえ、どぅえっすっ」
動揺が声に乗り言葉が詰まる。
「救援と手分けして捜索しましたが、足取りが掴めなく…2日が経ち突然、もこさんのリボンに付いている鈴の気配を感じることができたのです。」
「えっ、す、ず…?」
「はい、鈴です。その鈴にも固定魔法の探知能力がかかっています。」
まさか、と鈴を凝視する。
「もしもの時と思いかけていましたが、いまいち効果が弱かったようです。探知できないことで誘拐した犯人は上級魔術師で魔力を跳ね返す魔術を使っていることまではわかりました。しかし、そこから手詰まりになり、手当たり次第に探しましたが発見できませんでした。」
白蓮は顔を曇らせる。
「そして、鈴の反応を感知しその場所へロアンを転送したのです。」
「えっ、ロアン様を?」
ロアンの顔が僅かに歪む。その少しの表情の変化に首を傾げた。
「……ロアンと呼んでくれ。」
呼び方に問題があったようだ。しかし、軍人で着ているものや立ち振る舞いを見る限り貴族のようにも見える。返答に困る私をロアンは見つめる。
何故だろうか、こんなにも心臓が暴れているのは。ロアンの瞳は人を惹きつける魔力でもあるのだろうか。その瞳から逃れられず、ゆっくりとうんうん、と頷いた私にロアンは目を細めて笑った。
だ、ダメだ…心臓が…
大人の男性の色気にやられ胸が締め付けられた。
「あら、ロアンが笑うなんて珍しい。」
白蓮の一言にロアンの表情が無に戻り、視線も逸らされた。
よかった…これ以上目が合っていたら心臓が停止するところだった。安心したが、残念なような寂しいような複雑な気持ちだ。
「魔力を跳ね返す魔術ですと私が行ったところで役には立ちません。精霊は、自然の摂理で争い事に魔力を使うことができないのです。守りはできますが攻撃は専門外なのです。魔力が無効なら武力が有効かと思い、ロアンに賭けたのです。」
「自然の摂理…。魔法って完璧なんだと思ってた。」
「魔法が全てではないのです。魔法ばかりの世界になってしまったらこの世が壊れてしまいます。」
何故魔力の強い白蓮ではなく、ロアンに救出されたのか納得ができた。
「ロアンさん、色々ありがとうございます。」
ロアンが小さく頷く。
「私の方からは以上ですが、もこさんのお話を聞かせてください。」
思い出すのはあの少女。大事な事が抜けないよう慎重に話を進める。
鏡が沢山あるところに閉じ込められてからロアンに救出されるまで。その話は、数時間にも渡って白蓮とロアンに説明をした。
ブックマーク登録お願いします☆




