もこはリボンで揉める。
「まぁ、綺麗。こんなにも沢山のリボンがあるなんて…迷ってしまいますね。」
目を輝かせてリボンを見つめるのは私だけではなく白蓮も同じようだ。
町娘の格好をしていても白蓮の頭には金の簪がついたままだ。そんな高価な物を身につけるからには安いものには興味がないものだと思っていたが、リボンを見る表情は双子の姉の木蓮そっくりな無邪気な笑顔だ。
そんな白蓮を眺めつつ、目に留まったリボン。
ーーいいのありましたか?
ーーうん、左から6番目かな。
ーーもこさん。それはちょっと…地味ではないでしょうか?
そうかな?と首を傾げる。
左からピンク、赤、水玉、黒、黄色、茶色、白…と続くリボン。茶色って地味なのだろうか…レースタイプだし私には派手に見えるけれど…と、傾げた頭を更に反対側に傾げた。
白蓮は、色々なリボンを腕に抱えた私に合わせる。
店員には飼い主が飼い猫にリボンを選んでいるようにしか見えないだろう。しかし、二人の会話はヒートアップしていた。
ーーむりっ!!
ーーではこれはいかがですか?
ーーハート柄なんてもっと無理!!
ーーではこれは?
ーー水玉なんてっ!!私そんな若くない!
ーーもこさんおいくつなんですか?
ーー………32、です…
「えっ?」
手に持っていたピンクの水玉リボンが床へハラリと落ちる。リボンは床につく瞬間、独りでに浮かび上がりカウンターの元の位置に戻る。
「あ、申し訳ありませんっ…」
店員に頭を下げる白蓮は酷く動揺していて、店員に謝罪している言葉が遠回しに私に向かっていっている気さえする。
そんなに驚かなくたって…
昔から私自身も好みの色も地味なのは知っている。これを機に派手な色をと考えてはいたが昔からの癖はなかなか治らない。しかも、私32歳なんです。見た目は猫でしかも子猫サイズ。そりゃぁ白蓮も勘違いしますよ。人間の時でも白蓮みたいにスタイルがいいわけでもないですしね。
ふんっと拗ねてそっぽを向く私の頭を少し冷静さが戻った白蓮は優しく撫でた。
ーー茶色にしますか…?
気を使う優しい声。
そんな声に複雑な気持ちになる。
なんて返事をしたらいいのか悩むじゃんか。
「あのぉー。」
テレパシーでのやりとりを知らない店員は、なかなか決まらないことにしびれを切らし頬杖をついたまま言葉を続ける。
「お金ちょぴっと高くなるけどー、もっと綺麗なのあるー」
「あら、是非見てみたいです」
店員が再び指を鳴らすと、高さが大人二人分はある棚の上に小さな鉄の箱があり、南京錠がカチャっと開きその中から一本のリボンが顔を出した。
ふわふわ飛んでいるリボンは、オレンジ色の照明を反射してキラキラとが光っているように見える。
「こっち、銀貨1枚。こっち、金貨1枚。」
顔と態度は怠そうにしているが、その瞳の奥はこのリボンを持つ資格があるのか見極めているようだ。
この世界の常識がない私にはちょぴっとの金額の差なのかなんてわからない。けれど、カウンターに並んだリボンを見て、一目惚れした。
「これいただきます。」
凛とした綺麗な声が即答したことに驚き、ぶわっと毛が逆立ち爪が白蓮の腕に刺さってしまった。慌てて爪をしまい、深呼吸を一つ。
痛みを感じることなく、私の驚きも無視して白蓮は高価らしいリボンと、最初に選んだ茶色のリボン、そして黒のリボンを買った。
麻袋から出した大金に店員はニヤリと笑い「まいどー」と言い受け取った。
そのやりとりをハラハラ見ていた私は、もしかして私たちはいい鴨でお金を騙し取られたのでは?と思ったが、心中を察した白蓮は踵を返しお店を出る瞬間、小さな声で「大丈夫ですよ」と呟いた。




