もこは絶望する。
驚き過ぎると無意識に口が開き、全く言葉が出てこないのを知った。頭では理解しようとしたが、思考が停止している。そんな私をみて余裕な笑みを浮かべる女。
あ、この笑み…
バッと首元に視線を向ける。
「そう、そのリボン、私が編んだのー。私の魔術も一緒に編んでいるから追跡なんてかーんたんっ!けど、何故かしら。私の魔力が他の魔力に消されそうになってるのよねー。私より魔力が強い相手が近くにいない限りそんなことは…あっ、まさかあの女、私より…いや、まさかね。」
いつの間にか天井の鏡から正面の鏡に移動した女は一人で何かを呟いている。追跡云々までは聞こえた。まさかなと、リボンを血の付いた手で触れるとチリーンっと鈴の音が響いた。
その音に反応したのは、目の前にいる女…いや、見た目は可愛らしい少女だ。ツインテールの髪を揺らし、こちらを睨みつける。
「その鈴…誰から貰ったの?」
お店で億劫な接客態度をしていた少女はもういない。
「その鈴からとてつもなく強い魔力を感じる。」
そう言って、こちらに手を伸ばす。
まさかっと思った時には、鏡をすり抜けて手が目の前に伸びてきた。そして、鈴に触れようとした瞬間。
「……っ!!」
鈴は金色に輝き風を纏い、手を弾いた。
再び鏡へと戻した手を押さえながら少女は忌々しく鈴を睨みつける。負傷した手は擦り傷が多くあり、血が流れていた。
「貴女、その鈴は精霊から貰ったものでしょ。」
嘘をつく必要がないから頷く。精霊が知人だと分かれば相手も怯むはずだ。しかし、その期待を少女は裏切る。
「ふふふ…あはははっ!!」
お腹を抱えて笑い出した少女。予想だにしなかった出来事にたじろぐ。後ろに後ろに、ここにいたら危険だと逃げろと本能が告げる。しかし、後ろへと下がった私には鏡と言う残酷な現実が待っていた。
「あー、楽しいっ!!まさか精霊付きなんてねっ。でもね、安心して?ここにいれば貴女はいずれ私のものになる。だって、この部屋は上級魔術師の中でも最高位に位置する私が作ったものだもの。この場所から魔力は漏れ出ない。しかも、外部から魔法を一切受け付けない。」
再び笑い出した少女を絶望を隠すことなく見つめる。
「そう、その絶望。この部屋はね、絶望が大好物なの。そして、獲物を捕らえて絶望すら感じなくなり何もかも忘れた抜け殻にする。そしたら私の可愛い人形となる。」
「……」
「もう10年もこの体に入って若い女の真似も飽きてしまったし、お店で貴女を見たときは震えたの。あ、私の獲物が来た。次はこの体だ。ってね。だからね、その体ちょうだい。」
ぞわりっと鳥肌がたつ。少女の瞳がうっすらと金色に輝いていたからだ。この時点で私の負けは決定した。魔力の差は負けを意味する。それは、白蓮という精霊が近くにいたからわかる。
今ここで諦めてしまえば相手の思うツボだ。しかし、この隔離されたこの場所で助けの来ないこの状態でどう行動するのが正解なのだろうか。絶望でこうべを垂れる。
ーーホント、ばっかじゃないの。
諦めた瞬間、頭の中で少女とは別の女の声が響いた。
ーー諦めちゃうの?
聞いたことのある声。
ーーねぇ、諦めちゃうの?
どこで聞いたのだろうか。
ーー私の体なんだからもう少し大事にしてよ。
頭の中に直接話しかけるこの声は、自分の声だ。




