もこは悩む。
この町に入る前、あの球体のゴミ箱で二人は町に入るうえでの約束事を決めた。
「もこさんはタファーナ語が話せませんので、相手の会話もわかりません。」
正座した白蓮の前に、同じように正座をしたまま頷く。
「私がもこさんに相手の言葉が自動で翻訳される魔法をかけたいと思います。」
おぉー!!そんな魔法があるのかー!と目が輝く。
「固定魔法と呼ばれていますが、この魔法をかけるにあたって不利に働くこともあります。」
「うにゃ?」
「かけられた相手は一つの魔法しか保持できないのです。」
頭の中でクレッションマークが踊る。
「簡単に言えば、翻訳のみの魔法しかかけられなくなるんです。謂わば呪縛と一緒です。」
じゅ、じゅば…く?
白蓮の冷静な顔が更に言葉を恐ろしく感じさせた。
「えぇ、その魔法は術者にしか解けないので呪縛と一緒だと思っていただければ分かりやすいかと。」
ほうほう。
腕を組み、理解したと再び頷く。
「あとは、その魔法は1日以上経ちませんと解除できないのです。なので、もこさんに何か危険があった場合、私はもこさんに対して一定に魔法をかけ続けることができない為、探知や保護はできなくなります。」
ーーへぇ、魔法って複雑なんだね…
「私達は魔法が生活の一部な為、違和感なく使用していますが、もこさんが知っている魔法とは異なるのかもしれません。」
うん、ゲームとか漫画では魔法はマジックポイントが尽きない限り使い放題なイメージだ。実際の魔法って奥が深いんだなぁって感心する。
「話を聞いたうえで翻訳魔法はどうされますか?」
「にゃうー!!」
勿論やるに決まってる。
ただでさえ言葉が通じないって不便だし、更に相手が話している言葉が分からないだけで一人取り残されたように感じて不安になる。だから迷う必要なし。
そして、魔法をかけて貰った私は他にも猫のように行動をすることと、白蓮からは絶対に離れないことを約束したのだ。
ーーもう翻訳魔法はかかってるけど今以上にかける必要があるの??
朝のやり取りを思い出し、リボンに固定魔法をかける提案をした白蓮に問う。
「いえ、少し違います。もこさんの固定魔法は明日の朝には解除します。そしてもこさんの代わりに固定魔法をリボンにかけます。そうすることでもこさんは固定魔法に縛られることなく生活ができます。」
「にゃんみゃ!」
「もこさんが想像しているよりもリスクがあるのも難点です。」
そう言って金の糸が混ざる白いリボンを持ちあげ、白蓮は話を続ける。
「ご存知の通り、人間にかける固定魔法は1日で解除できます。それと同様に物にかける固定魔法も1日で解除できるのです。しかし、例外があり、魔力で作られた物はその物によって解除できる日数が違うのです。」
白蓮の手の中で光るリボン。
この光は電球の光を反射して輝いているわけではないようだ。もしかしたら魔力がこもっているからそう見えるのだろうか。
「このリボンですと、半年以上は固定魔法を解除できないでしょう。」
ーー全然違うんだね…
「えぇ、明日以降も、もこさん自身に固定魔法をかけてしまいますと、今回のような時に保護出来ません。あの飛行した大きな球体を思い浮かべてください。それを私の体に纏うようイメージします。その中に抱かれているもこさんがいても、既に固定魔法をかけた状態では矢が降ってきた場合、もこさんは助かりません。」
私の知る世界では非現実的ではあるが、この世界ではありえるのだろう。複数の矢が降ってくるのを想像し、ぶるりっと体が震えた。
「脅かしてしまい申し訳ありません。今のは固定魔法を複数かけるとそのようになるという例えです。私の見える範囲に居て頂けるのであれば矢が降ってきたとしても、固定魔法以外の方法で未然で防げます。ただ、見えない場合は魔法自体が複雑になり発動が遅くなったりとしますので、結界をオススメしました。」
全て納得できた。
けれど、その話を聞いてこの部屋の結界がどうなっているのかが気になる。それを白蓮に問うと、白蓮はサッと手を払うように動かす。すると、ドアと窓に見覚えのあるゴージャスな球体が浮かび上がる。
「さすがにあの者たちも家を壊してまで侵入はしてこないでしょうから、これで十分かと。」
凄いなと思う。魔法と生活するのが当たり前な世界では鍵をかける要領で結界をかけてしまうんだなぁ。頭の中が既にいっぱいいっぱいな私は、いつこの世界に馴染めるのだろうかと途方にくれる。
「簡単に纏めますと、リボンに翻訳魔法をかけてもこさん自身を無の状態にし、固定魔法が必要な時だけかける方法か、リボンに結界魔法をかけ、常にもこさん自身に翻訳魔法をかけるか。のどちらかになります。」
翻訳か結界か。
どちらと言われても、翻訳がないと困るし結界がないと怖いし。そうそう決められるものでもない。
ーー明日まで時間もらってもいい?
もう精神的にも体力的にもクタクタだ。
「承知しました。では、今日はここまでにしてゆっくりお休みください。」
もう歯を磨く余裕もなく、ベッドに丸まり寝息を立てる。
明日の朝、起きた瞬間に思い浮かんだ魔法をかけてもらおうと深い眠りについた。
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