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大胆不敵のメルヘン泥棒  作者: 緋乃ひかり
第1章
1/1

不思議の国のアリス

初投稿です!

大筋はできているのできになる方がいらっしゃったら続きを書いていこうと思います!

では、宜しくお願いします!


――はぁ、はぁはぁはぁ…まずいな


月明かりに照らされた俺の懐中時計は、現在《AM 0:21》を示していた。俺は真っ暗な美術館の中で息をきらし窓の外を覗き、そして焦っていた。


外はキラキラと光る赤いランプで埋め尽くされおり、緊張感を高めるようにサイレンの音が鳴り響いている。


こんな状況でなんだが、俺は巷で《怪盗ライトニング》と呼ばれており、自慢じゃないが容姿端麗で《狙った獲物は逃さない》をモットーとしており、そこそこ名の通ったコソ泥なのだという自己紹介をおこなう。


 数日前、完全不落と言われているルーヴァル美術館に予告状を出し、予告通り0時00分に盗みに入り、お目当の宝石は手にした。だが、恥ずかしながら脱出の手段として前日に仕込んでおいた方法が、全て何者かによって封じられており只今、絶対絶命中なのだ。


(さて、どうするか…)


このルーヴァル美術館は3階建ての2棟に別れており、その2棟は2階部分にある連絡通路で繋がっている。一方は歴史的書物や小説、漫画、絵本が展示されており、そして今俺がいる棟には美術の教科書にもでてくるような絵画やジュエリー品、彫刻などが展示されている。構造としては美術館と図書館が一体化した珍しい施設になっている。


今俺がいるのは、2階のジュエリー品の展示コーナー。脱出を試みたいのだが、こっそり1階を覗いたら既に警官が何人も待機していた。屋上に行けば、数十台のヘリが待ち構えている。連絡通路には誰もいないようだが、外のパトランプを見る限りはやはり書物棟の1階にも警官が待機しているらしい。それに、屋上や1階の警備が徹底されているにも関わらず、連絡通路には全く警備がないなんて、まるで誘われているようじゃないか。


俺自身、変装は得意な方である。なので、普段ならば警官に変装し、警官に紛れ脱出するのだが、今回は相手も悪かったようだ。


俺の旧友であり、宿敵である男。数々の大事件を、その並外れた頭脳で解決してきたまさに天才と呼べる男。いわゆる名探偵。名はヒビキ。ヤツが来ているようだ。俺が黒ならヤツは白。俺が月なら太陽。水であるなら油であるように昔から絶対に交わらず、関わらず仲良くなんて以ての外な男だった。最初に言った《脱出の手段》を封じたのも恐らくこの男の仕業なのだろう。


『――あ、あ、テストテスト…』


キィィインと、ハウリングを起こした音がした後に、拡声器を通したヒビキの声が聞こえて来た。


『やあ、ライトニング君。久しぶりだね。君とは何年の付き合いになったのかな。懐かしいね、僕が君と初めて会った頃は――』


その声は1階から響いてくる。その後も他愛の無い昔話を延々と続けるヒビキだった。しかし、勿論これもヤツの罠なのだろう。1階から探偵の声がして、1階に降りていく泥棒はまずいない。更に、屋外からパタパタと聞こえるヘリの音。上に行けばヘリがいるのは音だけ聞いても分かる。

 《拡声器》ただそれを使うだけでヤツは俺の脱出手段を連絡通路のみにしたのだ。


 今、俺は本気で楽しい。ジワジワとかく汗が止まらない。だが、気づけば爪も血が出るほどに噛んでいた。何年も勝敗がつかなかったこの闘いに遂に決着の時が来ようとしていると、俺を含め誰もが思っていた。


 その時、コツンと物音がして、俺は反射的に胸ポケットからから銃を取り出し、その音の方向へ銃口を向けた。


「ちょ、ちょっとお兄さん!引っ込めておくれよそんな物騒なものは!」


 そこに立っていたのは、金髪の長い髪で、水色のメイド服に、同じく水色のカチューシャをした16歳くらいの女の子が立っていた。


 泥棒業界でも侵入すら難しいと言われているこのルーヴァル美術館の中に、女の子が1人ぽつんと立っているのだ。


「⋯⋯なんだ?同業者か?」


女の子は首を横に振り、俺に手を伸ばした。


「今、困っているんでしょ?あなたが誰かは知らないけれど、助けてあげる。だから、あなたも私のお願いを1つ聞いて」


 …はぁ。


「どうやら俺は頭もイカレちまったのか」


「違うわよ!失礼ね!良いから、助けて欲しいの?いらないの?どっちなの!」


 女の子は顔を真っ赤にしてそう言った。しかし、この状況を理解しているという事は、ずっとどこかで見ていたのだろうか。それに、こんな女の子に助けて貰うほど、俺の腕は落ちていないし、プライドが許さない。


 だが、そうも言ってられない。警官が乗り込んでくるのも正直時間の問題である。それにこの女の子がもし、幻覚であるならば、いや、恐らく幻覚だろう。今から幻覚で見えているこの少女に脱出方法を教えてもらえば、俺の判断で脱出した言える。


「⋯⋯じゃあ、教えてくれないか」


 その瞬間、女の子はその言葉を待ってました!と言わんばかりに俺の手を引っ張った。


「なら、約束ね!私の願いも必ず聞いてね!」


「分かったよ。だが、まずは脱出が先だ。」


「分かってるわよ!こっちよ!」


 女の子が向かったのはやはり連絡通路だった。こいつ、間違いない。素人だ。連絡通路の警備の薄さを見て直感のみで行動している。ヒビキの考えることだ。必ず、この連絡通路の向こうには沢山の警官が待ち構えていることだろう。


「ま、まて!連絡通路は、罠だ!何百人の警官が待機している!」


 このまま、別棟に移動したのだから安全だ。とか言って1階に降りると言うのだろうか。それとも、屋上に上がればコイツの脱出手段を用意しているとでも言うのだろうか。どちらにせよ、確実に捕まってしまう。1階の警官もガラスを割り突入を始めた音がする。ああ、やはり終わったのだ。さらば、俺の怪盗生活。俺の泥棒生活よ。


「もうすぐよ」


 あれ?女の子に手を引かれ向かった先は、階段ではなく、2階の突き当たりにある図書館の一角だった。


「⋯⋯絵本コーナー??」


「そう、ここよ」


 最初から脱出口ではなく、ここを目指していたのか。完全に行き止まりじゃないか。おかしいと思ったのだ。こいつもヒビキの罠だったのだろう。行き止まりに連れて行き、警官隊の突撃で完全に脱出を不可能にした上で逮捕する。それがヒビキの狙い、そしてこの女の子はそのために雇われたのだろう。


「もう、いいよ。逮捕してくれ。俺の負けだ」


「何を言っているの。出口、いや、入り口と言うべきかしらね」


 もう、なにを言っているのかさっぱりわからない。


「そうだな。監獄生活への入り口はもう目の前だな」


 女の子は頭を傾げた。


「本当に何を言っているのか分からないけれど、1つ聞いていい?あなた、《不思議の国のアリス》というお話は知ってる?」


「小さい頃に母が読み聞かせてくれた事がある。遅刻してしまうといい慌てているウサギを追いかけると不思議な国に迷い込んでしまったと言った話だろ。」


「まあ、そんな感じね。じゃあ、アリスの結末は知ってる?」


 母が寝る前に読み聞かせてくれていたが、いつも途中で寝てしまい、結末まで聞くことはできておらず、結末は知らなかった。


「いや、知らない。分からない。それに、この話と脱出は何の関係があるんだ。」


 女の子は、絵本コーナーから一冊の絵本を取り出した。それは、《不思議の国のアリス》で、女の子はその絵本の一番最後のページを開いた。


「結末はここに書かれているの。彼女は実際、この絵本に書かれているように姉に起こされ、目が覚めた。その瞬間、体験したことすべてが《夢オチ》だったことに気づいた」


「その結末を《ホンモノ》にしてほしいの」


 その瞬間、絵本と彼女の周り、そして俺の周りままでキラキラと周りが見えないほどの光が纏った。



《――美しい物語はなぜ美しいか分かる?ほとんどが物語の一番美しい部分で書くのを辞めているだけ》



 次に気がついた時、俺は広い野原の木の下にいた。

見渡すばかりの草原と木。やわらかな木漏れ日が俺の目を覚まさせる。蝶が舞い、ウサギが駆け回り、鳥がさえずる。この世にこんな美しい風景があったのか。


「あ、気がついた?」


 もたれていた木の後ろからひょこっと顔を出し、ニコッと笑ったのは、先ほどの女の子だった。


 女の子は俺の前まで来る。さっきの《不思議の国のアリス》の絵本を持ったまま、なぜか俺の身体が五体満足であるか確かめた。


「うん!うまくいったみたいね!」


 なぜこんなことをしているのか、理解ができない上に、今の自分の状況についても理解が追いつかない。


「まずは、助けてくれてどうもありがとう。だが、ここはどこなんだ。間違いなく、ルーヴァル美術館の近くじゃあない。そして、キミがここまで俺を運んできた怪力女だとも考えづらい。」


「あなた、ときどき失礼なことをさらっと言うわね」


 女の子は絵本を振り上げながらそう言う。


「端的に問おう。ここはどこで、キミは誰なんだ」


 そう聞いたとき、女の子は絵本を振り下ろす。本で殴られると思った俺は反射的に目を瞑ってしまう。しかし、痛みは感じられなかった。恐る恐る目を開くと、目の前に絵本の表紙が向けられていた。


「私は、この絵本の主人公アリスなんです!」


 俺はこの日、(自称?)不思議の国のアリスと出会った。









 



 

 







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