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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第34話「新たな決意」

「ヤミィールが私達を騙し、この支部を乗っ取ろうとしている……?そんな、馬鹿な……」



 ワルトナから、『不安定機構が認めたシスターとは、暗劇部員という存在であること』、『その組織が行う仕事内容は到底、表立っては出来ないような悪行も含まれるということ』、そして、『こういった事件は頻繁に行われていること』などの説明を受けたソクト。

 その話を真摯に聞き、じっくり考えて出した答えは……否定だった。

 ヤミィールはそんな奴じゃないと、格上たるワルトナに異議を申し立てる。



「そういう事件があるという事は分かった。だが……ヤミィールは違う。アイツは、人を殺せるような奴じゃない」

「へぇ……、でも詐欺師ってのはそういうもんだよ?」


「あぁ、確かに、ヤミィ―ルは黒い所もあるだろう。私だって何度もいたずらを仕掛けられたさ。だが、本当に人が嫌がる事はしない。これは絶対だ」

「そうかいそうかい……。シルストーク!」



 唐突に名前を呼ばれたシルストークは、それでも、しっかりとした足取りで前に出た。

 その瞳には、強い意志が灯っている。



「シスターヤミィールは、キミ達の街を滅ぼそうとした敵だ。そうは思わないかい?」

「思わない。絶対に思わないよ」


「それは何でだい?」

「そんな事をする人じゃないからだ!ヤミィール姉ちゃんは、家で虐められていた俺達を引き取って育ててくれた。飯だって食べさせてくれる。服だって着させてくれる。遊ぶのも、勉強も、イタズラだって、笑って許してくれる。そんな人が皆を困らせるような事をするはずがないんだ!」



 その叫びに、幾つもの意思が頷いている。

 ワルトナとリリンサ以外の全ての人がシルストークの言葉を肯定し、頭を縦に振っているのだ。


 それを見たワルトナは……、やれやれ。と肩をすくめた。

 これはもう一つ、頑張らなくちゃいけないねぇ、と雰囲気を和らげる。



「ごめんごめん。シスターヤミィールの正体を探る為に、あえてキツイ言葉を使ったんだ。謝るよ」

「疑いは晴れたのかい?ワルトナ君」


「あぁ、シスターヤミィール自身は、この事件の首謀者ではない。だが、原因の一つというのは間違いないね」

「どういう事だ?」


「暗劇部員ってさ、7つの派閥に分かれてるんだよ。で、その派閥争いにシスターヤミィールは敗れた。だがら、直轄領ごと消し去られようとしている」

「なんだってッッ!?」



 ついさっき聞いたばかりの闇の組織が、エルダーリヴァーを滅ぼそうとしている。

 言葉にしてみれば一行で済んでしまう事態も、当事者からすれば簡単には受け入れられない。


 重厚な空気が周囲を支配する中、ワルトナは語る。

 それは策謀なんかではなく、純粋にこの街を助ける為の考察だ。



「暗劇部員にはね、指導聖母マザーと呼ばれる7人の指導者がいるんだ」

「指導聖母……?清らかそうなイメージだが……?」


「いいや、それは違うね。


 人の感情を踏みにじる、指導者……『悪性マリグナンシィ

 信仰心すら温床とする、聖職者……『悪典ヴァリアブル

 欲するなら命すら売る、販売者……『悪才アンジニアス

 悪意と善意を攪拌する、策謀者……『悪質マリシャス

 神を恐れず星を見下す、罵倒者……『悪逆アトロシス

 星すら喰らわんとする、強食者……『悪喰プアフード

 子供も親も平等に騙す、簒奪者……『悪徳ヴァナラティ


 これら7人の指導聖母が、僕らの世界を回しているさ!」

「……。どう聞いても悪人しかいないんだがッ!?これのどこが聖母なんだ?」


「あぁ、表向きには、『良性』『聖典』『天才』『資質』『神聖』『豊喰』『仁徳』の文字も持ってるけど……。まぁ、そんな事はどうでもよくて、問題はこの7人は世界を舞台に、熾烈な派閥争いをしているってことなんだ」

「派閥争い……?」


「『悪性』『悪典』『悪才』は指導聖母だけど、残りの四人は”じゅん”・指導聖母で階級が一つ下がるんだ。まぁ、騎士団長と副団長みたいな感じさ」

「なるほど……。出世欲の為に、仲間を蹴落とそうとしているのか……?」


「そうそう。で、どれかに属している暗劇部員・ヤミィールは、この危険な地の管理を任されていたんだろう。ハザードアラートの森が解き放たれれば、それはすなわち『死』だ。危険な仕事だし下っ端だからって押しつけられたんだろうね」



 ヤミィールが命を掛けてこの地を守っていたと聞いて、ソクトは納得し、そして、とても悔しく思った。

 少なからず、いや、恋心を抱く程度には、ソクトはヤミィールの事を理解していると思っていたのだ。


 だが、実際は何も知らされておらず、こんな重い宿命を一人で背負わせてしまっていたと知り、拳を握りしめて悔いている。



「だが、ハザードアラートは危険生物の巣窟で、それはつまり宝の山でもある。たった一日で40匹近くの連鎖猪を倒し、時価総額1億6000万エドロ以上を手にしたキミたちなら分かるね?」

「……あぁ、笑いが止まらな……おほん、真面目な話の途中だったな」


「そんなわけで、シスターヤミィールは事故を装われてヤミサソイに刺され、同時に、暗劇部員としての連絡手段を遮断され薬の入手が不可能になった」

「あれは故意的なものだったのか!?」


「そして、管理がされていない結界に穴を開ければ、あら不思議。エルダーリヴァーは高ランクの危険生物によって壊滅し、その責任は管理を怠ったシスターヤミィールにあるというわけだ。死人に口無しだね!」

「な、なんて、ナンテッ!!酷イ話ナンダァァッッ!!」


「……おい、最後。シリアスムードが台無しなんだけど」



 自分達の街が大規模な謀略に巻き込まれていると知り、ソクト達は憤った。

 特に、ソクトとナキの怒り様は見るからに凄まじく、新人冒険者組も、やり場のない怒りを込めて剣を強く握りしめている。



「……少々いいですかな?」

「モンゼさん?」


「拙僧達の街が危機なのは分かりましたが、あなたはどうも事情に詳しすぎますね?それはどうしてですかな?」

「あぁ、そりゃそうだよ。だって僕、暗劇部員だし」


「「「「「は?」」」」」」



 唐突に自然体で語られたそれは、周囲の冒険者を固まらせるには十分な破壊力だった。

 悪辣に笑うワルトナの表情も相まって、重い空気がさらに重くなってゆく。



「なに……?ワルトナ君も、闇の組織の一員だというのかい?」

「はい。僕は皆を導く聖女様を目指してます!髪とか白いし似合うでしょ!?」


「……。ということは、場合によってはヤミィールと対立するってことか?」

「いえいえ、僕はさっき言った7つの派閥のどれにも属していませんのでご安心を」


「ど、どういうことだ?」

「僕の上司は大教主・ディストロイメアー様で、7人の指導聖母を束ねているお方なんだ。だから僕はどの派閥にも属していない。一応、何かあったら指導聖母・悪才アンジニアスに相談は出来るけど、意味分かんない金額を取られるからあんまりしない」


「……。それはつまり、ワルトナ君の事は信用してもいいという事かな?」

「信用するかどうかはキミ達次第ですよ。だけど、僕は寂しがり屋だから、信用されてないって言われたら直ぐに出て行っちゃうと思います。今すぐにでも」


「いやいやいや!信用するとも!!なぁ、みんな!!」



 そう言ったワルトナの表情は、年相応な少女らしい弱々しいものだった。

 それは演技だと気が付いている一同も、ワルトナやリリンサに去られたらどうなるかなど考えるまでも無く理解している。


 そして、嘘が苦手なリリンサに指導されたシルストークだけは、直ぐには立ち去る気がない事を知っている。



「リリンサ。この街を俺達に守らせる為に、魔法を教えてくれたり、剣を鍛えてくれたりしたんだろ?」

「もちろんそう。いくら私達がドラゴンを退治しても、また結界が破られたら意味がない。その時に危険生物に対応し、再び穴を塞げる人物が必要となる」


「なぁ、それさ、俺達に出来そうか?」

「出来ると思う。筋は悪くないし、ここからは私達の正体を隠す必要もないから本気で教えられる」


「へへっ、じゃあ、教えてくれよ!真頭熊を倒せるようになりたいんだ!」

「分かった。シルストークは私が強くする!熊も稚魚も一刀両断!」



 ちょっと待てくれ!私を一刀両断しないでくれ!!という、ソクトの心からの叫び。

 それを聞いた一同は、誰からともなく笑いだし、朗らかな声が森に広がってゆく。


 わだかまりは、いつの間にか消えていた。

 あるのは、目標を見据えた強い瞳だけだ。



「さてと、じゃあまずは結界の所まで行かないとね。リリン、シルストークとソクトを預けてもいいかい?」

「いい。前衛職は任せて」


「じゃ僕は後衛組とモンゼさんを鍛えるとしよう。っとその前に、装備品を充実させないとね」

「ん。りょうかい」



 その場の後片付けを手早く終えた一同は、森の最奥へと視線を向けた。

 だが、まだ出発はしない。

 ワルトナとリリンサは、結界にたどり着くまでの道のりを使って、新人たちを鍛えるつもりでいるのだ。

 その為には一流の装備が必要だと、それぞれの弟子へ向き直る。



「ん、ソクトは剣でいい?」

「それは、シルが持っているような剣を貸してくれるという事かい?」


「そう。サンダーボールじゃドラゴンを狩るのは流石にキツイ。付与系の魔法剣なら、せめて超高層雷放電ガンマレイバーストくらいは欲しい」

「が、ガンマレイバースト……?ってのは……?」


「こんなの。《超高層雷放電ガンマレイバースト!》」



 それは、何も知らなかったが故の悲劇。

 ちょっとの好奇心と、大量の恐怖が引き起こした質問は、目の前で転がってる超高級素材(真頭熊)を消し去る事になった。


 ズダァァァァン!という、天空から降りし大災害。

 快晴の空には魔法陣の残滓がうっすらと残っており、それは天災ではなく人災だったのだと理解させるには十分だった。



「なんだ今の。クマが爆発炎上したぞ。クマが」

「さっきの雷が超高層雷放電。空から降り注ぐ光速の魔法。ちなみにランクは7!」


「いやいやいやいやいや!?ランク7とか言われても!!」

「これくらいの攻撃力がないと、真頭熊やドラゴンの相手は厳しいという事。ということで、それが出来る装備を譲渡する」


「えっ!?」

「《サモンウエポン=極雷剣・エルヴス!》」


「な、なんだこの……滅茶苦茶カッコイイ長剣は……?まさか、こ、これを私に……?」

「もちろんそう。あなたは電気系の剣を使っていたからこれにした。でも、威力は比べ物にならないと思う!」



 ふんす!と鼻を鳴らし、偉そうに胸を張るリリンサは、召喚した剣を無造作に掴みソクトに差し出している。

 それを恐る恐る手にしたソクトは、しみじみ思った。


 あぁ、本当にこの少女達は理不尽だなぁ。

 こんな凄い剣を躊躇なく貸すなんて、常識知らずもいいとこだ。


 だが、期待には答えなければならない。

 なぜなら私は、ソクト・コントラースト。

 誇り高き英雄の……稚魚だからだッ!!


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