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悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険  作者: 青色の鮫
第2章「新人冒険者とドラゴン」
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第33話「語られた裏側」

「ドラゴンはダメだろう!ドラゴンは!!ドラゴンって知ってるか?ドラゴンなんだぞ!!ドラゴン!!」

「もちろん知っているとも。ね、リリン?」

「知ってる。羽が生えてるトカゲ」


「よく聞くセリフだが、それって間違った情報だからな!」

「ソクトさんに同意だよ、翼が生えているってだけってだけじゃ情報不足だからね」

「ん、お肉は堅いって聞いた。たぶん美味しくないと思う!」



 的外れな回答を自信たっぷりに答えたリリンサ。

 その平均的ドヤ顔を見たワルトナとソクトは、無言で視線を反らす。

 ドラゴンがいるという未曾有の緊急事態に備える為に、打ち合わせを始めたのだ。



「奥の森が危険な森だったというのは理解した。そしてその結界が破れているということも。だが、ドラゴンは不味いんじゃないか?」

「そうだねぇ、流石に100匹以上出てきたら、僕は逃げるかなー」


「……。私は、1匹出てきただけでも逃げたいんだが?」

「お一人でどうぞ。あ、今なら直ぐに、ランク8とかのカッコイイ獣が駆け付けてくれるから、寂しくないと思いますよ」


「進むも地獄。戻るも地獄……か。うん、私は前に進みたいかな」



 運命の取捨選択を迫られたソクトは、ドラゴンに会いに行く道を選んだ。

 ソクトは熟練の冒険者であり、様々な知識を身につけている。

 当然、ドラゴンに関する情報も複数持っているが、それは実体験を伴わず、フィクションに近いものでしかない。


 そんなソクトは、天を衝く火炎竜巻や、一息で大樹を倒木させるブレス攻撃などを想像して、謎のめまいに襲われている。



「だが、実際問題、ドラゴンなんて倒せるのか?相手は生きる大災害なんて呼ばれているんだぞ?」

「どのクラスのドラゴンなのかによりますけど、普通のは大丈夫です」

「うん。50mくらいならどうとでもなる!」


「……50m?何の話だ?」

「なにって、ドラゴンの大きさの話でしょ」

「うん、全長70mまでなら、狩った事がある!」



 ソクトの常識の範疇では、理解しがたい事を言いだしたリリンサ。

 その表情は明るく、隣のワルトナまでも、「70mのアイツは手強かった。名前付きの特殊個別脅威(ワン・メナス)だったし」と誇らしげに語る。


 あ、これ、常識が通用しない奴だ。と諦めたソクトは、自分達が被害に逢わない様に更に念入りに話を組み立てて行く。



「ワルトナ君達はドラゴンを倒せる。それで間違いないんだな?」

「そういうこと。なので、僕らはこのまま結界に向かって前進し、ドラゴンが詰まっている場所へと向かう事になります」


「……待て待て、ドラゴンが詰まってるってどういう事だ?」

「結界の穴はそこまで大きい物じゃないんです。で、そこを無理やり通ろうとしたドラゴンは穴に嵌ってしまって身動きが取れなくなってました」


「……。ドラゴンって馬鹿なのか?」

「結局トカゲですしねー」



 その場では話を流してしまったが、本心では、「最上位ドラゴンは滅茶苦茶頭が良くて、人間の言葉を普通に喋るって言わない方が良いだろうねぇ」と思っている。

 自身も出会った記憶はないが、そういった存在にはワルトナやリリンサでも勝てない可能性が高いと知っているのだ。

 ワルトナは、大教主・ディストロイメアーの実力的指導によって、世界には格上がいるという事を、身を以て教えられている。



「ま、結界に詰まってたドグマドレイクは僕らで十分に対処できるレベルだったから大丈夫」

「ちなみに、レベルはいくつだったんだ?」


「94352だけど?」

「レベル9万4千を大丈夫って言えるのはキミらだけだ。覚えておきたまえ!」


「いえいえ、シルストーク達も慣れ始めてると思いますよー」

「……。つい昨日までは、レベル2000代の蛇と戯れていたというのに、何が原因でこうなったんだ……?」



 ソクトとしては、奥に意味の無い嫌味を言ったつもりだった。

 返答が戻ってくるとは考えておらず、そもそも、原因は森の結界が破れてしまったという災害にあると思っている。


 だが、思いがけない答えがワルトナから放たれた。



「あぁ、原因はシスターヤミィールですよ」

「なんだって!?」


「破れた森の結界、あれは人為的に破られたものなんですよ。というか、基本的に結界って破れないようになってますし」

「大事件じゃないか!!だが、それにヤミィールが関わってるのはおかしいだろう?アイツは病人で、こんな森深くまで来れないぞ?」



 シスターヤミィールの容体は、非常に良くない。

 ヤミサソイの毒により内臓が蝕まれ、循環器に不具合が生じ始めているのだ。


 この世界にも、一応、回復魔法は存在している。

 だが、その効果は身体の治癒機能を高める程度の物であり、切断されてしまった身体を元に戻す事は出来ないし、壊れてしまった臓器を修復する様な事も出来ない。

 あくまでも、一般的な治療の補佐として存在しているだけであり、骨折を直したいのなら外科的治療が必要となり、病気を治したいのなら薬が必要になる。

 それらの治療を行う際に回復魔法を掛けると、処置の効能が上がるというだけなのである。


 だからこそ、一度容体が悪化してしまった人は、劇的な回復など望めない。

 それは世界の常識であり、ワルトナやリリンサであっても踏み倒せない秩序だ。



「病人だからさ。話は変わるけど……、シスターヤミィールの”シスター”にどんな意味があると思う?」

「意味?いや、意味も何も……。普通にシスター、神官的なものだろ?」


「表向きはそうだけど、真実は違う。彼女は暗劇部員あんげきぶいんといって、闇の組織の一員さ」

「なんだそれは!!まだ私を困らせたりないのか!?」


「うん!……という事で言うけど、シスターヤミィールは、あなたやナキさんよりもレベルが高いと思うよ」

「いい笑顔で、問題発言を言わないでくれたまえ!」



 暗劇部員とは、不安定機構が表立って行えない裏仕事を行っている実働部隊の事だ。

 簡単に言ってしまえば、公に出来ない様な悪事を働く事が必要になった時に、それを行う専属の冒険者のようなものだ。

 そして、その依頼内容は千差万別で、露店で窃盗をするという小さい事から、国の要人を誘拐し国家戦争の引き金を引いたりもする。


 場合によっては、直接的に人を殺したりもするこの暗劇部員について、ワルトナはしっかりと周囲の人物に語って聞かせた。

 これからその渦中に身を置く事になる彼らへ、一応誠意を見せておこうと思ったのだ。



「今回の事件で考えられる予想は二つ。一つは、シスターヤミィールがヤミサソイに刺されたのは自作自演の嘘であり、キミらを森へ縛り付けておく事が目的だった可能性」

「私達を森に……?それは何でだ?」


「森の結界を解き事故に見せかけて、キミ達を駆除する。表の顔役がいなくなる事で、エルダーリヴァーはヤミィールの支配下となる訳だね」

「つっ!!私達は騙されているというのか!?」


「ここに連鎖猪の角が100本以上もあるように、何かのきっかけがあれば薬を手に入れるのは難しい事じゃないんだよ」

「だ、だからって……」


「それが唯の冒険者だっていうんなら、不幸な話だねぇ。で終わる。だけど暗劇部員なら話は別だ。薬だって不安定機構の倉庫には大量に備蓄されているしね」



 あれだけ探し求めた薬が大量に備蓄されていると聞き、ソクトは卒倒しそうになった……が、なんとか耐えた。

 それは、ヤミィールへ抱いている感情があったからこそ成せたものだ。



「薬が簡単に手に張る状況なのに、ヤミィールは薬を手に入れよとしない。だから、薬が必要な状況そのものが嘘なのではないかと疑っている訳だな?」

「そういうことです」


「いや、それはない。シルストーク達は知らないだろうが、ヤミィールは吐血を繰り返している。朝起きると胃の中に血液が溜まっている程に病状は深刻なんだ」



 今まで静かに話を聞いていたシルストーク達は、息を飲んだ。

 体調が悪そうだとは知っていたものの、具体的な事は隠されていたからだ。

 今回ソクトが打ち明けたのも、薬の目処が立ったからであり、最期の瞬間まで孤児院の子供達には知らせないつもりでいたのだ。



「に、にいちゃん!ヤミィール姉ちゃん死んじゃうの!?せっかく薬があるのにもうダメなの!?」

「それは……いや、きっと大丈夫だ。なにせ、シルが用意してくれた連鎖猪の角で薬の依頼を出している。今頃は届いた薬を飲んでゆっくり寝ているよ」



 ソクトが言った事は、子供達を不安にさせない為の嘘だ。

 実際には薬が届いているかどうかは分からず、その薬があったからといって劇的に病状が変化する事はない。



「あぁ、大変だねぇ、難儀だねぇ。……だけど、もう既に手は打ってあるから安心しな」

「す、既に手を打ってある……だと?」


「今朝、僕は不安定機構の支部長宛てに手紙を出している。それは現状の報告と、この状況に対応する為の戦力の手配。そして……最近、噂になってる超凄腕の医者も呼んでいるよ」

「なに!!それは本当かッ!!」


「本当だねぇ。その医者が治せない怪我や病気は無いらしいよ?どんな状態からでも絶対に完治させるから『カミさま』って呼ばれてるくらいさ!」



 ワルトナが不安定機構から借りていると言っていた倉庫とは、支部長室の事だった。

 ソクト達がいなくなり暇になったワルトナとリリンサは支部長室に忍び込み、転移陣を設置。

 その結果、仕事をしていた支部長の目の前にブレイクスネイクが出現するという大事件が起きている。


 こんな悪戯をしたのは誰だッ!!と激怒した支部長は、その場にいた冒険者をすべて拘束。

 自宅や街にいた冒険者や、森へ依頼に出ていた全ての冒険者を呼び戻し、犯人捜しを行ったのだ。


 ソクト達が見逃されたのは、こんな事をするはずがないという信頼があっての事。

 だからこそ、犯人が見つかるはずもなく、夜通しそれは続いている。


 そして、再び大事件が起きてしまった。

 現場検証をするべく、キョウガと数名を引きつれて支部長室の扉を開いた一同は、机の上から鬼の形相で睨んできている連鎖猪の首を発見。


 まさに殺人現場そのものであり、混沌とし始めた場の空気と、むせかえる程の血の匂いが鼻をつく。

 そして、片付けを始めた一同を嘲笑うかのように、いつの間にか、1枚の手紙が添えられた。



**********



不安定機構の支部長様へ


 死にたくなかったら、街の全ての入り口を封鎖して、町民を一歩も外に出さないでおきたまえ。


 あぁ、これは市民を死なせたくなかったらという話でもあるけど、キミの為でもあるんだ。

 被害者が出れば、キミの更迭は免れない。

 というか死罪か奴隷落ちのどちらかだねぇ。


 なので、可及的速やかに、下記の連絡先に、以下の現状と要望を正しく伝える事。

 不安定機構・大教主ディストロイメアー直属の配下より。


『ハザードアラートの結界が破損し、ランク9の生物がシケンシの森に流入している。対応戦力として『鏡銀騎士団』の派遣を依頼したい。

 また、暗劇部員・ヤミィールを拘束し、治療を施した後で結界前に召致せよ。なお、速やかに治療を行う為に『カミさま』の参集も願う。』


 連絡先

 ・不安定機構アンバランス深淵アビス虚構礼拝堂ダウトチャペル、大聖母・ノウィン



**********



 こうして、未曾有の大災害が起こっているのにもかかわらず、人的被害はゼロのままとなっている。

 なお、その渦中にいる熟練冒険者達の心労は考慮していない。


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