もこは空中散歩中。
「……」
「……」
ゴミ箱が空を飛び始め約一時間。
人生初の空中散歩に興奮し、ゴミ箱の縁にぶら下がって地上を眺めたが、数分で飽きてしまった。
見渡す限りの木、木、木。
最初は綺麗!凄い!立派な木!とか叫んでいたけれど、今じゃ木は全て同じに見える。
地平線の先に海も川も見えなく、肩を落とす。
穏やかで優しい風の力で進むゴミ箱に、まだまだ距離があるだろうウルール島へ無事に到着するのだろうかと不安になった。
地上を眺めるのを早々に諦め、ぶら下がっていた縁から降り、その縁に背を預け足を伸ばし座り込む。
そして、同じ体勢から全く動けないでいる。
きっと今が謝るチャンスなんだと思う。
向かい側に正座のまま目を閉じる白蓮を盗み見る。
一時間そのままで全く動かない白蓮。
下ろしていた髪をあげると長い首が色っぽい。
ぽけーっと彫刻のように動かない白蓮を観察していると白蓮の瞳がゆっくりと開かれる。
バチっと交わる視線。
薄水色の瞳になんの感情もなく無だ。
ぞわりっと鳥肌が立ち、ふさふさの尻尾が逆立つ。
白蓮の瞳が三回瞬きをすると、体がほんのり金色に光り出し、その光はゆらゆらと白蓮の周りを漂う。胸の前で手のひらが上になるよう広げると、体の周りを漂っていた金色の光は手のひらへ集まり縮まっていく。
その光は小さな金色の蝶へと姿を変えた。
「あっ、もこさん。申し訳ありません。」
手のひらに集中していた私は、白蓮の瞳に光が戻っていたことに気付けなかった。
突然話しかけられたことに驚き、硬直していた体が無意識に飛び跳ねた。
四つ足で立ち背中を丸め全ての毛を逆立てる。シャーっと鳴いて白蓮を威嚇した私に、白蓮はふわりっと笑った。
「もこさん、何も伝えず魔法を使ってしまって申し訳ありません。」
床に両手をつき、頭を下げる。
頭を下げたことによって、簪の鈴がリーンと鳴る。
その音が恐怖で荒立っている心に響き、心が鎮まる。
丸まった背と逆立った毛は戻るが、まだ四つ足のままだ。今は恐怖より興奮が勝っている。
目線は白蓮の頭の上を飛ぶ蝶に。
尻尾がゆらゆらと揺れ、瞳は獲物を捕らえて離さない。
「もこさんが地上を眺めている間に、契約者と今後のことについて話し合っておりました。」
蝶が左右に揺れる。
「この蝶は伝言蝶です。」
蝶は再び白蓮の手のひらに舞い降りる。
「ウルール島にいる水の精霊に契約者の伝言を届けようと思いますが…もこさん、大丈夫ですか?」
いつでも跳びつけるようにお尻をフリフリと振ってタイミングをはかる。
そんな私に白蓮は近づき、目の前に白くて長い指先を近づけて、パチンっと指を鳴らした。
「--大事な話があります…」
もう心は荒立っていない。
近くで背中を撫でる暖かい手に恐怖もない。
目で追うのはゆっくりと飛び立った蝶。
「にゃぉ」
私は今、何をしていた--?




