もこは小心者。
ーー白蓮、本当に騙されてない?
お店を出て私を腕に抱えたまま足早にメインストリートを歩く白蓮に恐る恐る声をかける。
不安が声で伝わったようで、白蓮は一瞬だけ顔を向けた。
ーーいいえ。
その言葉に心臓がドキッと跳ねた。
ーーむしろその逆です。
ーーえっ?
ーー先ほどのリボン、薄暗くてあまりよく見えなかったと思いますが、金貨1枚で買えるような品物ではありません。あれは上級魔術師かそれ以上の精霊か…魔力で一本一本編んだリボンです。
ーー魔力でって、そんなことできるの?
ーーえぇ、残念なことに私は全くできませんが…あと、姉もできません。
うん、木蓮のダイナミックな魔法しか今まで見てこなかったから納得。枯葉の机とか椅子なんてもっと柔らかい素材がよかったなんて今更言わないけど、なんたって今の私はモコモコふわふわの毛という最強の装備をしているからね。
白蓮は白蓮で天然だから編んでる最中に分からなくなって、しまいにはリボンじゃないものができるんだろうなぁ。いや、もしかしたらリボンより豪華な花の形のテーブルクロスなんてできたりして。それ、ちょっと見てみたいかも。
ーーもこさん、少し早いですが宿屋に行きますね。
想像してぷぷっと笑う私に、白蓮の声が邪魔をする。
ーーえ、もう?
ーーはい、理由はわからないのですが後を付けられているようです。
「ゔにゃぁ!!」
声を上げ、声と一緒に体が飛び跳ねた。
白蓮は突然のことに体を硬直させ、私を地面に落とす。
ーーなんで、なんでっ!なにっなに!!
砂埃を舞い上げながらその場でぐるぐると回る。
白蓮の焦った声で名前を呼ばれ、混乱した頭でも知りもしない場所で白蓮と離れたら更に危険だと気付く。そして、慌てて白蓮の服を伝い肩まで登り、肩に顎を乗せしがみついた。っが、やっぱり混乱した頭では最善な方法とは程遠い事をしでかしてしまう。
白蓮の肩越しに雑貨屋の影からこちらを見る瞳と目が合った。
「に゛ぁっ!!」
更に肩で飛び跳ね、獲物を狙うかのように鋭い視線を向ける瞳が見えないようにと白蓮の首と側頭部に抱きついた。
完全に冷静さを失っていた私を白蓮は引き剥がし、胸元に抱き込む。そして、再び足早に歩き出した白蓮は、食堂や雑貨屋より繊細な掘りが施されている大きな木製のドアを開け建物の中へ入った。
ドアのベルで帳簿に目を通していた体格のよい女性は顔をあげた。女将らしき女性に部屋が空いているか確認し、一泊することを告げて会話も程々に部屋へ篭った。
ーーなんで、なんで、なんでー!!
ベッドでガタガタと震える体を丸めて頭と尻尾を隠す。目を閉じても脳裏に浮かぶあの瞳。
そんな私の耳に、ちりーん。と鈴の音が通る。
「もこさん、もう大丈夫ですよ。この部屋に結界を張りましたから、誰も入ってこれません。」
ーーほんとう?
顔だけ少しあげ、ベッドに腰掛け震える体を優しく撫でる白蓮を薄く開いた目で見る。
白蓮はふわりと笑い頷くと、更に簪の鈴が一つ響いた。




