もこはもこのもの。
鏡の世界は時間の感覚がなく、どれだけの時間をこの中にいるのかがわからない。分かることは、恐怖を超えると無になること。
目の前にある血のついた鏡には、所々爪の痕があり、その鏡に映る猫はただ一点を見ているだけだ。
この猫どこの猫だろうか。
視界が霞む。
私はどこにいるのだろうか。
頭が左右にゆっくり揺れる。
私…わ、た、し…?
頭が前後にゆっくり揺れる。
私ってなに…?
頭がゆっくりと回る。
…………。
体がゆっくりと血の付いた床に倒れる。血で汚れていない天井の鏡を虚ろな目で見る。
何もわからない。もうこのままでいいや。そしたら楽になる…
瞼が重たくなり目が完全に閉じる瞬間、クスクスと何処からか忍笑いが聞こえた。耳をすませる。幻聴なのだろうか。耳が音を拾おうとピクピク動く。
「あーぁ、失敗したぁー。あと少しだったのにぃ。」
バチッと目を見開く。
急に耳に入り込んできた声。無音に慣れてしまった耳は聞き取り難かったが、その声を聞いたことによって忘れていたことが頭の中を駆け巡り、自分が今どのような状況なのかをはっきりと思い出した。
天井にいるのはよく知る猫。しかし、その猫は自分ではあるが、何故か目が離せない。その理由は、私であろう猫は独りでに話をしているからだ。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ〜え〜ってば〜。」
私は全く口を動かしていないが、天井の猫の口は動いている。私は首を傾げてみる。しかし、天井の猫は首を傾げない。
「ねぇー、きいてるー?」
そう問われれば条件反射で頷く。
「あっそー、じゃぁ話を続けるからね。」
そう言って天井の猫は胡座をかく。つい釣られて正座をした。
「単刀直入に言うと、貴女の体ちょうだい。」
表情と言葉が合わない。
何か怖いことを言われたようだが、言った本人は満面の笑みだ。更に「ほら早く。」と物を貰う時のように手のひらを出され困惑する。
ブンブンと頭を左右に振る。
漸く聴覚が戻り、首に付けた鈴の音が聞こえる。その音に白蓮の存在と、人間相手に引けを取らないと宣言した事を思い出したが、今回は引かせていただきます。と降参した。
すこし冷静さが戻ってきて自分の怪我の具合を確認する。勿論、状態は最悪だ。
ふわふわモコモコな体は血塗れ、爪はボロボロ、口の中は血の味がするから酷いのだろう。正座をしているのさえ奇跡な状態。頭はハッキリしたが、緊張で痛みが麻痺しているのかもしれない。それだけが救いだ。でないと今すぐにでも痛みで気を失う自信がある。
「どうしたらくれるの?ちょうだいと言ったらどうぞじゃないの?」
理解できない。といい、天井の猫が腕を組む。
「この体は私のなのであげられません。」
強張った声はとても弱々しい、けれどハッキリと断る。
怒らせてはダメだ。きっと殺される。
どうしたらいいのか周りを見渡しても鏡しかない。その鏡に映る自分がとても痛々しい。
「やーだー。その体ほしーのっ!!」
そう言って、天井の猫は手を払う。
そして白い煙に包まれた猫は、私の知る人物に姿を変えたのだ。
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