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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第35話「熟練新人冒険者①」

 

「ん、森には危険生物がいっぱい。注意して欲しい!」

「「「「「おうッ!」」」」」



 リリンサとワルトナは、それぞれ教え子たちへ装備を渡し、万全の状態で森の奥へと踏み込んだ。

 通常、不慣れな装備を使う事は万全とは言い難いが、それを補って余る程の性能をそれら武器は秘めている。


 ソクトとシルストークは、魔法剣。

 ナキとエメリーフは、魔導杖。

 そして、モンゼとブルートは、魔導手袋だ。


 それぞれが最高品質の魔道具であるが、特に異色を放っているのは手袋だろう。

 しかし、その見慣れない物に困惑を示したモンゼとブルートも、秘められた性能を目の当たりしてみれば、我先にと身に付けた。

 ワルトナが自分用にカスタマイズされた手袋を付け、魔法名を唱えただけで見知らぬ魔法を発動させたからだ。



「見てな。《次空間の抜け穴(ウロボロス・ホール)》。……と、こんな風に簡単に巨岩を消し去れたのは、この手袋には魔法を記憶させておく事が出来るからだ」

「ほう!それは過ごそうですぞ!」


「凄いとも。その手袋は、片方で3つまで魔法を記憶させられる。左右で6種類の魔法が何の苦労もなく使い放題となる訳だね」

「ほほう!!それは便利ですな。もともと拙僧はランクの低い魔法は扱えますが、この手袋に記憶できるのは、ランクいくつまでですかな?」


「ランク7までだねぇ」

「……聞き間違いですかな?ランク7と聞こえましたが?」


「いいや、正真正銘ランク7まで発動できるよ。つまり、キミらはパーティー内で使用できる魔法を局面によって使い分けるオールラウンダーになる訳だ。複数の防御魔法やバッファを両腕に宿してのタンク役。空を飛ぶ敵には遠距離魔法で滅多打ち、とかね」

「ははは。それって、地味な役回りだった拙僧がソクトを抑えて最強となるのでは?」


「いやいや、魔導杖を通していないから精密なコントロールが難しく、高い威力に任せた大ぶりな魔法となってしまう。精密射撃ができる魔導師や、近接戦闘にステータスが偏ってる剣士には、それぞれの舞台では負けてしまう事が多い」

「そうですか。なかなか難しいものですな」


「ただし……、どんな状況でも対応できるタフさがある。接近されても遠ざけられても、苛烈に攻撃を仕掛けられるから、手袋の扱いが熟練したらマジでパーティー最強になるよ!」

「おぉぉぉぉ……!神ッよぉ!」



 そんな説明をしながら進んだ一行の最先端、リリンサとソクトとシルストークは立ち止り、視線を揺れる茂みへと向けている。

 カツッ。カツッ。カツッ。と蹄を鳴らして近づいてきたのは、体高2m、複雑に絡み合った角を含めれば3mを超える巨体だった。

 茶色い毛皮の四足歩行獣を見たリリンサは嬉しそうに頬笑み、そのレベルの高さを見たソクトは息を飲む。


 ――レベル83149――



「ん、アレは破滅鹿ディアーボロスという。大きな鹿」

「ただの鹿じゃないというのは私でも分かるんだが……。どのくらい強いんだ?」


「破滅鹿の角攻撃は一撃必勝。とても危険なので注意するべし!」



 リリンサの雑な説明を聞いて理解する事を諦めたソクトは、先程借りた極雷剣・エルヴスを構えた。

 その横ではシルストークも侵攻なる四葉(インヴェイジョン)を構えている。



「でも、獲物は一匹。私の言う通りにやれば難しくない。まずは後方支援組のバッファを受ける。ワルトナ!」

「おっけい、ナキとエメリーフ、それぞれ防御魔法《幽玄の衝盾(クリアフィルム)》を発動だ」


「分かったわ!《幽玄の衝盾(クリアフィルム)》」

「がんばってシルストーク!《幽玄の衝盾(クリアフィルム)》」



 司令塔たるワルトナから発せられた指示は、前衛職への戦闘支援。

 その最も重要な役割、防御魔法『幽玄の衝盾』だ。

 この魔法はランク4の防御魔法であり、物理耐性特化。

 剣や弓、その他の鈍器や野生動物の角であろうが、物質が存在している物での攻撃ならば一切のダメージを無効化する。


 前衛職の身の安全を確保する事が何よりも優先させる事であり、それを明確にする事がワルトナとリリンサが初めに指導した内容。

 その明確な役割分担は以下の通りだ。


 前衛職は、外敵からの強襲に備えて武器を構え、

 後衛職は、仲間が傷を負わない様に防御を固める。

 そして中衛職たるモンゼとブルートは、敵に関する情報収拾だ。



「あ、ありました、モンゼさん!158ページです!」

「ほう……これは……。強力な危険生物です……」



 開かれたページには、目の前の破滅鹿の情報が記されている。

 それを素早く読み込み、討伐の可否を判定するのが中衛職の最も大事な仕事だ。



破滅鹿ディアーボロス


 *動物界

 *脊椎動物亜門

 *哺乳類網

 *偶蹄目科

 *シカ族

 *骸食種


 体長2m、体高2m(角を含めれば3m)、レベルが60000を超える四足歩行獣。

 一見して草食獣の様であるが、実際は完全な肉食。

 そして、名の由来となっている通り、その食性はおぞましき習性がある。


『まるで、死体が連なる処刑場の様だ』


 数十匹の破滅鹿の群れに遭遇した冒険者の言葉であるそれは、決して偽りなどではない。

 破滅鹿は、殺した獲物を角で突き刺し、天日干しをしてから食する。

 それは肉を腐敗させて柔らかくしているとも、食糧難から逃れるために保存食を作っているとも言われてるが、詳細は不明。


 分かっているのは、その角には瞬時に意識を奪う魔法紋が刻まれており触れてはならず、脅威度Aの生物をも用意に吊るせるほどに戦闘力が高いという事だけだ。

 危険生物としての脅威度は『特A~特B』クラス。


 ※ただし、角に何も吊るされていない場合は空腹状態にある為、危険度は増加します。

 というかそもそも、普通の冒険者が挑んでも吊るされるだけなので、速やかに逃げるべし。



「あの角は意識を刈り取ります、触ってはなりません!」



 危険生物図鑑を読み終えたモンゼは声を張り上げ、素早く情報を周囲へと伝えた。

 そしてそのまま、背負っていた装備と本を地面に下ろし、自身も戦闘態勢へと移行する。



「ん、そのとおり。あの角には意識卒倒の魔法紋が刻まれているから、触れてしまったら一瞬で意識不明に陥り、敗北する」

「リリンサ君!一瞬とはどのくらいなのか分かるか!?」


「一瞬は一瞬。あ、でも、魔法で頭を打ち抜かれた時と同じくらいだと聞いた事がある」

「ははっ!それはとても一瞬だなッ!」



 具体的すぎて逆に良く分からない説明を受けたソクトは、一気に思考を切り替えた。

 剣を強く握り、意識を高めていく。

 リリンサから剣の性能を聞いていようとも、実践で使うのはこれが初めて。

 使い慣れたミドルソードとは何もかも違うその性能は、やはり理不尽なものであり、かなりの緊張がソクトの頬を伝って落ちる。



「リリンサ君、指示を」

「シルストークが陽動、ソクトがトドメを刺す。シルストーク、煙火の剣で敵から感知能力を奪う事に専念して」

「分かった」


「ソクト、剣を伸ばし、3m以上距離を保ったまま倒して。近づきすぎると突撃の餌食にされる。シルストークも同じ!」

「了解した」


「では、それぞれバッファの魔法を使用、強襲!」

「「いくぞ!《瞬界加速!》」」



 二人は同時にバッファの魔法を唱え、一呼吸の時間をずらしシルストークが先行した。

 シルストーク同様、ソクトもバッファの魔法に適正があった。

 リリンサが第九識天使で感覚を共有し、正解の呪文へ導く事で、容易に魔法を覚える事が出来たのだ。


 一直線となって、二人は走る。

 寸分の狂いもなく進む先では、破滅鹿が雄叫びをあげた。

 迫る人間を知覚し、害敵だと認定したのだ。



「《キュィィィィィイ!!》」



 青い閃光が弾け、角に光が灯る。

 それはまるで悪魔が掌を開いてるように見え、並みの冒険者なら怯んで動けなくなるだろう。

 だが、ランク9のクマを爆殺するほどの理不尽を体感したソクトとシルストークは止まらない。



「《煙火の剣ぃ!》」



 ボウっっとシルストークのインヴェイジョンから炎が噴き出し、破滅鹿の鼻先をかすめる。

 自身の経験から、刃が届かないと判断した破滅鹿は最小限の回避に留め、反撃をする為に後ろ脚へと力を込めた瞬間――。

 目の前にいた害敵を見失った。

 振り抜かれた剣に追従している煙が破滅鹿の目と鼻に入り、その機能を奪ったのだ。



「トドメだよ、兄ちゃん!」

「うおぉぉぉ!《奔れ!エルヴスッ!》」



 破滅鹿の眼前、3m。

 斬るにしてはまるで遠い位置で、ソクトは構えていた剣を真横に薙いだ。

 エルヴスの機能を知らぬものが見たら、その行いを誰しもが鼻で笑い、そして誰しもが目を見開く事となる。


 『ラチス構造』と呼ばれる、格子状の伸縮機構。

 それが施されたエルヴスの刀身は伸縮自在であり、1m弱の長さだった刀身には交差模様の亀裂が入り、遠心力に従って伸長してゆく。


 そして、生じた隙間を奔るのは、ランク7の光魔法『青天霹靂カムトキ』。

 速度と最大瞬間威力に重点を置いたその雷剣は、まさに雷鳴のごとく破滅鹿に迫り……。



「喰らえ!極雷剣ッ!!」



 その太い首を、一撃で斬り飛ばした。


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