もこは納得する。
ドアを開くとドアの上についた鈴がチリリーンと鳴り、来客を伝える。
その音が聞こえたのか、奥の方から「いらっしゃーい」と声がかかるがその姿は沢山のお客に埋まってしまい探すことができない。
白蓮に続き店内に入ると、小さな食堂は満員御礼状態で、隙間を見つけてはその隙間を縫うように空いている席を探す。
踏まれないように白蓮に抱きかかえられ、漸く見つけた二人席。猫って椅子に座ってもいいのかなと思いつつ、白蓮に置かれるがままお尻をつけて座る。もちろん、肉球のついた短い足と手で人間のようには座らず、動物で言う待て。の状態だ。
--食堂ってこんなに混み合うんですね…
--白蓮も初めてきたの?
--はい、偵察の際は個室で何人か給仕がいるようなところで食べますから。こんなに賑わっているところは初めてです。
席に置かれたメニューに目を通しながらテレパシーで会話をする。
--ふわふわ愛情たっぷりパンフェってどんなものでしょうか…
頭を傾げる。白蓮が知らなくて私が知るはずがない。
--もこさんは何を食べますか?ここでは人目があるので、猫さんが食べても怪しまれないものがいいですね…
--料理の名前わからない。
この世界に来てから、木蓮が作ったものを食べる機会しかなく、地の精霊だからか出るものは野菜か果物。ベジタリアン生活を送っていたが、野菜も果物も新鮮で美味しく、飽きることはなかったが、やっぱり
--お肉が食べたい。
ポロリと漏れた言葉に耳がぴーんと立つ。
そうだ、肉だ!!猫になってからまだ口にしたことがない肉。豚でも鶏でも、できれば牛がいい!!
--お肉ですか…?では、トリークンなんていかがですか??
お肉が食べられるならなんでもいいっ!と頭をブンブン振った。
さて、メニューが決まったのはいいがここからが問題だ。この賑わった店の中でどう店員を呼ぶのだろうか。キョロキョロ店員を探す私をよそに白蓮は手元にある木の棒で木の皮に何かを書き始めた。
椅子の上に立ちテーブルに両肉球を置き白蓮の手元を覗き込むが、木の棒で何かが書けるはずもなく木の皮はただの皮切れだった。
首を傾げまじまじ観察する私に、白蓮はくすくすと忍笑いをする。
--この二つには魔法がかかっています。
--えっ、魔法…。
そこら辺に落ちているような棒に木の皮だ。魔法がかかっているようには見えない…
--はい、書いていないように見えますが、書いている本人には見えてるんです。ここに食べたいものを書いて、手を2度叩くと…
パンパンっと手を叩く音に木の皮が反応し、ひとりでに立つ。
おおーっ!と目を見開き木の皮を凝視する。
木の皮は立ったまま、体を半分に倒し、次は背を反らせるように後ろへ倒す。
なんだ、この木の皮は…まるで体操の前後屈みたいなことをやってると胡乱な目で見る。
前後屈を何度かし、漸く動き出した木の皮はものすごいスピードで走り出し、人の足を避けながらお店の奥へと消えていった。
--なんなのあれ…
呆然と木の皮が消えた先を見ながら呟く。
--あの魔法を発案したのは、姉です…
あー、納得。
あの変な動き、木蓮なら考えかねない。
肩をすくめ白蓮は続ける。
--繁盛しているお店が少しでも効率よく仕事ができ、お客様の待つ時間を減らせるようにと考えた魔法です。
--木蓮、気がきくんだねぇ
--いぇ、私の契約者が悩んでましたので、そのことを姉に話すと面白がって作った道具が採用されたのです。
うん、再び納得だよ。




