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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第42話「ドラゴンブレイク④千の刻を生きし竜」

 

「せ、千刻竜……?それって確か……。モンゼ、図鑑を調べてくれないか……?」

「もう調べてありますよ。あぁ、見たくなかったと、後悔しておりますがね」



 ソクトがモンゼへ図鑑を調べるように促したその心境はとても複雑だ。

 千刻竜という名に見覚えがあり、図鑑にどんな事が書かれているのか、薄らと覚えているからだ。


 冒険者としては、自分の知識が正しいに越した事はない。

 だが、この時ばかりは間違っていてくれと思い、祈りを捧げるような視線をモンゼへと向けた。

 だが、その目に映ったのは……。肯定の頷き。

 それを見たソクトの瞳からは生気が失われ、力なく地面に座り込んだ。



「兄ちゃん!?今度はなんなの!?このパターン慣れてきちゃったんだけど!!」

「ははは、子供は無邪気でいいな、シル。私はもう疲れたよ……」


「またそういう事って、驚かそうとしてもダメだからね!どうせ、リリンサとワルトナが直ぐにやっつけるよ」

「そう思いたいが……。実際の所どうなんだい?ワルトナ君?」



『強敵出現』→『錯乱』→『生還』→『強敵出現』の理不尽ループを何度も繰り返したシルストーク達は、「またかよ!?」と騒ぎ始めている。

 段々とノリツッコミをしている気分になりつつある子供達は、空を悠々と飛んでいるドラゴンも直ぐに倒されるだろうと思っているのだ。


 だが、今までにない変化があった。

 ワルトナが肩をすくめて笑い、「場合によっては逃げるよ」と言い出したのだ。



「えっ、逃げるのワルトナ!」

「うん、場合によってはね。ドグマドレイクと違い、千刻竜はガチで危険なんだ。僕らが戦っても負けるかもしれない」


「そ、そんなに!?」

「そう、ほら、とりあえず図鑑を見てみなよ」



 そう言って差し出された危険動物図鑑のページは、ほぼ巻末。

 ページの背景自体が赤く印刷されているこの数ページは、ランクS以上の生物が羅列されている危険地帯だ。



千刻竜せんこくりゅう

 *動物界

 *脊椎動物亜門

 *爬虫類網

 *大型竜科

 *巨竜族

 *長命種


 全長40mを超える二足歩行型の大型竜。

 この種の寿命はとてつもなく長いとされ、数百年越しに、同個体と思われる千刻竜の目撃情報が出る事もある。


 長き時を生き抜くというのは、それだけ秀でているという事の証明であるが、この千刻竜ほど特出するべき生態を記せない生物はいない。

 それは、警戒するべき能力がないという事ではなく、あらゆる非凡な才能を持つが故に、個体によって生態と戦闘方法がまったく異なるからである。


 炎を極めた個体は、一吐きで樹界を焼き尽くし、雷を極めし個体は、空を覆い尽くす雷嵐を呼ぶ。

 それに比例した戦闘力は言葉で表す事は出来ないが、千刻竜が起こしたと思われる実例を挙げるのならば、


『2000万平方kmの森が焼失した』

『10万人が住む街が抉り潰され、一部、水没した』

『禁域指定されている森に住み付き、危険生物を追い出して、20を超える都市と街を損壊させた』


 など、多岐に及ぶ。


 ※戦闘能力については、それこそ、ここに記す意味がない。

 そもそも、千刻竜と出会って生き残れる事が少ないので、知った所で無駄である。


 危険生物としての脅威度は『SSS』クラス。

 速やかに人生を振り返り、新たな生へ祈りを捧げるべし。



「なにこれ……『20を超える街を滅ぼした』とか書いてあるんだけど……」

「書いてあるねぇ。千刻竜はさ、まぁ、ドラゴンの中でも別格な訳だよ。身体もでかい上に、どんな魔法を覚えているか分からない。しかも賢いと来た」


「何でそんなのがいるんだよ……。さっきのドラゴンが結界に詰まったって事は、あのドラゴンは通れないだろ」

「結界の奥から来たわけじゃないからさ。千刻竜は定期的に縄張りを変える。で、良さそうな所を探していたら、いい感じの森を見つけた。だが、結界があって入れない。さぁ、どうしよう。こんな感じだと思うねぇ」


「たまたま来たっていうのかよ!?」

「それは微妙。結界があったら入れないのが分かってるから、普通はどこか別の所に行くんだ。だけど困った事に、ここのは壊れかけていた。だから通れるようになるまで待っていたんだろう」


「あんなのが隠れてたっていうの……?」

「もともと赤いドラゴンの目撃情報がチラチラ出てて、僕に依頼が届いていたんだよ。こんな幼女にドラゴンを探せって要求するとか、不安定機構も極悪だよねぇ」



 リリンサとワルトナがエルダーリヴァーの手前の街に寄った時、不安定機構から直接依頼が渡されていた。

 それは『赤いドラゴンの目撃が相次いでいるから、その原因を突き止めて欲しい』というものだ。


 不安定機構からの指名依頼――『勅令書』は断る事は許されず、ワルトナも当然引き受ける事となる。

 一応、その勅令書に記されていたのは原因の調査までであるが、『原因は千刻竜でした』と報告した所で、その内容が『討伐』に変わるだけである。


 ならばここで一度戦闘をし、千刻竜の戦闘力を把握した方が良いとワルトナは判断したのだ。



「まぁ、やるだけやってみるさ。アイツは隠れるのが得意っぽいし、見失ったら面倒だからね。リリン」

「ん、本気出す」


「シルストーク達には第九守護天使が掛っているが、攻撃されたら破壊されるかもしれない。僕らは空で戦うよ」

「分かった。所で、アレは倒しちゃってもいいんだよね?」


「いいよ。もっとも……そう上手く行くかどうかは分からないね。50mクラスの大物だし、レベルだってカンスト(99999)。はっきし言って逃げるべき相手な訳だが」

「結界を修復する所を見られたし、逃げても追って来ると思う」


「分かってるじゃないか。さ、そろそろ相手も痺れを切らす頃だ。行くよ《二重魔法連デュオマジック空間認識転移テレポスフィア》」



 そう言って、リリンサとワルトナは目の前に出来た魔法陣へ飛び込む。

 それが繋がっている先は……遥か上空、高度200mだ。



 **********



「……近くで見るとでかいねぇ」

「うん、とても大きい」



 地上から見上げるソクト達よりも遥か高みへと転移してきたリリンサとワルトナは、飛行脚で足場を作って降り立った。

 そこは、360度、遮るものが無いどこまでも続く世界。


 だが、そうなるはずの視界が捉えているのは、赤銅の竜鱗と、はばたく6対の翼。

 腕も足も太く、その先端の爪は僅かに光り輝いている。


 そして、リリンサ達よりもさらに高みから睥睨していた鋭い眼光が、二人の姿を捕らえた。

 それを知りつつも、ワルトナは恐れもせずに声を出す。



「リリン、レベル99999を相手する際の注意事項は?」

「レベル99999とは戦闘能力の最低保証値であるという事。レベルはあれ以上あがりようが無い。だけど、戦闘力に上限は無く、事実上、レベルという指標が機能していない」


「正解だ。そして、その中で特に危険な生物を見分ける方法は?」

「意思の疎通が取れるかどうか。人間の言葉を理解し、流暢に話す様な生物は例外なくヤバい」


「うん、それも正解。という事で最初は話しかけるとこから始めよう」

「分かった。ちなみに、勝てそうなら勝ちに行くって事でいい?」


「もちろん。アレだけデカイ千刻竜なら、10億エドロは余裕だね」

「ん!たまったストレスを発散したい!!ランク9の魔法でブチ転がす!」



 そんなやる気に満ちたリリンサの声を聞いて、ワルトナはため息を漏らし、心の中で呟いた。



 やれやれ、僕がしっかりしないと足元を掬われかねないねぇ。

 リリンはあぁ言っているが、レベル99999は侮れない。


 なにせ、数百年どころか、数千年生きた化物が混じっている事がある。

 ぱっと見あれは違うぽいけど、それでも、警戒するに超した事はないねぇ。


 ともかく、まずは対話だ。

 人間の言葉で話しかけて、様子を見る。

 一番良いのは、沈黙だ。これなら言葉の意味が伝わっていないから、大したこと無い。

 一番悪いのは、笑みや侮蔑を含んだ嘲笑を投げかけられる事。

 人と会話する事に慣れており、なおかつ人間の事を下に見ているという、かなり危険な状況だ。


 さて、吉と出るか、凶と出るか。

 楽しみだねぇ。



「やぁ、ドラゴンさん、こんな街に何の用かな?」

「……。」


「無視かい?それとも、言葉が分からないのかな?」

「……グガガ………。」


「あぁ、言葉が分からないトカゲだったか。それはよか――」

「グガガガガガガッ!!ニンゲン、ソラニキタニンゲン、ハジメテミタゾ!!」


「ちっ!!」

「弱キモノ、ニンゲン。ソレハ、タダノ”ニク”。我ガソラマデ、ワザワザキタノダ、食ッテヤルゾッ!!」


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