もこは魔物を知る。
--では、次は魔物についてですが…先ほどのトリークンはお口に合いましたか??
--うん、美味しかったよっ!!
今まで食べてきた手羽先より身が沢山付いていてジューシーで、肉不足だった私はとても満足している。
--実はあの鶏肉、カラスズのお肉なのです。
ガッターンっと音を立てて床にひっくり返る。
突然の音に店内は静まり返り、沢山の目がこちらを向いているのを感じる。客は音の原因が猫だと知ると何事もなかったかのように視線を外す。
よろよろと二足で立ち、椅子に手をかけてよじ登った。
あっ…間違えた。
冷静にみせかけて、かなり動揺しているみたいだ。猫が人間のように二足で歩き、高いところを腕の力だけでよじ登るなんて出来るはずがない。猫なら可憐にジャンプをし、椅子に座るなり毛繕いする余裕すら見せるだろう。今の私には演技をする余裕もない。
--騙したの?
体を纏う絶望感。引っ掻いたり蹴ったりしたのを実はまだ怒っているのだろうか…
--もこさん、この世界の食材は魔物が多いのです。
--えっ?
--魔物は元々、生息していた動物がなんらかの形で変化したのです。魔物が増えると動物は減ります。そして、その中でも動物を狩り食す魔物がいますので、更に動物が減ります。海の魚は保護されていますので、漁として取ることができますが陸の生き物は最低限の狩りで、しかも狩人の資格を持つ人しか狩ることができないのです。
--狩人?
--えぇ、その狩人も人数が決まっています。領主がおさめる領土に一人や二人しかいません。そして、市場に並ぶことはほぼありません。
--えっ、じゃぁその動物はどうなるの?
--王への献上が主にですが、小さな獲物になりますと貴族に売買されます。
この国でも格差があるのかとげんなりする。一般家庭で育った私は何不自由しなかったが、世界には飢えや差別に苦しむ人々もいた。
--騙す形にはなりましたが…この国の食文化を知って欲しかったのです。魔物は人や動物を襲いますが、人々にとって不可欠なものでもあります。命をかけて命を繋がないと生きていけない世界なのです。
--……。
白蓮の言葉が胸に突き刺さる。
平和な国で生まれ、実家暮らし母の手伝いもろくにせず、出された物を食べるだけの生活。コンビニに行けば食べ物も飲み物もすぐ手に入る、それが当たり前だと思っていた。この世界に来るまでは。
--酷なことをお願いします。
俯いていた顔をあげると、そこには真っ直ぐこちらを見る瞳。町娘に変装した茶色の瞳が一瞬だけ本来の薄水色へ変わったように見えた。
--この世界で生きていくのをお考えであれば覚悟してください。この世界を恐れないで全てを受け入れることを。この世界と共に生きることを。この世界を愛することを。
白蓮の言葉は今の私にはとても重く鉛のようにのしかかった…。




