もこは地上に出る。
平手打ちをしてから思ったことは、鋭い爪がないのが残念だということ。
目の前にあった顔は平手打ちを避けることなく直撃し、その反動で横を向いている。その頬は私みたいなもやしが叩いても赤くなることはない。
真っ黒なマントに付いたフードを深く被る不審な男。パーツが整った横顔がとても綺麗でまじまじと観察してしまう。
「……それって。」
そこで気付いてしまった。
男のマントにキラキラ光る物が大量にあることを。冷静に考えてみれば2度目の空間崩壊の破片は私の肌を裂くことはなかった。突然現れたこの男に包まれ、彼に守られていたんだと気付いた。
そっと彼の頬に手を添えると、叩かれたまま動かなかった男がぴくっと反応した。無意味に叩いてしまったことに罪悪感が押し寄せる。
「ありがとうございます…。」
「いや、まさかこんな状態とは知らず申し訳ない。」
彼はそう言い、立ち上がった。しかし、私は慌てて彼の手を引く。驚いた彼は私を見て小さく息を飲んだ。
「破片が付いているがすまない。」
真っ裸な状態の私は、彼が脱いだマントに包まれた。質がいいのか肌触りがよくとても暖かい。ふわりとマントからベルガモットの香りがして心を落ち着かせる。
そして漸く心に余裕ができた私は立ち上がり周りを見渡した。
「ここはどこですか…?」
周りは木に囲まれていた。木に邪魔され薄暗い森の中に私と男が立っていた。木蓮の森とは違い、光が微かに漏れているだけでジメジメした空間。
男はマントを渡してから私とは違う方向を見ていたが、問いかけに反応しこちらを振り返る。マントを抜いだ男は、全身が真っ黒だった。質のいいであろうシャツに細身のパンツはブーツの中に入れられている。そして腰には門番が下げていた剣とは比べものにならないほど立派な剣が。
頭の両サイドはツーブロックに刈り上げられ、残った髪を後ろに流す彼は、私とそんなに歳が変わらないように見える。歳のおかげか、日本人離れした顔立ちのおかげかその髪型が似合いすぎていてぽけーっと間抜け面で見惚れてしまう。
「ここは、君がいた町から数十キロ離れた森の中だ。」
「えっ、なんでそんなところまで…」
「もうすぐここに風の精霊が到着するから、彼女から詳しい話は聞いてくれ。」
風の精霊、白蓮のことだ。
その言葉に安心し、膝から崩れ落ちた。咄嗟に目の前に立つ男が支え、破片の海に飛び込むことは免れたが男性との接触に慣れていない私は、無意識に胸板を押してしまった。
「……すまない。少し我慢してくれ。」
無表情な男からは感情が読み取れない。
そして男はマントに包まれたままの私を肩に背負い飛躍した。突然のことに悲鳴を飲み込んだ私は、次に足を付いたのは少し湿っている草の上だった。
「ありがとうございます。」
助けられてばかりだ。
でもワガママを言えば、樽のように背負われるのではなく、お姫様抱っこがよかった。なんて口が裂けても言えない。
異性への偏差値が低くても、乙女としての偏差値は高いのだ。少女漫画を読み始めて22年。蓄積された乙女の夢はまだ叶いそうにない。
湿った草の上に座り込み膝を抱える。
横に立つ異性にドギマギしながら白蓮の到着を待った。




