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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第49話「ワルトナちゃんの総仕上げ②」

「「「「レベル……9万だと……。」」」」」



 寸分の狂いもなく、まったく同じ言葉が木霊した。

 この場に君臨した澪騎士ゼットゼロとその従者『ティーナ」、そしてリリンサとワルトナを除く全員の声が重なったのだ。


 その中でも、一際声が大きかったのが、カンジャートだ。

 いきなりの登場をまったく予想できておらず、引きつった笑みを澪騎士に向けた。



「は!はは。マジ?」

「改めて自己紹介をしておこうか。私の肩書きは『澪騎士ゼットゼロ』。鏡銀騎士団の一番隊隊長であり、実質的な最高責任者でもある」


「……は、なんかもう、ね。言葉にならないというか、なんというか……。それで、俺の安否ってどうなりました?」

「キミの安全は、この澪騎士ゼットゼロが保証しよう。安心してくれ」



 冒険者の大まかな目安は、


 ランク3……以前のソクトと同レベルな、熟練冒険者。

 ランク4……理不尽な強化を受けたソクトと同レベルな、トップクラスの冒険者。

 ランク5……人間なのか?と疑惑が浮上するレベルな、小悪魔冒険者。

 ランク6……満場一致で人間じゃないと思われるレベルな、悪魔冒険者。


 となってゆき、


 ランク9……どんな生物も斬り伏す、人類の希望。


 となる。

 そして、ランク9というその存在は、伝説や迷信として語り継がれ、なかば空想上のものとして扱われている。


 そんな理不尽を超えた人物など、最前線に身を置く冒険者であろうと既知を得る機械などない。

 だからこそ、カンジャートは恐縮し、澪騎士に畏怖の視線を向けている。

 そして、さっさと体裁だけ整えると、せこせこと後ろの方に逃げていったのだ。


 彼の座右の銘は、『触らぬバケモンに、祟りなし』だ。



「ん!澪、久しぶり!」

「そうだなリリン、2カ月ぶりくらいか?」


「大体そんくらいだと思う。それで……何でこんな所に居るの?」

「それは私も聞きたいくらいなんだが……。」


「はい!はい!澪様!僕が説明したいです!!」



 カンジャートが下がった後、入れ替えわるように出て来たのはリリンサだ。

 その表情は平均的な頬笑みであり、12歳の可愛らしさを存分に引き出しながら澪騎士に飛び付いた。


 そして優しく受け止められたリリンサはゴシゴシと頭を撫でつけられると、嬉しそうに頬を緩ませる。

 さらに、無邪気を装ったワルトナも参戦し、場は優しい雰囲気に包まれた。



「ふむ、ではワルトナに説明を任せようか」

「ありがとうございます!」


「始めにこの場に居る者たちの紹介をしてくれ。それと、私達の紹介も頼む」

「はい!分かりました!」



 澪騎士の要望にこたえるべく、ワルトナは元気よく口を開いて、ソクトを代表とする熟練新人冒険者を紹介し始めた。

 声色だけは子供のようであるが、中身はしっかりとした人物紹介。

 それにはリリンサも参加し、出会ってから起こった事の詳細まで説明。

 連鎖猪にブチ転がされたなどという恥ずかしいエピソードもしっかり暴露された。

 若干顔が赤くなった熟練新人冒険者達は、肩身が狭そうに座っている。



「うむ、人物関係は理解させて貰った」

「えっと、今度は僕から質問いいですか?」


「いいぞ」

「澪様はどうしてこの森に?正直に言って、こんな所には用事が無いと来ないですよね?」



 さて、どうなってるんだろうねぇ。

 ワルトナは心の中で呟くと、その視線を澪騎士に向ける。



「そこの貴族もそうだが、最近になって鏡銀騎士団の名を使い悪事を働く者が急増してな。調査を行っていたんだ」

「へぇー。大変ですね」


「これが中々に手強くてな、どれだけ調べても黒幕に辿りつかないんだ」



 おや?雲行きが怪しくなって来たねぇ。

 いくら鏡銀騎士団を呼ぶように僕が指示を出したとはいえ、澪様が来るほどの事件じゃない。

 澪様が出て来なくちゃいけない事態って、さっき戦った千刻竜が20匹もいるとかの場合だし。


 澪騎士の話に違和感を覚えたワルトナは、更に深く探りを入れる為に視線を向けた。



「そうなんですか?調べた結果ってどんな感じなんです?」

「大体は、小悪党な貴族が鏡銀騎士団の鎧を手に入れることから始まり、その名を使って冒険者を取り込んでいくという手口だな。恥ずかしい話ではあるが、昔、部下に入団者の裁定を任せてた時期があってな……」


「あー。ネズミ大量発生だねぇ」

「まさにそんな感じだよ。入団希望者の面接は信頼できる部下に任せたんだが、気が付いた時には誰がどの隊に所属しているのか、分からなくなってしまったんだ」


「なるほど、顔すら見たこと無い貴族が、勝手に鏡銀騎士団を名乗り始めたと」



 これ、指導聖母が暗躍してるねぇ。

 というか、乗っ取られる一歩手前じゃない?


 たぶんだけど、澪様が信頼していると言った部下の派閥争いを上手く利用し、自分の先兵を送り込んだんだね。

 やり方は『側近Aさんの紹介で来ました』と、名前を出した人物と仲の悪い側近Bの所にあえて面接に行く。

 そんな事をすれば、その後の対応は過激になるはずだ。


 で『側近Aの紹介した人物なんかいらん』と門前払いされた場合、その事を大げさに風潮した後で、側近Aの所へ面接に行く。

 そして、何食わぬ顔で側近Bから受けた仕打ちを語り同情を得て、鏡銀騎士団の資格をゲットだ。



 ほんの少しの会話で真実を見抜いたワルトナは、敵の狡猾さに思わず頷いた。



「それで、貴族を調べていたらドラゴン発見の知らせを受けて、ここに来たって感じですよね?」

「ほう、良く分かったな。その通りだ」


「澪様。大変に申し上げにくいのですが……敵に踊らされています」

「なんだと!?」


「澪様は脳筋……じゃなかった、えと、凄い戦闘力ですので、何かと便利なんです」

「なに!?」


「ちなみに、最近になって、非常に戦闘力の高い危険生物とやけに出くわすとかありませんか?」

「……遭遇するな。一昨日も別の場所でドグマドレイクを10匹程狩ったばかりだ」


「うん、完全に後片付けを押しつけられてますよ」



 そう言いながら、ワルトナは集まった情報を組み上げてゆく。

 そして、一本の筋書きを描き終えると、ほんの少し声を高めた。



「実は僕らもドラゴンがこの街に居ると聞いて退治しに来たんです。ね、リリン」

「ん!転がしに来た!!」


「で、ソクトさん達と出会って色々話を聞いた所……この街が滅亡寸前だという事に気がつきまして」

「クマがいたし、危ない所だった!」


「で、人命がかかってる事態ですので、鏡銀騎士団宛てに手紙を出し、事態の収拾を図ったんですが……。僕の推理では、このエルダーリヴァー滅亡未遂事件と、澪様の鏡銀騎士団詐称事件は別モノではありません」

「……そうなの?」


「そうなんだよ。という事で、これからは難しい話だからクッキーでも食べてな」

「分かった」



 優しく邪魔ものを排除し、ワルトナはいよいよ本題に入る。

 今回の事件のあらすじ――答え合わせを開始するのだ。



「この事件の概要から説明すると……


 ステップ1『エルダーリヴァーの結界を破壊し、シケンシ森に高位生物を流入させる』


 ステップ2『その情報を隣町に流し、自衛のために街を封鎖させる。これにより、逃げ場を失ったエルダーリヴァー市民は壊滅する事になる』


 ステップ3『自分の部下の貴族、髭ダルマが鏡銀騎士団と共に、シケンシの森の危険生物を駆除』


 ステップ4『これと同時に隣町の有力者を殺し、世代交代を促す』


 ステップ5『その席に髭ダルマを座らせ、傀儡のできあがり』


 こんな感じになるはずだね」



 ワルトナの説明を聞き、ソクトとナキは息を飲む。

 一方、澪騎士側の人間は頷いただけだった。その話を聞いて自分が置かれている状況と齟齬がないと納得したのだ。


 そして、リリンサはクッキー片手に紅茶を飲んでいる。



「そして、今回の事件の鍵をなるのが……そこにいる彼女だ。シスターヤミィール、前に出てくれるかい?」

「はい、分かりました……」


「さぁ、キミ達の街の命運を決める話をするよ。キミ達もこっちに来ておくれ、熟練新人冒険者のみなさん」


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