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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第45話「終息への暗躍」

 

「ワルトナとリリンサ、ただいま戻りましたー」

「ん!見ての通り、ドラゴンをブチ転がしてきた!」



 空からゆっくりと歩いて帰って来たリリンサとワルトナは、土の上で正座して空を見上げている謎の一団へと気さくに話しかけた。

 その熟練新人冒険者集団の代表者たるソクトは、錆ついた頭を必死に動かし、ぎこちない笑顔を咲かせる。


 そして、それはそれは酷い表情で、荘厳に語り出した。



「一つ、心の底から聞きたい事があるんだが、聞いても良いだろうか?」

「いいよー」


「キミ達は……本当に人間かッッッッ!?!?」

「少なくとも、稚魚ではないねぇ」


「稚魚じゃナイだろうともッッ!!私にはワカルンダゾ!!き、キミ達は……悪魔だろうッ!!」

「悪魔ねぇ。聖女を目指している僕をよりにもよって、悪魔呼ばわりねぇ……」



 必死に叫び散らすソクトと、その後ろで天に祈りを捧げている5人の取り巻き。

 その全ての人物の目に涙が光っており、受け入れがたい光景を自分の分かる範囲で理解しようとしているのが見て取れる。


 そして、ちょっとだけ苛立ったワルトナが「どうコイツらをイジメてやろうか」と考えている隙に、横にいたリリンサが口を開いた。



「むぅ、そんな話はどうでもいい。お腹が減ったからごはんにしよう」

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」


「むぅぅ、ワルトナー、ごはんー」

「……ほら、小悪魔リリンちゃんがごはんをご所望だよ。この小悪魔は角と尻尾の代わりに、乳歯と胃袋が発達したタイプの小悪魔だ。餌食にされたくなかったら、さっさと準備しなッッ!!」


「「「「「「は、ハイッ!!」」」」」」



 **********



「それにしても、さっきの魔法は凄かったわね。……空を覆い尽くす魔法陣とか、初めて見たわ」

「もぐも、もももふのもふふふぁ」

「おい、小悪魔ハムスター。行儀が悪いから口の中のもん飲み込んでから喋りな」



 祝勝会というには戦々恐々としながら始まった食事会も、食べ始めて10分も経てば和やかな雰囲気となった。

 連鎖猪の肉から溢れ出る旨みが場の空気をトロけさせ、絶望と畏怖を溶かしたのだ。


 そうなれば、好奇心旺盛なナキが口を閉じている訳がない。

 魔導師として供えている貪欲な知識欲をフル活用し、リリンサとワルトナへの質問攻めが始まったのだ。



「あの魔法は、雷人王の掌という、私が尊敬する英雄ホーライの切り札!」

「ホーライって、あの小説の主人公よね?」


「そう!稚魚の先祖たる英雄ワルダーが登場する6巻でも、二度ほど使用されている!!」

「……。つまり、本で語られる様な魔法を使いやがったのね。ふふ、すごいわ、リリンサ!」


「ん!存分に褒めて欲しい!!」


「……たぶん褒められてないねぇー。あーお肉がおいしー」



 適当に話を流しながら、ワルトナはこれからについて考えていた。

 大体の筋書きは終えたとはいえ、ここからミスを続ければご破算もありえるからだ。



 なかなか順調だねぇ。

 結界は塞ぎ、もともと目撃情報のあった赤いドラゴンは討伐した。

 それらは関係ない事だったけど、どっちみち放っておく事は出来ないからこれでいい。


 森に侵入した危険生物も、ソクトやシルストーク達に任せておけば大丈夫だろう。

 おっと、第九守護天使だけは教えて、防御面は万全にしておかないとね。


 で、残っている問題は、シスターヤミィール関係か。

 一連の結界破壊騒動に暗劇部員が関わっているのは確定。

 これだけ大掛かりなんだし、指導聖母クラスの指揮があったと見るべきだろう。


 ここで重要なのが、シスターヤミィールの立ち位置だ。

 このエルダーリヴァーを納めていたシスターヤミィールは、襲撃されたのか(・・・・・・・)

 それとも……襲撃を自演して、危険生物を解き放とうとしたのか。


 まぁ、そのどちらだったとしても、僕が目指すべき結果は一緒。

『エルダーリヴァーを、この僕の支配下に置く』。ただこれだけさ。




「さて、そこの肉を自棄食いしている稚魚共、ちょっといいかい?」

「悪魔の囁きか?」

「悪魔契約でしょうね。おぉ、邪神よぉぉ~」


「……いい加減にしないと千刻竜と添い寝させるぞ。真面目に話を聞きな!」

「「スミマセンデシタッ!!」」


「いいかい、事態の山場は越えたように見えるし、実際にそうだけど……山場ってのは一つとは限らない」

「どういう事だい?」


「シスターヤミィールを問い詰めて、事情を聞くまでは安心できないって事さ。もし仮に、シスターヤミィールがこの事件を起こしていた場合、同じ事が何度も起こる可能性があるしね」

「それはさっきも聞いたが……。ヤミィールはそんな事をする奴じゃない」


「なら、被害者でもいい。とにかく、結界を壊そうとした何者を突き止めそれを取り除かない限り、エルダーリヴァーに平和は訪れない。分かるね?」



 語尾を強めての説明に、ソクトは唾を飲み込んだ。

 その横ではリリンサもどんどん肉を飲み込んでゆくが、ワルトナは見ないようにしている。



「ワルトナ君、私は何をすればいい?」

「じゃ、シスターヤミィールを口説いて、堕、と、し、て!」


「んぐぅ!?ご、げほげほっ!!……な、なんだってッ!?!?」

「おや?好きなんじゃないのかい?彼女の事が」


「そ、それは……」

「なら丁度いいじゃないか。好きな女の子と添い遂げて、街の平和も守られる。幸せだねぇ、有頂天だねぇ」



 いきなり話が繋がらない事を言われたソクトは、目を白黒させ、肉を喉に詰まらせた。

 平静を保つために食事を続けながらの会話だったのだが、それが仇となる。


 なお、ワルトナは喉に詰まり易いようにタイミングを見計らって話をしている。



「それとこれとは関係ないだろう!」

「関係あるんだよねぇ。今回の話の肝は、『この街からシスターヤミィールが排除される』という、その一点に帰結するんだ」


「なに?」

「誰かに攻撃されたにしろ、自分で仕掛けたにしろ、敵側の思惑が上手く行ったらシスターヤミィールはこの街からいなくなる。それは分かるかい?」


「あ、あぁ」

「つまり相手にとって、シスターヤミールがこの街に居るのが一番最悪な結果なのさ」


「そうか!ヤミィールがこの街を裏から支配していたというのなら、敵の狙いはその椅子を奪う事ということだな!?」

「そういうこと」



 うんうん、理解が早いねぇ。っとワルトナは頬笑み、さらに話を続ける。

 背後から聞こえ始めた足音が、ここに到着する前に話を終えなくてはならないからだ。



「つまり、シスターヤミィールをこの街に居付かせるために、家庭を気づいて、家でも立てちゃえば?ってこと」

「なるほど……だが……。少し時間を貰えないか?」


「時間なんてないよ。実はね、シスターヤミィールをここに連れて来るように手紙に書いておいたんだ。だから直ぐに来るはずさ」

「いや、流石にそれは無理ってもんだろう!アイツは最近じゃ、ベッドから立つのでさえ苦労しているんだぞ!?」


「いっただろう、凄腕の医者を呼んであるってね。その医者は、通称『カミさま』なんて呼ばれてる凄い奴。治療は既に終わってるだろうね」

「治療が終わっていたとしても、失った体力は直ぐには戻らない。それに、ここから街までどんなに急いでも10時間は掛る。手紙を出したのはいつなんだ?」


「今日の朝7時って所だねぇ」

「なら、速くても今日の夕方だろう」



 真っ当な冒険者知識があり、自分の庭とも呼べるシケンシの森を走破する時間をソクトが見誤るはずがない。

 ましてや、今の森は危険動物の巣窟だ。

 時間が延びる事はあっても、速くなる事は無いと胸を張って答えている。


 だが、その耳に、重金属が触れる音が届いた。

 ザッ、ザッ、ザッ……っと、規則的に響く音は、まさしく足音。

 それを理解したソクトは振り返り、街がある方向の森の奥に光る銀色を目で捉えた。



「来たようだねぇ……。お?マジか」

「ん!みふぉふぁいふ!」



 白銀甲冑を着た5人と、普通の冒険者の格好をした2人。

 合わせて7人の集団は、一直線にソクト達を目指して歩いて来た。

 先頭にはカイゼル髭を生やした偉そうな男。

 その両脇に従者めいた甲冑の男が二人並び、さらに後ろに白銀甲冑を着た女と、甲冑を着ているものの普段着に近い格好をした女。


 そして……。



「ヤミィルッ!」

「……あ、あぁ……。ソクト……」



 大柄の冒険者に背負われている聖職者めいた女性が、ソクト達の無事を知り、ポロリと涙をこぼした。


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