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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第39話「ドラゴンブレイク・戦闘準備」

「ワルトナバレンシアちゃんの、ドラゴン討伐講座~~わー、ぱちぱち」



 ソクト達がドラゴン討伐を懇願した直後、ワルトナの可愛らしい声が響いた。

 まるで邪気のないその声に、リリンサ以外は一斉に押し黙る。

 そしてリリンサは……何かを察し、二人分の博士帽子を取り出して自分とワルトナの頭に乗せた。



「ということで、ただドラゴンを痛めつけるのはもったいないから、討伐の仕方を教えちゃうよ!」

「ん、私達は先生。敬うといい!」

「私達でも、ドラゴンが狩れるというのか……?」



 ナキ達の「任せたわ」という視線を受けて、ソクトが恐る恐る口を開いた。

 だがその視線も、ドラゴンとリリンサとワルトナを行ったり来たりと定まらない。

 しかも、か細く「戦っても殺されるって言ってただろ……」と声を漏らしている。


 しかし、そんな抗議などワルトナが取り合うはずもない。

 ソクト達には、ドラゴンを狩れるくらいの実力を身につけて貰う必要があると思っているからだ。



「狩れるかどうかじゃなく、狩れるようになれって事だよ。なにせ僕らは、この街に残るつもりはない。長く見ても、あと2週間もいないだろうね」

「2週間……。長いようで短い、絶妙な期間だ」


「で、僕はドラゴンを狩れるようなれと言っている訳だけど、この場合の『ドラゴン』とは、『絶対的脅威』という言葉に置き換えられるわけだ」

「なるほど。ドラゴンをパーティーで狩れるくらいにならないと、この街の治安は維持できないと」


「そういうこと。ということで、僕らは今から真っ当にドラゴンと戦うから、それを見て勉強して欲しいんだ。……リリン、前衛職はキミと、後衛職は僕と視野共有をして」

「りょうかい《六重奏魔法連(セクステットマジック)第九識天使ケルヴィム!》」



 温かな感覚に包まれたソクトたちは、すぐに身体に起こった変化に気が付いた。


 通常の視界とは別に、自分を真正面から見る視界が出現。

 それは、リリンサまたはワルトナの見ている景色であり、五感情報や声を発せずに意見交換をする事可能とするランク7の魔法『第九識天使』の効果によるものだ。



「なんだこれは……?」

『第九識天使。他者と自分の語感を繋げ、声に出さなくても会話を可能とする魔法』


「な!頭の中に声が直接聞こえるだと!?」

『この魔法があれば、より複雑な連携が出来るようなる。ナキとエメリーフ、あと器用そうなブルートには特に覚えて欲しい魔法の一つ』


「私には漠然と凄いという事しか分からないが……」

『ナキ達が理解してればそれでいい。なお、私達が効率よく魔法を教えられたのは、この魔法で感覚を共有していたから。この意味が分かる?』



 それを聞いて、魔導師組はリリンサとワルトナを羨望の眼差しで見つめた。

 今から授けられようとしているのは、人知を超えた、何か。

 それを理解しているからこそ、ワルトナが良い笑顔で召喚した物を見ても錯乱せずに済んだ。


 ナキ達は、この短時間で随分と神経が太くなっている。

 ……あるいは、神経が細切れに断裂し、機能していない。



「《サモンウエポン=高位な魔導書たち》……この魔導書群は、僕らがドラゴン退治に使う可能性のある魔法の呪文書だ」

「なによこれ……。どの魔導書も薄すぎる……。と思ったら100ページを超えてそうなのがいくつかあるわ。これは何かしら?」



 ワルトナの声にナキが反応し、積み重なった本の一番上を手に取ろうと手を伸ばす。

 それは茶色い表紙の古びた魔導書。

 一目で見て分かる程に厚く、それに秘められた価値は計り知れない。


 口をパクパクさせているナキを見て満足したワルトナは、ちょっと意地悪を込めて真実を教えた。



「それはね……ランク9の魔導書さ!」

「………。ひぇ。」


「あ、汚さないでね?どんなに安くても、一冊10億エドロはするからね?」

「ひぃぃえぇえええ」



 不用意に手に取ろうとしていたナキは、速攻で手をひっこめて後ずさった。

 そして、ハンカチを取り出してしっかり手を拭いてから、恐る恐る一番上の本に手を掛ける。



「この魔導書一冊、10億エドロ……。み、見てもいいのよね?」

「もちろんさ!」



 ……タダとは言ってないけどね。

 その副音声は、ワルトナの心の中で呟かれており、誰にも聞こえていない。



「魔導師組は僕の視野や感覚を体感しながら魔導書で勉強。前衛組はリリンの視野と動きを見て感覚を掴む。使う武器は魔導杖だけど近接戦闘もするから勉強になるよ」

「ん、しっかり見て欲しい!」



 その声を聞いて、早速、ソクトはしっかりと頷いた。

 その目には、青い顔色で酷い表情の自分が映っている。


 ソクトは、自分ではカッコいいと思っていた己の顔に自信が持てなくなった。



「さ、リリン。そろそろやるかね」

「そうだね。……あ!凄い!!ドラゴンがお肉を手に入れそう!!地面を舌で掘って、お肉を手前に転がした!!賢いと思う!!」



 ぺろぺろぺろぺろ……と必死に地面を掘り、その瞬間が訪れた。

 陥没した地面に向かい肉は転がり、ドグマドレイクの鼻先にぶつかって止まったのだ。


 待ち焦がれ、思い焦がれ、身を焦らした、食事。

 それを噛みしめようと、ドグマドレイクは大きく口を開け――。



「へぇー。すごいすごーい。《極炎殺バーニングデス!》」

「あっ!《幽玄の衝盾(クリアフィルム)!》」



 カッ!!チュドドドドドジュアッッ、チュドドドドドッッ!!

 有爆する空間が、瞬時にその肉を蒸発させてゆく。


 ご丁寧に防御魔法が張られた事により、ドグマドレイクは無傷。

 そして、防御魔法に阻まれ爆風は届かず、だからこそ、その絶望の光景をドグマドレイクはしっかりと見てしまった。



「ギュオアラララララララッッ!?!?」



 パラパラと炭化した肉の破片と匂いが舞い、ドグマドレイクの鼻に届く。

 誇り高きドラゴンの矜持すら捨ててまで手に入れようとした肉の残り香が、ドグマドレイクの心を深く抉り、溢れんばかりの殺気が生まれた。



「ギュッ!!ギュアアアアアアアアアアッッッ!!グルヲッッッグルヲッッッ!!グュグオオオオオッッッ!!」

「おぉ、キレたっぽいねぇ」

「ん、これは流石にキレてもいい。ワルトナは極悪だと思う!!」


「ふふ、褒めるなよー、照れるなぁ」

「褒めてない!」



 怒り狂い、暴れ回り、結界のヒビが加速度的に増えてゆく。

 バキバキと嫌な音を立てて、ドラゴンの胴周りにある結界が崩れ出しているのだ。



「お、やる気になれば脱出できるじゃないか」

「眺めている場合ではないと思う。戦闘準備を開始する!」


「おっけい。僕はバッファ。《多層二重奏魔法連・瞬界加速スピーディー飛行脚フライトステップ次元認識領域トライキュービクルスフィア第九識天使ケルヴィム》」

「なら、私は防御魔法。《多層二重魔法連・幽玄の衝盾(クリアフィルム)閃光の敵対者(ライトエネミー)耐熱断絶壁マテリアルインシュレット第九守護天使セラフィム



 リリンサとワルトナが使った魔法は既に使用しているものも含まれているが、低下している耐久値を回復させる為に改めての発動だ。

 その一連の魔法は、見る者すべてを圧倒した。

 通常であれば認識できないほどの高位な魔法でも、予め五感が共有されていれば理解する事が出来るのだ。


「あぁ、まだ実力を隠してやがったのか。」


 熟練冒険者達は、遠い目で事態を眺めている。

 既に満身創痍だ。



「ん、ドラゴンがこっちに出て来た!」

「出て来たねぇ。おや?思ってたよりも尻尾が長い」



 現れた巨体は、全長35m。

 黄金色と赤褐色が混じり合って輝き、その鱗には傷一つない。

 それはつまり、その鱗は結界以上の強度を誇るという事だ。



「《ギュアラ・ギュグオオオオ!》」



 そして、開始の合図が鳴り響く。

 それはドグマドレイクが得意とする、広範囲殲滅攻撃。『熱雷界大滅ヒートライジング』。

 炸裂する炎と稲妻が、リリンサとワルトナを直撃し――、



「ん。《拡散せよ、星杖―ルナ!》」



 杖を一振りして炎を掻き消したリリンサが、ドグマドレイクの顔めがけて走りだした。

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