もこは頭がパンク中。
「美味しくないでしょうか…?」
しょんぼりと肩を落とす白蓮に、慌てて顔の前で両手を振る。
「いや、私が住んでいたところには無いお味で美味しゅうございます!」
「本当ですか?」と首をかしげる儚げな美女に頭をブンブンと上下に振り、残りのお茶を一気に飲み干した。
口の中に広がる苦味と辛味に飲み込んだものがせりあがってくるが、口を固く閉じて戻すのを我慢する。そして、苦しいのをぐっと我慢し、口角が引きつらないように注意しながら笑顔でティーカップをちゃぶ台へと戻した。
白蓮はほっと安堵の笑みを浮かべ、再び空になったティーカップにお茶を注いだ。
「では、話を進めてもよろしいですか?」
お茶に視線を向けないように意識しながら頷く。もう絶対、飲まない。
「350年程前に一人の男性がこの世界へやってきました。」
「うにゃっ?」
「今のもこさんのように彼は人間ではない姿で精霊の森に突然現れたのです。」
「うにゃう」
「精霊の森は全部で5つあります。タファーナ大陸を中心に、北に光の精霊が守護するキラーリ島。北東に火の精霊が守護するメラーリ島。南東にある水の精霊が守護するウルール島。南西にある闇の精霊が守護するシトル島。そして、北西に姉と私の地、風の精霊が守護するガサール島。」
--あ、頭がパンクしそうだ…
「異世界から来た男性は、今から向かうウルール島に突然現れたのです。彼は真っ白な成猫の姿をしていました。」
にゃんとっ!!
「彼はタファーナ語を半年かけマスターし、魔法も精霊と肩を並べるほど上達し何不自由なくこの世界に馴染んでおられました。」
ミミズが這ったような文字を思い出すと同時に、その男性との頭の違いに肩を落とす。
「しかし、彼は徐々に不思議な行動をとるようになったのです。」
--ん?
「先ほどのもこさんが蝶を追うような動物本来の動きをするようになり、自覚症状も記憶も残っていなく、気付いた時にはもう手遅れでした。」
「んにゃ?」
動物本来の動き…そんなことをした記憶はない。
白蓮の周りを飛ぶ蝶を見送りはしたが、それのことだろうか。
「そして、彼はこちらの世界に来て10ヶ月程で人間の記憶も覚えた言葉も魔法も全て忘れ、本物の猫になってしまったのです。」
「……」
ほ、ん、も、の…?
ジッとこちらを見据える白蓮の薄水色の瞳。
その瞳はビー玉のように美しく、手を伸ば…
はっ、と我に返る。
ちゃぶ台の上に四つ足で立ち、伸ばされた手の先には白蓮の綺麗な瞳。
自分の行動に驚いて後ろに跳ね上がり、着地と同時に四つ足で走った先にはゴミ箱の角。
そこで丸まり、ガタガタ震える体を両手で抱きしめた。
--私、今…何しようとした…?




