もこは首輪する。
首元でチャリンッと鈴の音が鳴る。
その鈴は白蓮から貰った物で、固定魔法をかけたリボンに付けられている。
繊細に編まれた白に金が混じったリボンに、手の平の肉球一つ分の大きさの鈴は歩く度に首元で揺れて綺麗な音色を奏でる。
機嫌よくリズムを取りながら歩く私を、白蓮は満足した笑顔で見つめる。その白蓮の金の簪には、私が選んだ茶色のリボンが魔法によって小さな藤の花へと姿を変えて簪の一部として付けられていた。
簪に付けられた茶色の藤の花は、とても地味だった。けれど、金の簪にはすでに薄水色の藤の花が付いており、そちらの方が目立つため逆に地味でよかったと安堵した。
まさか、リボンを藤の花にしてしまうなんて思わないじゃない?もうね、びっくりしたよ。元々の花も布でできているのだと思い、触らせて貰うと生花だったから更に驚いた。
精霊の命の源は花や木に宿ると聞いていたから、白蓮にとって藤の花は何か特別な意味があるのだと思う。思うけれど、他人に弱みを知られたくないだろうからそこはあえて聞かない。
ーーもこさん、解除できるのは半年後ですので、私のそばを離れないように注意してくださいね。
リボンが嬉しくて、立ってスキップしたい衝動を抑える私は、白蓮の言葉にハッと周りを見渡す。
ーー昨日つけていた人はいないようですよ。
ーー何故わかるの?
ーー風が教えてくれるのです。不安でしたら、もこさん自身に結界を張りますか?
ーーううん、白蓮が助けてくれるんでしょ?私だってこんな鋭い爪と牙をもっているんだから、人間相手ならやられる前にやり返してやる。
モコモコの手に隠れた爪と、頬袋の下にある牙を出したり引っ込めたりして見せびらかす。「頼もしいです。」っと白蓮は笑った。
リボンと呼んでいる首に付いた首輪は、真っ直ぐなリボンが解けないようにと魔法で輪と蝶々結びにした物だ。
今朝、起きて直ぐに浮かんだ言葉は「おはよう」だった。そして、リボンにかける固定魔法は"翻訳''をお願いした。
恐怖で震える姿を見ていた白蓮は"結界"を選択すると思っていたのだろう。けれど、私は"翻訳"を選択した。何故かと問われ、
「うにゃうぅ、にゃうみゃみゅぅぅ。」
そう、白蓮を信じているからだ。何かあれば助けてくれると信じているから。
今回恐ろしい経験をして、それが毎日あるわけじゃない。だから毎日必要な翻訳を頼んだのだ。
実際、今日は付けられていないようで安心した。
だからつい、気が緩んでしまったのかもしれない。
漁に出る船を見に行こうとなり、白蓮の数歩先を歩いていた。スキップはしていない。鼻歌はしてない。美味しそうな匂いに釣られていない。よそ見はした。けど、白蓮の姿を横目で確認していた。しかし、何故だろう。何故こんなことに。
見渡す限り、見覚えのある猫が沢山いる。
少しずつずれて重なって見えるものもあれば、左右は一匹ずつだ。
なんか元の世界で小さい時に見たことがあるミラーハウスではないだろうか。けれど、町にいたはずだ。海が近付くにつれ、潮の香りと潮風を感じ、意気揚々と歩いていたはずだ。
ーーじゃぁ、ここはどこだ??
目の前にある鏡をペチペチと叩く。
うん、間違いないこれは鏡だ。
ならばと思い、モコモコのおててから鋭い爪を出し思いっきり鏡を引っ掻いた。
キィィィィー!!っとなるのをおっかなびっくり期待した。しかし、返ってきたのは無音。
鏡の中の自分は無表情で、表情からは読み取ることが出来ないほど心の中は混乱していた。誰もが苦手なあの音。小学生の悪ガキが一度はやる黒板での引っ掻き音。身構えていた私は、全く鳴らなかったことに冷静だった頭は真っ白になった。
ぺたんっと床に座る。
床も鏡なんだなー。と考える余裕もない。
無音、無音、無音。
耳を澄ましても無音。
あぁぁぁぁー!!っと叫んでみる。
猫の鳴き声も全く聞こえず、こんなに呼吸が乱れ心臓の鼓動が早いにもかかわらず、耳に入ってくる音は全くない。
何も聞こえない世界。
正面の鏡を叩き、床を引っ掻き、叫ぶ。それをなん度も繰り返す。喉に痛みを感じ、声が枯れているであろう時には自慢の爪はボロボロ、自慢のモコモコの毛には血がべったりとついていた。
それても手や口を休めることなく、同じ行為をし続けた。
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