もこはもこに会う。
目の前に自分がいる。
少女と私の間に突然現れた猫。鏡の中で少女が化けていた猫とは違い、それは自分だと直感でわかる。その猫は目が合うとニヤリと笑い、跳躍して頭の上に乗った。
「……っ!!」
ふわりっと頬を掠め視界に捉えた物に慌てて手を頬に添えた。そして、とても懐かしい温もりに目を見開いた。猫が頭に乗っていようがお構い無しに、べたべたと身体中を触る。ふわふわモコモコの毛も肉球も髭も、尖った耳もない人間の姿をした自分。視界に捉えたのは、癖毛の髪だった。
「ねぇあんたさ、もっと体を大事にしてよね。」
久々の体に感動することも無く、淡々と確認をする私に、頭の上から言葉が降ってくる。ゆっくりと顎を上げて上を見る。猫は器用に頭の上を移動し、おデコに前足を置いて手を伸ばす。そして、伸ばした先にある頬を何度も叩いた。
「ねぇ、聞いてんの?」
何度も何度も叩く。
肉球で叩かれると気持ちいいんだなぁっと、思わず頬が緩む。
「なにその顔、きっもいんだけど。」
そう言い、頭の上から飛び降りた。
二足で立ち腕を組み、横柄な態度で自分を見る猫。その態度にこの猫は自分だと認めたくない。
「認めるもなにも私はあんただし、あんたは私だし。」
言葉が悪すぎる…
「そりゃそうだよ。私はあんたの負の部分だからね。」
「えっ、負の部分…?」
「そう、あんたが表に出さない負の部分。人間誰しも負の部分はある。あんたは隠しているようだけど。」
「……」
「そんなことより、あんた状況わかってるの?」
「うん、閉じ込められてる。」
「バッカじゃないの。今の状況もだけどあんた早くしないと猫になるよ。」
何を言っているのか訳が分からなく首をかしげる。猫化の症状は出ていない。それに、白蓮は10カ月は大丈夫だと言っていた。訝しげに見る私に、もう一人の自分は大きなため息を一つ吐いた。
「ほんと呑気だよね。私はいつもあんたの中にいるの。あんたの中、どんどん浸食されてる。早くて3カ月。しかも、猫化の症状が出難いみたいだから異世界人を初めて保護する白の精霊も気付かない。」
「3カ月っ!それってどうすれば…」
「そんなの知らないよ。私はあんたなんだから。あんたが知らないことを私が知るはずないじゃない。あんたは私なの。だからこの体は私のでもあるの。この世界だから私は出てこれたけど、絶望と死の狭間にいる状態じゃないと私は出てこれない。だからよくきい…」
バキッと音が響き、二人は驚きそちらに視線を向ける。そこには、手を伸ばした少女がいて人形のように全く動かないでいる。
「もう時間がないっ!よく聞いて、このまま諦めるなんて許さない。あんな幼女趣味な変態に私の体をあげるなんて無理。だから手伝ってあげる。」
「どうやってっ!」
「近くて叫ばないでうるさいっ!時間がないの、あんたの質問は受け付けない。あんたの中にある魔力を引き出してこの空間から抜け出す。」
「まりょ…」
注意されたが、つい口が滑り慌てて口を押さえる。もう一人の自分は鋭い視線で睨みつけ再び口を開く。
「あんたはまだこの世界に馴染んでいないから自分の中の魔力を感じることができないでいる。負けたと思っているけど、あんたの魔力はきっとあの変態より強い。だから、それを引き出してあげる。」
パキパキっと再び何かが割れる音がする。
「だけど注意して。私はただ引き出すだけしかできない。使うのはあんた。あんた次第で引き出したものも引っ込んでしまう可能性がある。無理矢理引き出すには怒りが必要になる。それはあの変態が引き出してくれるはずだから諦めな…」
パリーンッと音の元が粉々に砕け散った。砕け散るのと同時に目の前の猫が消え、再び少女が動き出した。咄嗟に身を守るように丸くした体を、その手は鈴に触れないよう尻尾を握り持ち上げた。
「あら、まだ諦めてないの?」
ぶら下がったまま、尻尾を鷲掴みにする相手を睨みつける。クスクスと少女が愉快そうに笑い、そのまま床に叩きつけた。
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