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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第1章 聖女見習いと盗賊
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第7話「追い剥ぎ少女」

「そうですか……でしたらその、えっと……。今は何を、なされているのです?」

「「追い剥ぎ!」」


「もう一度聞いても、答えが変わりませんわ!?」



 何が行われているかを大体理解しつつも、ローズハーヴはリリンサ達に問いかけた。

 その目の前の光景があまりにも信じられないのだ。



「追い剥ぎって何なんですの!?盗賊を追い剥ぐとか聞いたこともありませんわ!?」

「おや?随分と元気になったもんだ」


「そりゃ、元気にもなりますわ!今の今まで絶望的状況だったのに、爆裂ですわよ!?爆裂!!」

「ははは、せっかくだし、僕と一緒に掛け声なんてどうだい?……たーまやー!」


「あんな酷い光景を花火と一緒にしないでくださいまし!?」



 盗賊を打ち倒したワルトナとリリンサは、早速、戦利品の徴収を始めた。

 無残に散らばる7人の男たちの最後の砦(パンツ)のみを残し、価値を査定しながら袋に詰め込んでゆく。


 しばらくしてローズハーヴは意識を取り戻し会話に加わろうとしたが、当たり障りのない話題で話を流されてばかり。

 予想に反して、売ればそこそこの値が付く魔道具と貴金属をいくつか見つけた二人は、非常にご機嫌で嬉々として追い剥ぎを楽しんでいるのだ。

 若干優しくなった手つきで、盗賊達が来ていた装備品や服、指輪やネックレス、ポケットに忍ばせていた宝石などを根こそぎ頂戴してゆく。


 やがて、二人の徴収は佳境に入り、最後には耳についているピアスすらも毟り取った。

 そして、その時に違和感に気が付いたリリンサは、平均的な表情でその事をワルトナへ報告する。



「ワルトナ、この人の髪はニセモノっぽい。カツラだと思う」

「剥ぎ取って確かめておくれ、リリン」


「うん……正解。やっぱりカツラだった!」

「よし、疑問は解決したねぇ。じゃ、それ谷底に捨てていいよ。汚いし」


「汚いんなら触らせないで欲しいと思う!……ぽい」


「悪魔の所業ですわ!?」



 ツッコミを入れている少女ローズハーヴは、現在の状況を省みて混乱している。

 自分と盗賊の姿は、想像していた未来とはまるで逆のものとなったからだ。



 ど、どうしてこうなりましたの!?

 私は隣町に向かう途中で盗賊に捕らえられて、汚されてしまうと思っていましたのに。

 ですが、結果的に剥かれたのは私ではなく、盗賊。

 下着はギリギリ残っているものの、プライドは完全に剥かれて捨てられましたわ。谷底に。



 風に乗ってゆっくりと落ちて行く副頭のプライドを目で追いながら、ローズハーヴは考えた。

 どうやら、自分の未来は二転三転するらしいと、貴族の娘らしい強かな思考を巡らしてゆく。



「まずは……お礼を言うべきなんでしょうね。お助けいただき、どうもありがとうございました」

「気にしなくていいよ。僕らの目当てはお金だしさ」

「そう。手に入れたお宝を売れば美味しいご飯食べ放題。私的には凄く満足している!」


「この人たち、欲望を隠そうともしませんわ!?」



 しっかりと立ち上がり、フリルの付いたスカートを摘まみ上げ行う貴族の礼。

 格式ばった謝辞よりも金品などでの謝礼の方がいいとも思ったが、自分が出来る最大限の礼を尽くさなければ気が済まない。

 だからこそ、金銭での謝礼は後で行うとして、まずは言葉でと立ち上がったのだ。


 だが、リリンサもワルトナも戦利品の鑑定で忙しかった。

 視線を手元に落したままのスル―に近い態度で流されてしまったローズハーヴは、なんなんですの!?っと憤るが、ぐっと我慢。


 ここは友好的に接して機嫌を取り、町まで同伴して貰おうと目を細める。



「分かりました。それではお二方には金銭での謝礼をしたいと思いますので、是非、我がフロー家にお招き致したく思いますわ」

「へぇ。気がきくねー。じゃあ明日の夕方にでも行くからさ。先に帰ってていいよ」


「は?」

「パーティー開いてくれるんでしょ?僕の相方は食べキャラだからね。いっぱい料理を用意しておくれよ!」


「ちょ、ちょっと待って下さいまし!?私に一人で帰れと仰ってますの!?」

「うん」


「気持ちいいくらいに言い切られましたわ!?!?」



 そんな馬鹿な話があるんですの!?とローズハーヴは思った。


 なにせここは、山の中腹。

 しかも唯の山ではなく盗賊が闊歩する山なのだ。

 言ってしまえば盗賊の庭みたいなもので、そんな所から非力な令嬢が一人で帰れるはずもない。


 一方で、リリンサとワルトナは当たり前の事を言ったという態度で、視線すらローズハーヴに向けていない。

 さっさと行って準備してねという態度である。



「ありえませんわ!?こんな所から一人で帰れるわけがありませんもの!?」

「えー。じゃあ誰がキミの無事を知らせるっていうのさ?」


「え、えっと、そうですわ!執事が一人屋敷に向かっておりますの!きっとすぐに増援を連れて戻って来ますわ!ですからそれまでご一緒に――」

「それは無理。助けなんてこない」



 会話をしていたワルトナに変わり、答えたのはリリンサだ。

 ワルトナは珍しい宝石を見つけたので、魔道具を取り出して本気で鑑定をしている。

 必然的に会話は続行不可能となり、代わりにリリンサが口を開いたのだ。


 そしてその言葉は、ローズハーヴを凍りつかせた。



「……え?どうしてですの?」

「その執事、さっき剥いた」


「なんて事をしてくれてますのッーー!?」



 一応証拠を見せると言ってリリンサが取り出したのは、品質の良い生地を使った執事服。

 ソレを見たローズハーヴは、一目で理解した。


 その服が、自分が信頼を置く執事のものである事も。

 そして、服がここにあるという事は、執事は盗賊と同じく剥かれてしまったということも。



「何で剥いてしまいましたの!?盗賊はともかく、執事は悪人ではございませんですわよ!?」

「ん。あの執事は私達に剣を抜いた。で、執事服を着ている盗賊だと思ったのでブチ転がした」


「そんな盗賊いるわけありませんわ!?」

「あーキミら、何を騒いでいるんだい?」



 戦利品の鑑定が終わったワルトナが会話に戻ってきた。

 その後ろにチラリと見えた盗賊達の姿は壮絶な表情で一列に並んでおり、ぱっと見たかんじ殺人現場そのものだ。


 ソレを意図せず見てしまったローズハーヴは、控えめな声になりつつも、抗議の声を緩めはしなかった。



「えっと、うちの執事があなた方に剥かれたというお話を聞きまして……本当ですの?」

「戦利品の金額は、盗賊3人分=執事1人分だねぇ。今度からは執事狩りとかいいかも?」


「平然と外道な事を言わないでくださいまし!?じゃなくって、何で攻撃しましたの?」

「それは僕らが聞きたいよねぇ。先に攻撃してきたの執事の方だし」



 ワルトナの証言を聞いて、ローズハーヴは困惑した。


 その執事は剣の腕が立つということで最近雇い入れた者で、確かに乱雑な性格だった。

 だがそれでも、こんな子供を襲うような性格じゃ無かったはずだとの想いが、思考を揺らしているのだ。



「それは……恐らく、気が動転してたんですわ。盗賊に襲われて命からがら逃げ出している途中ですもの、当然ですわ」

「ふーん。しっかり石に座り込んで、紅茶を楽しんでたけど?」


「……はい?」

「少なくとも、必死に走って助けを求めてはいなかったねぇ」


「えっと、ちょっと疲れたので休憩していただけでは?」

「クッキーが美味しかった!!パイもおいしい!!そのせいでお茶を3杯も飲んでしまった!!」


「ガッツリ休み過ぎですわッーーー!!」


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