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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第43話「ドラゴンブレイク⑤千の刻を生きし竜」

「グガガガガ!食ッテヤル、食ッテヤルガ……。食イゴタエ、ナサソウダナァ」



 高らかに笑った千刻竜は、小さき獲物を見据えて本音を吐いた。


 ドラゴンはグルメである。

 危険物図鑑にこそ記載されてはいないが、それは有名な話だ。

 生態系の頂点に立つが故に、どんな獲物を獲る事も自由自在。

 肉が美味とされている連鎖猪などは、捕獲され空輸されている目撃情報が相次いでいる。


 しかし、ドラゴンは雑食性である。

 肉を好んで食べるが、草や魚を食べない訳ではない。

 単純に、質量のある肉を食べた方が腹が膨れやすいという事であり、そういった意味では、人間が狙われる事は少ないのだ。


 だが、ドラゴンには古くからの戒律があった。

『戦闘して殺した獲物は原則として、捕食しなければならない。』

 それは、『古と絶望を知りし古竜達』より語り告げられてきた戒律であり、『食を冒涜する者は、絶対なる捕食者がやってきて食われてしまう。マジ怖い』などと口を揃えて語る。


 そんな理由から、千刻竜も食ってやると宣言した訳だが、内心では、食いごたえ以前に燃えて無くなるだろうなーと思っている。



「ワルトナ。あのドラゴン喋るけど、どうする?」

「……殺る方向で」


「一応、理由を聞きたい」

「一つ、まだ攻撃した訳じゃないのに、僕らを殺すと口にした。二つ、50m級のドラゴンを放っておく事は出来ない」


「勝てそう?」

「三つ、たぶん勝てる。いいかい、アレは空を飛ぶ人間を初めて見たと言った。なら、高位の魔導師に出会っていない。転じて、戦闘経験が無いという事になる」


「でも、遠距離攻撃が得意な魔導師と戦っている可能性は?レベル99999だけど」

「それこそないね。遠くからドラゴンに攻撃できる魔導師がいたのなら、あのドラゴンはここには居ないよ。死んでるさ」


「分かった。容赦なく……ぶちのめす!」



 そう言って、リリンサは空を駆け始めた。

 見えない足場を作りながらの全力疾走、それは地上を走るよりも格段に速い。


 僅かな凹凸がある地面と違い、魔法で作った足場は完全に平らであり、どれだけ強く踏み込もうと陥没する事が無い。

 故に、リリンサは纏っているバッファ『瞬界加速』の効果を最大に引き出し、全力で掛ける事が出来るのだ。


 そして、それに千刻竜は面喰らった。

 リリンサの動きを目で追えず「ナニッ!?」っと驚きの声を上げ、僅かに頭を後退させる。



「反応が鈍いと思う!《対滅精霊八式エーテルダウンエイト!》」



対滅精霊八式エーテルダウンエイト

 それは、リリンサが得意とする近接戦用の撃滅魔法。

 ランク5であるこの魔法は、持っている魔導杖に『受けた衝撃を増幅し、爆撃として放出する』という効果を8回付与するもの。

 つまり、リリンサが持つ星丈ールナは、触れれば爆発する恐ろしき兵器へと変貌したのだ。


 リリンサは千刻竜の目の前に到着し、瞬きの間に心無き爆撃が振るわれた。

 バッファで強化された力とスピードを乗せた渾身の八連撃は、全て、千刻竜の顔の先端に突き刺ささり、鼻の穴を駆け抜けた爆風によって悶絶。

 身をよじりながら後退してゆく。



「グギャアア!?ガハッガハッ!!」

「死止め損ねた?なるほど、身体は丈夫だという事!」



 やる気に満ちているリリンサとて、千刻竜を侮っている訳ではない。

 むしろ長期戦をすれば競り負ける可能性を考え、鼻の穴から脳を直接狙うという、短期決戦を仕掛けたのだ。


 だが、対滅精霊八式というランク5程度の魔法では、かすり傷一つ負わせられなかった。

 魔法の選択を誤ったというその事実は揺るがない。



「ガハ…。オノレ、角モ、翼モ、尾モナイ、小動物フゼイガァァァァ!!《竜砲ドラゴォォンブラストッ!!》」



 先制攻撃を許してしまった千刻竜は、激昂した。

 格下たる人間に苦痛を与えられた事は耐えがたい屈辱であり、竜としての矜持が怒りを露わにさせたのだ。


 怒りの咆哮と共に、千刻竜の3対6枚の翼が展開され、大空を埋め尽くしてゆく。

 それは、ドラゴンが持つ広域殲滅兵器。

 翼は、その一枚が体表を覆える程の大きさであり、薄らと発光している。

 内部の血管が魔法陣の役割を果たし、それに太陽光を透過させることで起動、詠唱無しでランク7以上の魔法の発動を可能とするのだ。


 千刻竜の翼は6対12枚。

 その最上段の一際大きい左右の翼を広げ、リリンサが居た一帯を吹き飛ばそうと魔力を溢れさせ――、そこに影が落ちた。



「撃たせるわけないんだよねぇ《かの英氷を解き放たん――発動、白き極冠(アイスポラ―ル)》」



 ワルトナが短い詠唱を唱えて発動させたのは、ランク8の魔法『白き極冠』。

 指定した空間を凝結させ、巨大な氷塊を作成する魔法だ。


 突如頭上に出現した氷塊により太陽光は遮られ、千刻竜の翼は魔法を発動するタイミングを見失った。

 完全に太陽光を遮断した訳ではなく不発にはならないが、それでも、一呼吸の時間を稼ぐ事に成功したのだ。



「ん!ワルトナ!!」

「分かってる!《空間認識転移テレポスフィア》」


「一気にいく!《十重奏魔法連(デクテットマジック)導雷針ライトニングロード!》」



 千刻竜の上にある氷塊のさらに上空。

そこに転移したリリンサは、真下にある目標に向かってランク7の『導雷針』を放った。

 そしてその十連撃は、僅かにタイミングをずらして、ワルトナが作った氷塊を打ち砕いて行く。


 この魔法は、高所から低い位置にいる対象物へ落雷させる魔法だ。

 攻撃の指向性が限定的な分、破壊力は高く、直撃を受けた生物の大抵は死に至る。

 だが、高い絶縁性を誇る竜の鱗とは相性が悪く、致命傷になりえない。


 だからこそ、リリンサは白き極冠を砕いたのだ。

 巨大な氷塊だったそれは爆散し、それ目がけ、導雷針が無数に分岐。

 80mの巨体を覆い尽くす程の散弾を纏う落雷が、広げられていた千刻竜の翼を蹂躙し、複数の穴を穿ってゆく。



「ドラゴンの翼って光を通す性質上、薄くて脆いんだよねぇ。自分の体なのに知らなかったのかな?千刻竜さん?」

「これで、広域殲滅魔法は封じた。後はトドメを差すだけ」



 目視できる位置へ転移する魔法『空間認識転移』を使って、ワルトナの横に帰って来たリリンサは満足げだ。

 昔、師匠シーラインとこの森の奥に入った時に見た光景をなぞらえて、ドラゴンの無効化に成功したと思っているのだ。


 だが……。



「……《魂ノ治癒力(ドラゴンリカバリー)》」

「ん!!」

「ちっ、回復できんのか」


「デキルゾ。デキル。一匹デノ逃亡ノタビ。コレシキノ事デ、オチヨウモノカ」



 傷ついた翼は強く発行し、流れていた血が止まった。

 穿たれた穴こそまだ塞がっていないものの、それは次第に小さくなりつつある。

 それを見たワルトナは念話でリリンサに語り掛けた。



『リリン、僕の見立てじゃ、15分くらいで元通りになる』

『なるほど、15分後には私達の優位性は失われるということ』


『あぁ。そして、そうなったら僕達は敗走さ。油断してない99999ドラゴンなんて真っ向から戦うのは避けたいし』

『ん、逃げた後はどうするの?さっきの発動し掛けた翼の魔法、たぶん、ランク8以上だと思う。街に向けられたら壊滅する』


『強きドラゴンは町を壊滅させる力を持っているが、同時に、人間の怖さを知っているから街を襲わない。だが……』

『アイツが言った、逃亡の旅ってのが気になるよね、何をしたと思う?』


『たぶん、ドラゴン同士の争いだろうね。アイツは負けて追い出され、ヤサグレてる不良ドラゴンだ。何をしでかすか分かったもんじゃない』

『敗走したら街が危険だと思う。何か策があるの?』


『増援依頼を鏡銀騎士団に出してるから、それに期待してる』

『ん!みおがいればあんなの瞬殺!!50匹いても問題にならない!!』


『いるかどうか分からないし、もしいた場合、敗走した僕らは「まだまだだな」って、笑われるけどね』

『むぅ、それは避けたい。だから、ランク9の魔法を使いたいと思う!』


『賛成だ。ここからは攻守交替。僕が時間を稼ぐから、キミは……「雷人王の掌(ゼウスケラノス)」の詠唱をしておいておくれ』

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