第47話「鏡銀騎士団?」
「お願い申し上げたい事がございます。この条件さえ飲んでいただければ、先程の報酬で構いません」
「なんだ?申してみよ」
ソクトは、熟練新人冒険者の代表として名乗りを上げ、ビヨンビアドの前に跪いた。
その後ろではナキとモンゼも控え、さらに後ろには、ぎこちない表情の少年少女達が続く。
今から行われるのは、ワルトナがノリノリで総仕上げを始めると宣言し、立てた計画。
その最終章第一幕、『偉そうなあの髭をブチ転がす!』だ。
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苛立つソクトを巧みにコントロールしつつ、ワルトナは策謀を開始。
まず初めにとワルトナとリリンサが話した内容は、ソクト達を驚愕させた。
それは、色々と言葉を選んでの説明だったが、要約すればたったの一言。
「ん!アレは鏡銀騎士団を語るニセモノっぽい!でも、後ろの二人は本物!!」
リリンサの言葉にワルトナは「ちょっと違うけど……まぁ、正式な団員じゃないはずさ」と肯定。
そして、
「あの髭はたぶん、悪さをして澪様に目を付けられているんだろうねぇ」
「ビヨビヨ髭があんな事を言ってるのに、澪が何も言わないのはおかしい!たぶん、決定的な犯罪をするのを待ってるんだと思う!」
「で、罪が確定したら、ドーン。澪様のお仕置きとか……ははっ。マジで笑えない」
「澪は、怒る時はしっかり怒る!めちゃくちゃ怒る!こわい!!」
50mのドラゴンをブチ転がせる少女達が恐れるという、”澪”なる人物。
ソクト達はその正体を聞かされていないが、ある程度は察している。
その脳裏には、『人類の希望・澪騎士・ゼットゼロ』という人名が浮かび上がっているのだ。
「なるほど、大体の事情は察した。それで私達は何をすればいい?」
「あぁ、その前に、問題点を明確にしておこう」
「問題点?」
「今回の事件の裏側に居るのは、暗劇部員の指導聖母。……で、問題はあの髭がソイツと繋がっている可能性だ」
「なに?あの髭はたまたま来たんじゃないのか?」
「あの髭は隣町の領主の一族で、領地拡大を狙っているって噂があるのさ」
「なんだと!?というか、隣町の人間だってどこで見分けたんだ?」
「良く見てごらん、鏡銀鎧の胸に家紋が彫られてるよね。……あと髭」
ワルトナが指差した鎧を一同が確認すると、馬を模した家紋が彫り込まれていた。
それを見たリリンサは「……魚じゃない。雑魚のくせに」と呟き、ワルトナは「しょうがないから、横に破滅鹿の角でも差してやりな」と笑顔で答えている。
「良くある話でさ。指導聖母に唆されて隣町を襲撃し、どちらの兵力も疲弊した所で漁夫の利を得るとかね。今回のケースだと、危険生物によって壊滅したエルダーリヴァーを実効支配する受け皿として、隣町を使っているんだと思うよ」
「くっ、大掛かりだな」
「んで、あの髭を様子見に来させたと」
「だが、あの髭はランク4だぞ?あんな髭のくせに」
「あんな髭を見れば分かるように、アレは決して強くない。実は、レベルを効率よく上げる方法ってあるんだよ。僕らがキミ達にしたようにね」
髭というフレーズが飛び交っているが、議題は至って真面目なものだ。
ワルトナが説明した事を纏めると、『あの髭は鏡銀騎士団の一員という肩書きが欲しいが為にその地位を金で買い、調子に乗っている』だ。
「レベルという物は、実は、ある程度まではお金で買える」
「なんだって!?」
「レベルってのは経験だ。そして、効率よくレベルを上げる為には未知の経験をするのが良いんだけど、それってお金を払えば体験できるよね?例えば……お金を払って演劇を見る。これだって経験でありレベルに貢献する」
「確かにそうだな。なるほど……で、熟練の従者を引き連れて冒険者ごっこか」
「そういうこと。普通の人が見れない魔導書や戦闘技術を間近で見る事でレベルは上がり易くなるんだよ」
「あぁ、体感したから知ってるぞ」
「ちなみに、あの後ろに控えてるカンジャートという男は見た目通りに強いから雇われ冒険者だろうね。なお、レベルってのは4万代で急激に上がらなくなり、ほとんどの人はランク5に到達できない」
「その話も聞いた事があるな。ランク5を超える冒険者はドラゴンだと思え!ってやつだな」
「実際はドラゴンなんかよりも数倍厄介だけどね」
「同意だな。さ、話を続けてくれ」
「で、鏡銀騎士団はそういった格を付けたい貴族を受け入れている。割とまともな理由『貴族に危険生物の強さを知って貰えば、より多くの人民の命を救える』って名目でね」
その言葉を聞いて、ソクトは深く頷いた。
連鎖猪と同じくらいの強さだと胸を張っていた一昨日までの自分を、色んな意味で殴りたいと思っているのだ。
あんな間違った知識で対処をすれば致命的だと思い、背筋を正す。
「で、あの髭は運よくレベリングに成功して調子に乗った。ランク4なんて場合によっては崇拝されるレベルだからね」
「私達も何も知らずに出会ったら、そうしただろうな」
「澪様が見ていて即処分されてないって事は、大した悪事を働いてないねぇ。でも、見過ごす事は出来ない。あの髭がしてるのはそんなとこかな」
「ワルトナ君とリリンサ君の手柄を横取りにしようとしていたし、信憑性は高そうだ。それで、私達は何をすればいい?」
「あの髭を馬鹿にしまくってきて」
「はい?」
「怒らせて僕らに危害を加えるように仕向けておくれ。キミらの安全は僕らが保証する」
「それなら簡単だが……。澪様ってのに私達が怒られたりしないよな?」
「澪様は僕らの顔を見た瞬間。あ。って表情をしたから大丈夫さ」
ビヨンビアドの後ろに立つ女性二人は、特に会話をするでもなく黙って立っている。
だが、二人は第九識天使で念話をして、事態の進展を待っていた。
そして、リリンサとワルトナはそれを見抜いている。
「怒らせて剣を抜かせれてくれれば後は僕がやるよ。さ、ソクトさん、やって来て」
「分かった。……人を騙すって、結構ワクワクするな」
今まで散々騙されてきたソクトは、仕掛け人になれた事に喜びを感じた。
なお、仕掛け人二回目なシルストーク達は、若干、胃がキリキリしている。
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「私がお願いしたき事とは……。その髭を剃って欲しいのです!」
「……は?」
「さっきからビヨンビヨンしてる髭が気になって気になって。……このままだと戦闘に支障が出るので、どうかお願いします!」
「ふ、ふざけるな!我が『サーフェイホース家』の伝統を愚弄する気かッ!」
「伝統ですか?ちなみに、毎朝のお手入れには、どれほどのお時間を?」
「一時間ほどだッ!」
「……やはり、剃った方がよろしいかと」
ソクトはチームリーダーであり、計算が得意だ。
そして、その頭脳が導き出した答えは……。
「一年で365時間、15日も髭に費やすとか馬鹿なのか?」だ。
呆れたソクトだが、本来の目的は達成している。
茹であがったタコのように顔を赤くしたビヨンビアドは、速攻で剣を抜いた。
「この者らを捕らえよ!こ奴らは鏡銀騎士団に泥を塗る、不届き物ぞッ!」
その声を聞いたクロスマンも剣を抜き、カンジャートも渋い顔で剣を抜く。
だが、ソクトはひるまなかった。
今更、剣がどうした!
連鎖猪の角の方が100倍怖いわっ!っと鼻息を荒げて睨みかえす。
「ぐぬぬ……。カンジャート!こ奴らを斬り伏せろ!」
「はっ!お断りします!」
「よし、やれ!……え?」
「は!お断りします!死にたくないので!!」
「え?え?何を言うておるのだ!?こ奴らを斬り伏せよ!」
「はっ!状況を見抜ける賢さを身につけろ、髭ダルマぁ!!」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
「……良い蹴りだった!」
それは、裏切りという名の、蹴り。
蹴られたビヨンビアドやクロスマンは勿論、対面しているソクトや、おもしろげに事態を見ていたワルトナまでもが驚きの声を上げる。
なお、リリンサはちょっとご機嫌になった。