もこは人間不信中。
木蓮が片手を振ると枯葉で出来た猫サイズの椅子がひとりでに動き、私の後ろに回り込み動かなくなる。
その椅子に腰掛けると、再び動き出しセットとなる机へ自身を寄せた。
「それでは、今日も昨日に引き続き言葉について勉強しましょう。」
木の枝を右手に持ち、反対の手のひらをパシパシと叩きながら木でできたボードに背を向ける木蓮。
その横でベンチ型に作られた枯葉の椅子に座る白蓮。白蓮は木蓮の妹だが、木蓮を見守る姿はお転婆な妹を見守る姉のようにみえる。
「この一週間で、もこはこの国の言葉を習得しようと頑張りました。……が、全く習得できませんでした。」
がくっと肩を落とす。
木蓮の言う通り、朝から晩までこの国の言葉を話せるようにと努力はしたが、努力は身にならず燃え尽き灰になっただけだ。
未だに喋れるのは猫語だけ。
にゃー、みゃー、うにゃー、だ。
「私と白蓮は精霊なので、動物の言葉を理解して会話をすることができます。ですが、もこがタファーナ語を聞いても理解できません。」
キリッと先生を演じる木蓮。
いつも砕けた話し方をする木蓮が丁寧な言葉を使うと、白蓮と会話をしているように錯覚する。
「この森は私たちが守護しているので、動物と私たちしかいません。なので、タファーナ語はここでは必要ないのですが、もしこの先、もこが人間と契約したり人間世界に住みたいとなった時に必要になります。」
うんうん、と頭を振る。
「契約の話はまた後でお話しするとして、今はどうにかしてタファーナ語を話せるようにするかを考えます。」
再びうんうん、と頭を振る。
垂直に立つふさふさの尻尾の先がゆらゆらと揺れる。
「一番手っ取り早いのは、人間と契約することです。もこは人間の街に出たいと思いますか?」
頭を横に振る。
何不自由していないこの場所でどうして街に出なくてはいけないのか。
人間の憎悪が充満している世界なんて行きたくない。
「そっかぁ…」
急に砕けた話し方に変わる木蓮。
その顔は本当に残念そうだ。
「じゃぁ、タファーナ語を話せる方法はほかにないコトはない。けれど、それはもこが努力しなくては手に入らないけどそれでもいい?」
先生のフリをするのが疲れたのか飽きたのか、いつもの木蓮に戻る。
一気に緊張感がなくなり、伸ばしていた背筋を猫背に戻す。
「んにゃんみゃん」
ーーもちろん。
タファーナ語がこの先必要になるかはわからない。けれど、この先この世界で過ごすのならこの世界に馴染まなければいけない。
言葉はその第一歩だ。




